点字の試験、通常の試験時間1.5倍延長では不十分?
筑波大学は、視覚障害がある受験者に対する入学試験の合理的配慮(点字による出題・解答と1.5倍の時間延長)は、複雑な表の読み取りが必要な試験では不十分だとわかったと発表しました。
現在、大学入学共通テストでは、視覚障害がある受験者には点字による試験問題の提供と通常の試験時間の1.5倍の延長が認められています。一方で、近年、図表を用いた出題の増加や問題の複雑化など、試験内容の質が変化しています。
一般的に、点字使用者が図表を読み取る際には多くの時間がかかります。図表を用いた出題が多い場合、「試験時間の1.5倍の延長」を見直す必要があることが指摘されています。しかし、複雑な図表を含む試験に関する検討は、これまで行われていませんでした。
文章のみ+表形式読み取りを含む課題で評価・比較
そこで今回の研究では、16~26歳までの通常の文字を使用する視覚障害のない生徒や学生20人/点字を使用する視覚障害のある生徒や学生20人を対象に、調査を行いました。参加者は、計4つの課題(文章のみで構成される課題1つ、表形式の読み取りを含む課題3つ)に取り組みました。
課題1では文章の読み取りに要した時間、課題2〜4については出題された問題の該当箇所を表から探し解答するまでの時間を測定しました。なお、課題2〜4は課題番号が上がるにつれて情報量が多くなり、難易度が増しています。4つの課題はそれぞれ、通常の文字と点字で同じ内容のものを用意し、通常の文字使用者に対しては通常の文字で用意した課題を、点字使用者に対しては点字で用意した課題を提示しました。
点字使用者、表形式読み取り速度のばらつき大きい
研究の結果、通常の文字使用者は全員時間内に課題を達成できました。一方、点字使用者は、文章形式の課題では1.5倍の時間内で70%が、2倍の時間内で全員が課題を達成できました。表形式の課題では、全員が1.5倍や2倍の時間内では課題を達成することはできませんでした。
さらに、点字使用者の特徴として、通常の文字使用者と比べて表形式の読み取り速度のばらつきが大きいこと、文章形式の点字の読み取りの速さと表形式の点字の読み取りの速さは相関しないことの2点が明らかになりました。
障害の有無を問わない能力測定のための試験方法検討を
今回の研究結果から、表の読み取りを必要する試験では、現行の時間延長では点字使用者への合理的配慮が不十分であることがわかりました。一方、長時間の試験による疲労を考えると、さらなる時間延長がこの問題の解消につながるとは言えない、と研究グループは述べています。試験時間の延長だけではなく、複雑な表を可能な限りシンプルにするほか、触って理解する手段やプロセスを考慮することが望まれます。今後、このような配慮内容の再検討に加えて、障害の有無を問わず一人ひとりの能力を適切に測るための試験方法の検討を進める予定だとしています。(遺伝性疾患プラス編集部)