難病者の社会参加を考える研究会「オンライン報告会2023」、企業側との対話を円滑に進めるために

遺伝性疾患プラス編集部

難病の当事者は、就労・社会参加の機会を思うように得られない場合があります。その理由は、病気の認知度の低さから企業側の理解を得られないなど、さまざまです。このような現状に課題意識を持ち、就労・社会参加の機会向上などを目指して活動しているのが「難病者の社会参加を考える研究会」です。同会は、2018年に当事者・支援者、医療従事者・研究者、企業が集まり発足しました。

同会は、5月20日に『難病者の社会参加を考える研究会~オンライン報告会2023~』を開催しました。今回の記事では、活動報告の内容とあわせて「難病者の合理的配慮を考える」をテーマとした講演をご紹介します。

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活動報告と2023年度に向けて

まず、第1部では2022年度の取り組みが報告されました。主に、難病者の雇用に関する調査解析、啓発活動、アドボカシー活動などの活動とともに、6件の就労支援を行ったということです。また、難病の当事者の「働く」を可視化するオンラインイベント「はたらく難病ラボ」を開催。2022年度も、さまざまな当事者の働き方を知る機会を提供したことが報告されました。

続いて、2023年度はこれらの事業の継続に加えて、新たな研究テーマを掲げています。それは、「難病者のおかれた就労環境の汎用的な鳥瞰(ちょうかん)図の作成」「難病者の“トリセツ(取扱説明書)”案づくり」です。難病の当事者を取り巻く環境や必要としている支援について、企業側へ具体的に伝える手段として期待されます。

合理的配慮とは?当事者の困りごとに対して可能な限り配慮を

第2部は、【基本編】「『難病者の合理的配慮を考える』~それって差別されているかもしれません~」。登壇者は、弁護士/社会福祉士・難病の当事者である青木志帆さんと、15歳の頃から原因不明の症状が現れているものの、まだ未診断だという谷田朋美さんのお2人でした。

皆さんは、「合理的配慮」という言葉をご存知でしょうか?障害や病気のある人が社会生活で必要とする対応について、社会が配慮することです。「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)」により、当事者それぞれの困りごとにあわせて可能な限り対応することが、学校・企業などの事業者に求められています。この講演では、青木さんが「難病者の合理的配慮」をテーマにお話しされました。

「合理的配慮」を受けるために大切な2つのポイント

まず、「合理的配慮の提供を受ける手順」は、大きく3つあります。

  • 見える化:障害・難病の当事者が「障害・病気を理由に困っている」状況を可視化する。
  • 話し合う:合理的配慮の提供の内容ついて話し合う。一般的に「過重な負担」に当たらないか?など。
  • 確定:話合いの結果、合理的配慮の内容を確定する。

続いて、合理的配慮の提供を受ける際には、注意すべき大切なポイントが2つあります。1つ目は、「自分の病気と体のアセスメントを行うこと」です。具体的には、「どの程度の業務量になると体調を崩しやすいかをご自身で把握すること」と、青木さん。把握が難しい場合には、「この症状が現れ始めると注意が必要」など、体調が崩れる時のサインをつかむ意識をしましょう。

2つ目は、「どうしてほしいかを言語化し、はっきりと伝えること」です。難病の場合、職場の方々が、そもそも「どういった病気か?」を知らないケースが多いと思います。そのため、当事者自ら伝えることが大切になります。その際のポイントとして、「病気の詳しい説明よりも、どういう時にどうしてほしいかを伝えること」と、青木さん。同会が2023年度に作成を予定している「難病者の“トリセツ(取扱説明書)”案」は、当事者が企業側へ伝える手段の1つとなりそうです。

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「どうしてほしいかを伝えること」がポイント(写真はイメージ)

企業との対話は、産業医などと一緒に

それでは、企業との話し合いの場において、当事者はどのようなことに気を付けたら良いのでしょうか?青木さんと谷田さんは、話し合いを円滑に進めるためのポイントの1つとして「話し合いの場に、産業医などにも同席してもらうこと」を挙げました。第三者を巻き込むことで、対話が進むケースもあると言います。また、産業医などの医療従事者であれば、より当事者の状況を理解しやすいと考えられます。

その他、当事者の相談先として、公共職業安定所(ハローワーク)の難病患者就職サポーターも紹介されました(難病患者就職サポーターについては、コチラの記事もあわせてご覧ください)。

一方で、企業側の状況によっては、難病の当事者が求める配慮を全て叶えることが難しい場合もあります。どのような内容であれば対応可能かについて、企業側と話し合ってみることは、その解決の一手段になり得ます。こういった対話の積み重ねが、働きやすさの実現につながっていきそうだと感じました。

オンライン報告会当日のアーカイブ動画や、今回登壇された方々の事前公開動画などは、NPO法人両育わーるどのウェブサイト「りょういく」で公開されています。今回の記事では、第1部と第2部を中心にご紹介しました。第3部【実践編】「『誰もが働ける環境づくり』~難病者の就業事例~」、第4部【未来編】「『AI時代の働き方』~働く必要はある?ない?~」の詳しい内容が気になる方は、ぜひ動画をご覧ください。(遺伝性疾患プラス編集部)

難病者の社会参加を考える研究会事務局NPO法人両育わーるどYouTubeチャンネル

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