ジストロフィンタンパク質の欠損により筋力低下が進行するDMD
京都大学iPS細胞研究所(CiRA)を中心とした研究グループは、筋ジストロフィーの細胞治療効果を長期的かつ高精度に評価する方法を開発したと発表しました。
筋ジストロフィーは、遺伝子の変異によって筋肉の機能に必要なタンパク質が作られず、筋肉の弱化と萎縮を引き起こす遺伝性疾患です。筋ジストロフィーのいくつかのタイプの中で、特に小児期に最も多く発症するデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)では、ジストロフィンというタンパク質が作られず骨格筋の弱化が進行し、心肺機能や歩行機能が悪化していきます。
現在、DMDの治療は主にステロイド療法とリハビリテーションが行われますが、これらは進行を遅らせる効果はあるものの根本的な治療とはなりません。現在、新しい治療法としてアンチセンス核酸を利用したエクソンスキップ治療や遺伝子治療などが試みられていますが、まだこの病気に対する完全な治療法とはなっていません。
DMDの新たな治療法開発においては、再生治療として正常なジストロフィンを持つ細胞を移植する方法が注目されています。これまでの研究において、ジストロフィンタンパク質を作ることができないように遺伝子改変しDMDを再現したマウス(DMDモデルマウス)の筋肉において、細胞治療によるジストロフィンタンパク質の補充により筋肉機能が改善されたことが報告されています。しかし、この筋肉機能改善は筋肉の収縮力などをもとに評価されており、患者さんに対して長期間にわたりどの程度運動機能改善効果が見られるのかについては、評価するための信頼できる基準が確立されていませんでした。
筋力を「最大収縮トルク」で測定する評価法
研究グループは、細胞療法がDMD患者さんの運動機能改善効果を持つかどうかを評価できる基準を開発するため、DMDモデルマウスに健康な人の筋芽細胞を移植しジストロフィンを補充した後、いくつかの方法を用いて治療効果を評価しました。
まず、DMDマウスの筋力低下について、最大収縮トルクと呼ばれる、筋肉が最大限に力を発揮した時の回転力(トルク)を測定したところ、未治療のマウスと移植したマウスで筋力に有意な差は見られませんでした。
この評価法で治療後に持久力の高い筋線維の増加を確認
次に、筋疲労耐性の改善を評価するため、マウスにランニングをさせる実験を実施。ランニング直後と休息時の筋力を最大収縮トルクで測定し、比較した値から筋疲労耐性を評価しました。その結果、未治療のDMDマウスではランニング後の最大収縮トルクが著しく低下し、筋疲労耐性も低下したのに対し、移植したマウスでは最大収縮トルク減少が抑制され、筋疲労耐性も高く保たれました。
筋力測定を行った後、筋組織を採取し、組織の詳細を調べたところ、細胞移植を行ったDMDマウスでは、ジストロフィンが補充されており、補充された筋線維の数が10%以上の場合、重度の筋力低下を防ぐ効果があることもわかりました。
また、ジストロフィンを補充したDMDの筋肉では、持久力に優れるタイプの筋線維が有意に増加していることや、補充した筋線維でミトコンドリア活性が向上していることも判明。これらの結果から、新たに開発された評価方法により細胞治療によるジストロフィンの補充がDMDの筋肉機能を改善することが示されました。
研究グループは、これらの発見は、DMDの病態理解と治療法の開発に大きく貢献することが期待される、と述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)