出生前に発症し、進行性の筋力低下を引き起こす
米国セントジュード小児研究病院の研究グループは、脊髄性筋萎縮症(SMA)に対する初の出生前治療(胎児治療)を行い、有望な結果が得られたことを報告しました。
SMAは、出生前に発症する神経変性疾患です。SMN1遺伝子の変異により「survival motor neuron(SMN)」タンパク質が欠乏することで引き起こされます。最も患者さんが多く重篤な病型であるSMAI型は、進行性の筋力低下を引き起こし、適切な治療が行われなければ命に関わることもあります。現在、この病気の治療薬について、出生直後の症状発現前に投与することで乳児の生存率や運動機能を改善することが実証されていますが、根本的な治療法とはなっていません。
研究グループは、SMNタンパク質が最も必要となるのは胎児が発育する第3期と呼ばれる時期と、出生後3か月間であることに着目し、患者さんの症状の重症度は、治療を受けた時点と密接に関連していると考えました。今回、1人のSMAI型を患う胎児患者さんを対象に、子宮内での治療を行う臨床研究を実施しました。
出生後、治療薬投与前に発生した心室中隔欠損・視神経低形成などが見られる
治療を受けた胎児患者さんの両親は、どちらもSMAの原因遺伝子を持つ保因者であることがわかっており、以前にSMAI型を発症して生まれた赤ちゃんを16か月で亡くしていました。患者さんは治療前に行われた羊水穿刺による遺伝学的検査において、SMN1遺伝子のコピーがないことや家族歴などから、SMAI型を発症する可能性が高いと判断されました。妊娠最後の6週間に、母親である妊婦さんに対しリスジプラム(製品名:エブリスディ)が投与されました。
出生後、心室中隔欠損、視神経低形成、脳幹非対称とそれに伴う視力と全体的な発達の遅れが見られました。心室中隔欠損は治癒しました。これらの症状はリスジプラムが投与される前において、胎児の発達初期に発生したと考えられています。
患者さんは2歳半までSMAの症状がほとんど見られず、現在も定期的に検査を受け続けていることが報告されました。
この研究は、SMAの出生前治療が実現できる可能性を示し、この治療方法のさらなる調査研究が行われる必要性を示している、と研究グループは述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)