トランスサイレチン型心アミロイドーシス、「ブトリシラン」が臨床試験で有望な結果

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. トランスサイレチン型心アミロイドーシス(ATTR-CM)は心臓に機能不全を起こす
  2. ATTR-CMに対する臨床試験で「ブトリシラン」の有効性と安全性が確認された
  3. 臨床試験の結果に基づき、2025年後半から各国で承認申請を開始する予定

トランスサイレチン型心アミロイドーシスに対する効果を検証

アルナイラム社は、トランスサイレチン型心アミロイドーシス(ATTR-CM)を対象とする臨床試験で「ブトリシラン」(vutrisiran)が良好な結果を示したと発表しました。

ATTR-CMは、トランスサイレチンというタンパク質が異常な形(アミロイド)に変化し、心臓に蓄積する病気です。遺伝子の変異が原因で起こる「遺伝性ATTR-CM」と、遺伝子変異なしに発症する「野生型ATTR-CM」の2つのタイプがあります。ATTR-CMが進行すると心不全や不整脈などを起こし、命に危険がおよぶことがあります。

ブトリシランは、トランスサイレチンの設計図となる遺伝子の働きを阻害するように設計されたsiRNA製剤と呼ばれるタイプの薬です。日本では、2022年にトランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーの治療薬(製品名:アムヴトラ)として承認されています。

今回行われた「HELIOS-B試験(NCT04153149)」は、遺伝性または野生型ATTR-CMの患者さん655人を対象にブトリシランの有効性・安全性を評価した第3相臨床試験です。参加者は3か月ごとにブトリシラン25mgまたはプラセボの皮下投与を受けました。

ブトリシランにより死亡リスクが大幅に減少、既存の薬との併用効果も確認

全参加者のデータを解析した結果から、ブトリシランの投与によって主要評価項目(死亡率と心疾患の再発率を合わせた指標)がプラセボに比べて28%減少することがわかりました。死亡率だけを見ると、33~36か月目までに31%、42か月目までに36%減少しました。また、ブトリシラン投与群では、病気の重症度や体力、QOLなどを示す副次評価項目においても、統計的に有意な改善が認められました。

参加者の中には、他の薬で治療中の患者さんもいたため、その影響を検証する詳しい分析が行われました。その結果、ブトリシランのみの効果として、主要評価項目の33%減少、42か月目までの死亡リスク35%減少が確認されました。また、既存のATTR-CM治療薬であるタファミジス(tafamidis)と併用しても、主要評価項目および副次評価項目の両方で効果が見られました。さらに、ブトリシランの効果は、病気の早期段階にある患者さんでより高い傾向があることもわかりました。

今回の試験において、ブトリシランはこれまでの結果と同様の安全性プロファイルを示しました。

同社は「米国食品医薬品局(FDA)への優先審査品目を使用した新薬承認申請を含め、2025年後半からブトリシランの国際的な承認申請を開始する」と、述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)

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