DNAミスマッチ修復遺伝子の変異を原因とするリンチ症候群
東京科学大学(旧 東京工業大学)の研究グループは、リンチ症候群における大腸がんの進行に、腸内細菌が関連していることを明らかにしたと発表しました。
リンチ症候群は遺伝性の大腸がんの一つで、DNAミスマッチ修復(MMR)遺伝子と呼ばれる遺伝子の変異を原因とし、大腸がんや子宮内膜がんのリスクが報告されています。
大腸には腸内細菌と呼ばれる多種多様な細菌などの腸内微生物が常在します。腸内細菌は腸の健康状態に大きな影響を与えていると考えられており、大腸がんにおける腸内細菌の役割も解明されてきています。しかし、遺伝性大腸がんやリンチ症候群における腸内細菌の役割はまだ十分に明らかになっていませんでした。
研究グループは、リンチ症候群患者さんの腸内微生物や、代謝物(さまざまな生命活動によって作られる物質)の特徴を、大腸がんの進行段階ごとに解析し、腸内細菌とこの病気における大腸がんの関連を調べました。
リンチ症候群患者さんの腸内環境、IBDで見られる様な炎症性を示す
研究グループはまず、日本人のリンチ症候群患者さん71人の便サンプルの解析を行い、そこに含まれる微生物全体のゲノム(メタゲノム)と、代謝物の解析を行いました。リンチ症候群患者さんの大腸がんの進行段階ごとに、大腸にできる良性のポリープであるアデノーマもしくはがんの形成歴がないグループ(LS-CTR)、アデノーマのあるグループ(LS-ADE)、大腸がんのグループ(LS-CRC)、過去にがん形成による結腸切除を受けたグループに分類し解析しました。また、リンチ症候群ではない大腸がん患者さんからも同じようにデータを取得しました。
その結果、リンチ症候群患者さんの腸内微生物では、リンチ症候群ではない患者さんと比べて、個人内の腸内細菌種の多様性の低さや、さまざまな疾患によって減少することが報告されている「フィーカリバクテリウム」という種類の菌の少なさが観察されました。これらは炎症性腸疾患(IBD)でも見られることが知られており、リンチ症候群患者さんの腸内環境における炎症性を示していると考えられました。
また、特にLS-CRCグループの腸内では、フソバクテリウム・ヌクレアタムとその毒性因子であるfap2が見られ、この細菌の増加は大腸がんの発生後に起きたと考えられました。フソバクテリウム・ヌクレアタムは、口腔細菌の一種で、大腸がんにおける増加傾向が報告されており、治療効果、腫瘍の悪化などとの関連も報告されています。また、リンチ症候群の大腸がん患者さんの腸内において、腸内細菌と関連したアミノ酸の代謝の変動も確認されました。
これらのデータから、リンチ症候群患者の大腸がん患者では特定の細菌が増加しており、この細菌が大腸がん発生後の免疫調整や治療に対する耐性に関わっていることが予測され、リンチ症候群の大腸がん進行において、腸内細菌が重要な役割を果たしていることが明らかになりました。
研究グループは、今回の発見はリンチ症候群患者さんの腸内細菌をターゲットとした新しい治療法や代謝変動早期発見の一助になると期待される、と述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)