腎臓機能障害のほか、難聴・眼球異常などが見られる
筑波⼤学を中心とした研究グループは、アルポート症候群のモデルマウスの病変を可視化し、その画像データからAIによって病変の自動検出を可能にする技術を開発したと報告しました。
アルポート症候群は、腎臓機能障害、感音性難聴、眼球異常などの症状が見られる遺伝性疾患です。アーサー・セシル・アルポート医師が家族性腎炎家系を報告したことからこの病名が付けられました。腎臓機能障害は、初期は血尿、次第にタンパク尿が出て、進行すると末期腎不全となり、透析や腎臓移植などの腎代替療法が必要になります。
アルポート症候群では、4型コラーゲンの一部を構成するタンパク質の設計図となるCOL4A5遺伝子(X連鎖顕性遺伝形式)、COL4A3(常染色体潜性遺伝形式)、COL4A4遺伝子(常染色体顕性遺伝形式)の変異が原因として明らかになっています。4型コラーゲンは、腎臓において、尿をつくるために重要な役割を果たす「糸球体基底膜」と呼ばれる構造の構成成分の1つとして働きます。
この病気の3つの遺伝形式のうち、全体の8割以上を占めるX連鎖性遺伝形式のアルポート症候群では、男性患者さんは小児期早期から血尿が見られ40歳までに末期腎不全に至るとされ、難聴や眼球異常も小児期後半から成人期前半に現れることが明らかになっています。その一方で、女性患者さんについては、約15%が40歳までに末期腎不全になるというデータが明らかにされていますが、腎予後を予測する指標はまだわかっていません。研究グループは、予後を予測することが可能であれば、腎臓を保護する降圧剤などの早期介入などを行う上で有効な手法となると考えました。
AIで診断した病変の定量値、タンパク尿濃度と正の相関示す
今回研究グループは、ヒトアルポート症候群のCOL4A5遺伝子変異を持ち、病態を模倣するモデルマウス(AXCC マウス:Axcelead社製)を用いて、オスとメスの腎障害を比較しました。その結果、メスはオスに比べて腎障害に差が大きく、腎障害をほとんど示さない個体から、オスと同じような腎障害を示す個体まであることが明らかになりました。病理学的には、女性患者さんと同様に正常な糸球体基底膜に発現するCOL4A5が保たれている部分と欠失する部分とがモザイク状になっていることが確認されました。
そこで研究グループは、糸球体基底膜を観察するための特別な染色法を開発し、この方法でメスマウスの腎臓組織の構造とCOL4A5の関係を確認しました。その結果、COL4A5が保たれている糸球体基底膜は正常な構造でしたが、COL4A5が欠失している糸球体基底膜は粗い構造(Basket weave病変)となっていることがわかりました。
そこで、この特別な染色法を用いて染色した腎組織切片の画像をデータ化し、病理画像解析AIソフトに学習させ、Basket weave病変を自動検出する方法を開発しました。AIで診断したメスマウスのBasket weave病変の定量値は、タンパク尿濃度と正の相関関係を示したことから、この手法が、女性のアルポート症候群患者さんの腎臓機能の予後予測に有用であると示唆されました。
研究グループは、この手法は、アルポート症候群の病理解析だけでなく、他の腎臓病の解析や診断などへも適用が期待される、と述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)