臓器のミトコンドリアDNA量減少により引き起こされる病気
順天堂大学を中心とした研究グループは、全ゲノム解析やRNAシークエンスを用いて、従来の遺伝子診断法では未確定となっていた神経-肝型ミトコンドリアDNA枯渇症についてMICOS10遺伝子の変異を世界で初めて発見し、原因の特定に至ったことを報告しました。
ミトコンドリア病は、細胞内小器官であるミトコンドリアの機能異常によって引き起こされる疾患の総称です。この疾患の発症年齢や症状、遺伝形式は多岐に渡り、臨床的・遺伝的にも診断が非常に難しい疾患です。ミトコンドリアDNA枯渇症は、ミトコンドリア病の一つで、ミトコンドリアDNA量が臓器で減少することが特徴です。肝臓型や神経型、筋型、心筋型のミトコンドリアDNA枯渇症が報告されています。
研究グループは、肝臓と神経に主な症状が見られ、肝臓でミトコンドリアDNA量の低下が観察されミトコンドリアDNA枯渇症と診断されたものの、ミトコンドリア病の従来の遺伝学的検査において遺伝的な原因がわからず未解決となっていた患者さんを対象として、全ゲノム解析およびRNAシークエンスを行いました。
ミトコンドリアDNA枯渇に新規治療薬MA-5が有効である可能性
今回研究グループは、全ゲノム解析の実施により、MICOS10と呼ばれる遺伝子の領域に異常を発見しました。MICOS10遺伝子は、MICOS複合体と呼ばれる、複数のタンパク質からなる大きな分子の一部を構成するMIC10タンパク質の設計図として働きます。このMICOS複合体は、ミトコンドリアにおいて、クリステと呼ばれる複雑に折りたたまれた内膜の形成に不可欠です。
通常、ヒトは両親それぞれから染色体を受け継ぎ、2つの遺伝子のコピーを持っています。今回の解析の結果、MICOS10遺伝子の一方では、c.173G>C(p.Cys58Ser)というタンパク質のアミノ酸の変更を伴う遺伝子変異が発見されました。予測解析の結果、この変更されたアミノ酸はMIC10タンパク質の立体構造形成に重要であることがわかり、作られるMIC10タンパク質の機能が大きく損なわれている可能性が示唆されました。また、もう一方の染色体では、MICOS10遺伝子領域においてエクソン1を巻き込む欠失が発見され、このMICOS10遺伝子は働いていないことがわかりました。
さらに、患者さん由来の細胞実験において、作られるMIC10タンパク質の量が著しく減少していることも明らかになりました。MIC10の減少や異常は、ミトコンドリア内膜の構造に大きな影響を与えると示唆されました。
以前の研究では、MICOS複合体に関わりのあるMICOS13遺伝子が神経-肝型ミトコンドリアDNA枯渇症の原因として報告されていました。今回、新たにMICOS10遺伝子の異常が報告されたことにより、MICOS複合体とミトコンドリアDNA枯渇症の関連が深いことが裏付けられました。これらの結果から、ミトコンドリアのクリステ形成が、ミトコンドリアDNAの維持に重要であると考えられました。
研究グループは、「現在、ミトコンドリアクリステ形成を促進するMA-5が新規治療薬として期待されているが、今回の研究成果からこの治療薬がミトコンドリアDNA枯渇に対しても効果を発揮する可能性がある」と述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)