15番染色体異常と関連するウイルス由来遺伝子に着目
東京科学大学を中心とした研究グループは、マウスにおいてレトロウイルス由来の遺伝子Rtl8a、Rtl8bが、成体期における肥満、運動性の低下、社交性の低下、うつ様症状に関与する重要な働きを持つこと、そしてそれらの遺伝子のノックアウトマウスが、プラダー・ウィリ症候群の優れたモデルマウスとなる可能性を明らかにしたと報告しました。
プラダー・ウィリ症候群は、15番染色体の一部の領域が、母親性2倍体(片親性2倍体)になることで発症します。生まれてすぐの頃(初期)は生育不良などが見られ、後期は肥満、特徴的な行動異常などが引き起こされます。疾患の発症機序解明や新規治療薬の開発には、その疾患の症状などを再現できるモデルマウスが有用ですが、プラダー・ウィリ症候群では、これまでに後期症状を再現するモデルマウスは報告されていませんでした。
近年、アンジェルマン症候群において、神経細胞でウイルス由来の遺伝子であるPEG10遺伝子とRTL8遺伝子が過剰に働く可能性が報告され、これらの遺伝子が同疾患と関連すると示唆されていました。ヒトを含む哺乳類のゲノムDNAの中には、かつて感染したウイルス由来の遺伝子が変異し、新しい機能を持った遺伝子として使われるようになったものがあり、研究グループは、そのようなウイルス由来の遺伝子について研究を進めてきました。
アンジェルマン症候群とプラダー・ウィリ症候群は、いずれも15番染色体の同じ領域の変化が原因です。RTL8遺伝子はこの領域のUBE3A遺伝子によって制御されているため、プラダー・ウィリ症候群でもRTL8の発現が影響を受けると考えられました。
研究グループはマウスにおいてRTL8タンパク質の設計図となりうるRtl8a、Rtl8b、Rtl8c遺伝子の機能を明らかにするため解析を行いました。
脳のGABA受容体減少が行動異常の原因となる可能性
Rtl8a、Rtl8b、Rtl8cはマウスにおいてX染色体上にクラスターを形成する3つの相同遺伝子ですが、これらがなぜ3つ存在しているのか、またその具体的な機能については明らかになっていませんでした。
マウスにおいて、Rtl8aとRtl8bを欠失させたところ、成体期から体重が増加し、肥満症状を示しました。また、活動性の低下、社交性の低下、うつ様行動などの異常も観察されました。このマウスの症状は、プラダー・ウィリ症候群の後期症状の特徴と非常に似ており、Rtl8aおよびRtl8bを欠失させたマウスは、モデルマウスとして疾患研究に寄与する可能性があります。
これらの遺伝子が設計図となるRTL8aとRTL8bタンパク質は、脳の大脳皮質と視床下部で強く発現しているため、欠失マウスの異常な表現型はこれらの脳領域の機能不全によるものと考えられました。そこで、これらのマウスの前頭前野の遺伝子発現解析を行ったところ、抑制性神経伝達物質で神経疾患に関連するγーアミノ酪酸(GABA)の受容体GABRB2の発現が低下していることが示され、さまざまな行動異常の原因となっていると考えられました。(遺伝性疾患プラス編集部)