患者会の設立や運営の継続が難しかったり、孤立する当事者やご家族がいたりするなど、希少難病を取り巻く課題はさまざまです。そういった当事者支援のために幅広く活動を行うのが、今回お話を伺った一般財団法人健やか親子支援協会です。
これまで、当事者やご家族のお悩みと丁寧に向き合ってきた健やか親子支援協会。その活動は、患者会への支援活動だけでなく、患児ファミリー向けの就労支援、小児希少難病の精査診療機関検索サイトの構築など、多岐にわたります。最近では、患者会の立ち上げから運営の支援を目的としたクラウドファンディングも実施。当事者だけでなく、一般の方々からも多くの反響があったそうです。
健やか親子支援協会は、孤立する希少難病の当事者やご家族を一人でも減らすために、実際どのような取り組みを行っているのでしょうか?同協会専務理事の川口耕一さんにお話を伺いました。
団体名 | 一般財団法人健やか親子支援協会 |
対象疾患 | 小児の希少難病 |
対象地域 | 全国 |
会員数 | (※会員制ではない) |
設立年 | 2015年 |
連絡先 | 「メール」info@angelsmile-prg.com 「電話」03-6673-0662 |
サイトURL | https://angelsmile-prg.com/ |
SNS | |
主な活動内容 | 小児希少難病や障がいを抱える子ども家庭への支援活動を行う。「赤ちゃんみんなのハンドブック(新生児マススクリーニング)」の作成・配布、患者会への支援活動、患児ファミリー就労支援、難病や障がいを抱える子ども家庭へのセーフティネットの展開、医療検体専用輸送サービス、小児希少難病の精査診療機関検索サイトの構築など、幅広く活動中。 |
全ての子どもたちが健やかに育つ社会の実現へ向けて、さまざまな疾患当事者を支援
活動を始めた経緯について、教えてください。
「全ての子どもたちが健やかに育つ社会の実現」へ向けてアクションを起こすために、2015年に当協会を設立し、活動を始めました。
まず、新生児マススクリーニングや難病などにかかわる情報提供活動のお手伝いをしています。この活動を行う中で、「当事者が抱える悩みを解決するお手伝いをしたい」と考えるようになりました。当事者やご家族のお話を伺う中で感じたのは、「どこで検査してもらえるのかわからない」「どこに専門医がいるかわからない」など、情報不足により、さまざまなお困りごとがあるということです。そういった一つひとつのお悩みと向き合うために、幅広い支援活動に取り組みたいと考えました。そのため、当協会では、指定難病など疾患を限定せず、さまざまな疾患の当事者への支援を行っています。
特に、患者さんの数が少ない希少難病の当事者支援は不足していると感じています。そもそも患者会がなかったり、医療従事者側の疾患認知度が低かったりして、「どこに相談したら良いのかわからない」と感じている方もいます。このように、孤立しがちな当事者の状況を変えていきたいと考え、活動を始め、現在も行っています。
どのような支援活動を行っていますか?
さまざまな活動を行っており、大きく以下の6つに分類されます。
1.「赤ちゃんみんなのハンドブック」の作成・配布
新生児マススクリーニングを正しく理解して頂くためのハンドブックで、お子さんの発達や産後ケアに関するアドバイスなどもご紹介しています。全国の自治体や産科医療機関を通じて新生児の保護者の方に無料配布しています。
2.患者会への支援活動
小児希少難病の家族交流会やキッズイベントの開催を行っています。現在、コロナ禍でリアルでのイベント開催は難しい状況ですが、今後、オンラインでのイベント開催も視野に入れて検討を進めたいと考えています。
また、患者会の活性化を目的とした支援活動なども行っています。最近では、希少難病のお子さんとご家族向けの患者会立ち上げ、運営支援のためにクラウドファンディングを実施しました。希少難病の場合、仮に患者会を設立できたとしても、会の活動を維持することが難しい状況も多くあります。そのため、会の立ち上げや運営を継続するための支援活動および無料コンサルティングを行っています。現在は、17団体を対象に支援しています。
3.患児ファミリー就労支援
病気のお子さんの保護者向けに、在宅ワークの支援を行っています。「いつでも」「どこでも」「短時間でも」お仕事できるような内容をご紹介しています。就労支援に賛同頂いている企業と連携をしながら、自宅にいながら仕事ができると仕組みづくりを行っています。
4.難病や障がいを抱える子ども家庭へのセーフティネットを展開
小児希少難病のための保険創設研究会を発足しました。小児希少難病を対象とする新たな保険の仕組みを構築し、経済的支援をするセーフティネットとしたいと考えたためです。企業、患者会、大学の先生など、さまざまな立場の方々と検討を進めています。
5.医療検体専用輸送サービス
検体を安全確実かつ安価に目的地まで丁寧に輸送する取り組みを、企業と一緒に行っています。北海道から沖縄まで、日本全国の地域で検体の集荷・お届けを行っています。サービスの収益の一部は、患者さんやご家族への支援に使用しています。
6.小児希少難病の精査診療機関検索サイトの構築
希少難病の疑いがある時に、どこの施設で検査を受けたらいいのか、専門医がどこの病院にいるのかという情報を、いち早くかかりつけ医の先生へお届けするためのシステムを準備しています。症状が現れていて「何かの病気だろう」とわかっていても、なかなか適切な検査を受けられずに確定診断に至らない当事者がいらっしゃいます。そういった方々を少しでも減らすために、まずはウェブサイトを構築して情報をお届けする準備を進めています。学会や患者会の方々と一緒にデータを集めながら進めています。
※小児希少難病の精査診療機関検索サイトはコチラから
柔軟な働き方を実現、患児ファミリーの就労支援とは?
患児ファミリーの就労支援は、未経験の職種でも相談できるのでしょうか?
もちろん、大丈夫ですよ。「自分のスキルで対応できますか?」といったご質問をよく頂きますが、特別なスキルは不要で、スマートフォンかパソコンがあれば誰でもすぐに始められるお仕事をご提供しています。また、自治体などでスキルを高めるための研修会なども用意されていますので、ぜひ活用頂けたらと思います。
また、「小児希少難病の精査診療機関検索サイト」も、患児ファミリーのお力を借りています。具体的には、インターネット上にある病気の症状・関連学会・検査機関等の情報を探すお仕事をお願いしています。皆さん、お子さんの病気を調べた経験をお持ちなので、医療に関わる情報は抵抗なくスムーズに調べて頂いています。この検索サイトは、これから規模も大きくなる予定なので、引き続きお仕事としてお願いしたいと考えています。
万が一、子どもの体調が悪化するなどして急にお休みすることはできますか?
こちらも心配なポイントかと思いますが、大丈夫ですよ。何かあった時はフォローが入る環境です。安心してお休みして頂くことができます。
どのお仕事も、ご自宅やどこにいても対応可能なもので、時間的制約を気にせず、空いた時間で進めて頂けます。希少難病のお子さんを持つご家族の状況を理解頂ける法人・企業にご協力頂いている支援活動なので、心配なことは、ぜひ気軽に相談して頂けたらうれしいです。
小児希少難病の患者会支援、一般の方々からの反響も
小児希少難病の患者会の立ち上げ・運営の支援を始めたきっかけについて、教えてください。
希少難病は患者数が少ない現状があるため、「同じ病気の方とつながることができない」「患者会を立ち上げることができない」といったお悩みが寄せられたことがきっかけです。また、よく知られている疾患と比べて、情報が少ないという課題もありました。患者会を立ち上げることで、学会や専門医の先生とのつながりをつくりやすくし、正しい情報をお当事者に届けやすくしたいという考えもありました。そこで、クラウドファンディングも利用し、支援活動を行っています。
クラウドファンディングを実施したのはなぜですか?
小児希少難病の当事者の実情を、一般の方々にも広く知って欲しいと考えたからです。「患者会がほしい」と思っても立ち上げや運営が難しいという現状は、当事者でないと、なかなか知ることができません。そういった状況を理解してほしいと、クラウドファンディングを実施しました。
クラウドファンディングを始めてみると、私たちが想像していた以上に多くの反響を頂きました。また、メディアでも取り上げて頂いたことで、「テレビを見ました」「ラジオを聞きました」「新聞記事を読みました」と、お声を頂いたことも多くありました。特に印象的だったお電話は、昔ご自身のお子さんが難病だった方から頂いた、「当時は、本当にやるせない思いだった」というものです。その方は、当時、大変な経験をする中で多くの方にお世話になったそうで、今でも感謝の気持ちをお持ちでした。そこで、「今度は、自分が何かしたい」と寄付してくださいました。
また、当事者ではなく一般の方から「これまでも何かしたい気持ちはあったけど、具体的に何をしたらいいのかわからなかった」という声を頂いたこともあります。そういう方が、今回のクラウドファンディングを知り、支援してくださったケースもありました。
メディアだけでなくSNSなどでも応援の声を多く頂き、活動が広まっていった印象があります。当事者ご家族はもちろん、今回のクラウドファンディングを通じて一般の方々にも知って頂いたことがうれしかったですね。
希少難病の当事者が、普通に暮らせる社会を目指して
症状は現れているものの現時点では「まだ診断がついていない」患者さんへ、支援などは行われていますか?
特別な支援は、行っていません。ただ、「未診断疾患イニシアチブ(IRUD、アイラッド)」というプロジェクトがあることをご紹介しています。また、患者会が発足していない病気の方には、類似カテゴリの疾患の患者会をご紹介することがあります。もしかすると、患者会で知り合う方の中で、似たような経過をたどっている方もいるかもしれません。診断がついていない方でも参加できるような団体さまもあるので、そういった所から当事者とつながって欲しいなと思いますね。
何よりも大切なのは、当事者やご家族が孤立しないことだと考えています。ですから、そのために我々がお手伝いできることは積極的に行っていきたいですね。診断がついていない方も、お気軽にご相談頂ければと思います。
活動を通じて感じている、課題はありますか?
希少難病の認知度の低さです。正しく知られていないから、当事者の方々は誤った偏見にさらされることがあります。そういったことを心配して、自らの病気を隠す当事者もいます。また、それと関連して「検査を受けたくない」と考える当事者もいます。そうなると、その方は、どんどん孤立してしまいますよね。
私たちは、希少難病の当事者を取り巻くこういった状況を少しでも変えたいと考えています。そして、孤立する方を少しでも減らしたいです。だから、皆さんに代わって「世の中には、こういう病気があります」と声をあげ、難病を取り巻くさまざまな状況について啓発活動を続けていきます。そして、いつか、希少難病の当事者が笑顔で暮らせる社会を実現したいです。
そのためには、さまざまな患者会の方、医師、製薬企業の方など、いろいろな立場の方々のご協力が必要です。これからも、一緒に活動して頂けたらうれしいです。
皆さんの悩み、解決するお手伝いができる存在でありたい
最後に、遺伝性疾患プラスの読者にメッセージをお願いいたします。
皆さんの悩みを、少しでも解決するお手伝いができる存在でありたいと思います。今後も、皆さんが笑顔を忘れず、前向きに取り組めるようなさまざまな取り組みを検討していきます。これからも、ぜひ一緒に活動していきましょう。
また、現在は患者会がないよう希少難病の当事者の方々にも、私たちの活動を知って頂けたらうれしいです。同じ疾患の方とつながることが難しかったり、情報が得られず困っていたりする方がいたら、一緒にできることを探していけたらと思います。
当事者やご家族の悩みと真摯に向き合い、その解決に向けて幅広い支援活動を展開している健やか親子支援協会。クラウドファンディングなども用いながら、小児希少難病の患者会の立ち上げ・運営の支援を行い、一般の方々への啓発につながったお話が特に印象的でした。
遺伝性疾患の当事者の皆さんの中にも、「患者会に参加したいけど、活動している団体がない」「同じ疾患の方とつながりたいけど、患者数が少なくて難しい」など、さまざまなお悩みをお持ちの方がいらっしゃると思います。ぜひ、健やか親子支援協会の活動を知って頂き、参加してみてくださいね。(遺伝性疾患プラス編集部)