難病者の社会参加を考える研究会オンライン報告会、当事者が働きやすい社会をつくるために

遺伝性疾患プラス編集部

難病者の社会参加を考える研究会は、6月12日に『難病者の社会参加を考える研究会#2』オンライン報告会を開催しました。同会は、難病のある人の就労・社会参加の機会向上などを目指し、当事者・支援者、医療従事者・研究者、企業が集まり発足した会です。当事者の実態調査、就労事例作り、「難病のある700万人の社会参加の機会向上」に向けた理解啓発とアドボカシー活動を行っています。

これまでの主な活動として、難病者の雇用に関する全自治体調査や、難病者の働き方を可視化するイベント「はたらく難病ラボ」の共催などを行ってきました。また、「難病者の社会参加白書」を発行し、啓発活動なども行ってきました。

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難病者就労のハードル、その解決に向けて

報告会では最初に、難病者の社会参加を考える研究会の発起人・重光喬之さんが講演しました。これまでに実施した調査によって「難病者の就労のハードルと選択肢にはさまざまなものがある」ことなどがわかったと言います。「就労における障壁」として、以下のような例が紹介されました。

  • 難病というだけで敬遠される
  • 治療と仕事の両立が難しい
  • 体調により稼働時間が限られる
  • 症状が安定せず予定が立たない 等

また、「雇用につながらなかった理由」としては、以下の例が挙げられました。

  • 治療・療育により長い空白期間ができた
  • 正社員を希望するが体調的に難しい
  • 雇用者に疾患を理解(・配慮)してもらえるか不安 等

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このような状況を踏まえ、難病者の社会参加を考える研究会では今後、難病者の働き方のデータベース化を進めて、理解の啓発につなげていくそうです。また、難病者の就労の事例づくりも引き続き継続していくとの方針を示しました。

その他、アドボカシー活動(社会課題解決のための政策提言や広報活動)としては、「抜け漏れのない新しい社会モデル(判断基準)の策定」「自治体単位の先行事例づくり」に取り組むことを挙げています。

難病者の雇用機会を増やすために、当事者ができることは?

続いて、重光さんと、一般社団法人日本難病・疾病団体協議会代表理事の吉川祐一さん、筋ジス活動家・YouTuberの鳥越勝さんによるフリートークが開催されました。

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テーマとして挙がったのは、「社会で難病者の雇用機会を増やすために、当事者ができること」。その一つとして話題になったのは「病気の公表」です。数年前までベッカー型筋ジストロフィーを持つことを周囲に隠していたという鳥越さんは「隠していた時より、公表している今のほうが、気持ちが楽になった」と述べました(鳥越さんのお話はコチラの記事からも)。また、吉川さんも、「公表することが、理解につながることもある」とコメント。自身の気持ちが楽になるだけでなく、人間関係の構築やコミュニケーションを密にすることにつながるのではないかと話しました。

就労に対する考え方への工夫として、重光さんは「ちょっとやってみてダメだったら、次もあると考えること」と紹介。例えば、就職に際しさまざまな条件を求めたくなりますが、全ての条件をクリアできるような就職を一回で成功しないといけないわけではありません。正社員を目指している方の場合であれば、まず非正規社員として入り、正社員への雇用の機会をうかがうなど、柔軟な考え方が解決策の一つになるのではないかと紹介しました。

リモートワーク導入が進んだコロナ禍、さまざまな当事者の声

後半では、「多様で柔軟な働き方を考える」と題して、さまざまな当事者によるパネルディスカッションが開催され、ファシリテーターは中央大学大学院教授、多摩大学大学院特任教授、名古屋大学未来社会創造機構客員教授で、総合内科専門医の医師・真野俊樹先生が務めました。

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まず、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、以前よりもリモートワークの導入が進んだことが話題に挙がりました。四六時中体調不良に見舞われる、原因不明の病と向き合う谷田朋美さんは、「リモートワークの導入が進んだことで、自宅で出来る仕事と職場に行ってする仕事を精査できるようになった」とコメント。休職を経験し、現在、症状との折り合いをつけながら新聞記者として活躍しています。

クローン病(詳細は、QLife「IBDプラス」をご覧ください)の当事者・森一彦さんは、現在、障害者の就労支援を中心にソーシャルビジネスを展開する株式会社ゼネラルパートナーズで働いています。リモートワークの導入について「難病の当事者はもちろん、子育て世代や親の介護を向き合っている人など、さまざまな事情を持つ人の働きやすさにもつながる」として、これからも残していきたいとしました。

障害や難病のある人がよりよく働くために、周囲や社会ができることは?

続いてテーマに挙がったのは、「障害や難病のある人がよりよく働くために、周囲や社会ができること」。まず、「労働の本当の価値は、自分の居場所をつくれることにある」と述べたのは天畠大輔さんです。天畠さんは、若年性急性糖尿病で救急搬送された際に心停止を起こし、四肢まひ、発話障害、視覚障害、嚥下障害の後遺症が起きたそうです。現在は指定障害福祉サービス事業所「株式会社Dai-job high」代表取締役、立命館大学専門研究員、一般社団法人わをん代表理事を務めています。障害を持ってからは、「他の人と同じように働けない自分には、居場所がない」と思ってきたという天畠さん。そこからご自身の会社を立ち上げ、今では会社が居場所となったのだそうです。「労働の価値は金銭に置き換えられることが当然とされる今、社会とのつながりを感じられる居場所としての価値について見直されてほしい」とコメントしました。

東京大学先端科学技術研究センター准教授の並木重宏先生は、「難病でなかった時と同じように働けるようにする」「当事者が難病であることをオープンにできるようにする」ということを挙げました。並木先生は、神経難病を発症し(現在も未診断)、症状の進行により歩けなくなったことで、生物学者の道をあきらめた経験をお持ちです。現在は車いす利用者として、バリアフリーやインクルーシブデザインに関わる研究を行っています(並木先生のお話はコチラの記事からも)。

特に、難病であることをオープンにすることに対しては「難しい」と感じている方も多いかもしれません。ファシリテーターの真野先生は「難病の場合、(認知度が低いために)説明してもわかってもらえないことがある。その場合は、まず今のご自身の状況をわかってもらうこと」と補足しました。難病への理解を得ることが難しい場合は、まず「どのような症状や障がいを持っているか」「どのようなサポートを必要としているか」といったことから理解してもらえるように働きかけてみてはいかがでしょうか。

オンライン報告会当日のアーカイブ動画や、今回登壇された方々の事前アーカイブ動画などは、NPO法人両育わーるどのウェブサイト「りょういく」で公開されています。詳しい内容を確認されたい方は、ぜひ動画もご覧ください。(遺伝性疾患プラス編集部)

難病者の社会参加を考える研究会事務局NPO法人両育わーるどYouTubeチャンネル

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