日本アラジール症候群の会、当事者と医療従事者をつなぎ疾患啓発を広げる

遺伝性疾患プラス編集部

肝臓や心臓など、多様な臓器に症状が現れる遺伝性疾患アラジール症候群。症状の種類・重症度は人によって異なり、軽症の方もいれば、移植が必要となる重篤な心臓病や肝臓病を持つ方もいるなど、さまざまです。

今回活動をご紹介するのは、日本アラジール症候群の会。お子さんが生後4か月の頃にアラジール症候群と診断を受けた吉田幸司さんと麻里さんご夫妻が立ち上げた支援団体です。2007年から、当事者・ご家族や医療従事者とのつながりをつくってきました。また、2017年からは「アラジール症候群患者実態調査」も同会主導で開始。医療従事者の方々に、希少疾患で患者数の少ないアラジール症候群の実態を知っていただく活動も続けています。その他、アラジール症候群に限らず、希少疾患全体の啓発活動を目的としたイベント開催も行っています。今回は同会の活動について、代表の吉田さんご夫妻にお話を伺いました。

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日本アラジール症候群の会 吉田幸司さん・吉田麻里さんご家族
団体名 日本アラジール症候群の会
対象疾患 アラジール症候群
対象地域 全国
会員数 23家族(2024年3月現在)
設立年 2007年
連絡先

電話:090-9693-9600

メール:alagille@alagille.jp
サイトURL http://alagille.jp/
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主な活動内容 アラジール症候群の当事者やご家族向けの交流会・医療講演会の開催など、支援活動を行う。情報発信を通じた疾患啓発活動、医療従事者への情報提供を目的とした「アラジール症候群患者実態調査」などを行っている。

確定診断後も情報を得られない日々、自ら情報発信を開始

お子さんがアラジール症候群と診断を受けた経緯について、教えてください。

幸司さん: 最初の異変に気付いたのは2004年、息子が生後2か月の頃です。唇の乾燥が気になっていました。糸のような鼻血が出ていたので、心配になり、休日の救急外来を受診しました。医師から「ただの鼻血でしょう」と説明を受けたのですが、念のため、別の耳鼻科も受診。しかし、異常は見つからないとのことでした。

麻里さん: 平日になり、かかりつけの小児科医の先生を受診しました。鼻血のこと、便の色が白いことなど息子の状況をお伝えしたところ、採血の検査を受けることに。その結果、「数値に問題はありません」と説明を受け、私たちもようやく安心して帰宅したんです。しかし、自宅に帰ったその日の夕方、お風呂に入れようと服を脱がせると、息子の採血した部分から出血が続いており、「何か、おかしいのではないか…」と不安を覚えました。そこで、再びかかりつけの小児科医の先生を受診。詳しい検査を受けるために別の病院を受診したところ、「胆道閉鎖症」の可能性を指摘されました。その後、さらに大学病院に転院することになり、最終的にアラジール症候群の確定診断に至りました。息子が生後4か月の時です。

原因がわからなかった約2か月間、どのようなお気持ちで過ごされていたのでしょうか?

幸司さん: 1か月検診では「特に異常なし」と聞いていたので、最初は「まさか、大変な病気じゃないよね…?」と思っていました。一方で、病名がなかなかわからないことへの不安は大きかったです。また、入院生活が始まったのが年末だったこともあり、クリスマスや正月などの初めての行事を家族で一緒に過ごせなかったことなど、息子やきょうだいの思い・不安などさまざまな感情と向き合っていました。

そのような日々を経て、病名が確定した時のお気持ちもお聞かせいただけますか?

麻里さん: ようやくアラジール症候群とわかった時は、まず、安堵感がありました。何もわからない状況から、「ひとまず、病名がわかった!」とホッとしたことを覚えています。しかし、今度はアラジール症候群の情報がほとんど得られないことへの不安と向き合うことになりました。希少疾患であるために、当時は、インターネットで病名を調べてもほとんど日本語の情報は見つけられない状況だったんです。医学書専門の本屋へ出向いて調べたこともありましたが、情報はあまり見つけられませんでした。主治医の先生にお願いして、書籍に載っている関連情報をコピーしていただくのがやっと、という状態だったんです。病名がわかって安堵したのも、つかの間、知りたい情報を得られず、息子の将来に対する不安はどんどん大きくなっていきました。

吉田さん個人のウェブサイト「Happy Family Life~難病アラジール症候群との生活~」は、いつ始められたのでしょうか?

幸司さん: 2005年頃です。これからアラジール症候群と診断を受ける当事者やご家族に、私たちの経験をお届けできたらと考え、始めました。私たちと同じように病気の情報を見つけられず、苦しい思いをする方が一人でも減って欲しいと考えたからです。あわせて、息子の成長の記録を残していきたいという思いもありました。

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吉田さん個人のウェブサイト「Happy Family Life~難病アラジール症候群との生活~」より

個人のウェブサイトでの発信を始めたことで、同じアラジール症候群の当事者やご家族からご連絡をいただくようになりました。皆さんとのつながりができ、次第に、簡単な交流会などを開催するようになっていったんです。

この情報発信が、「日本アラジール症候群の会」設立のきっかけとなったのでしょうか?

麻里さん: そうですね。最初は、皆さんと困っていることを共有し、他のご家族がどのように工夫しているのかを情報交換していく場でした。そこから、「このように、皆さんとつながれる場があって良かった」という声が寄せられるようになり、活動の必要性を実感していったんです。私たち家族も、思うように情報を得られず、苦しい思いをしてきました。ですから、同じ病気と向き合う当事者・ご家族と悩みを相談しあえる場に勇気をもらっていたのだと思います。また、ご家族はもちろん、将来、アラジール症候群の子どもたちが大人になった時、本人たちがつながり続ける場としても残していきたいと考えました。そして、日本アラジール症候群の会を設立し、本格的に活動開始したのが2007年です。

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日本アラジール症候群の会 ウェブサイトより

多岐にわたる活動を実施、会員向けLINE・月1オンライン交流会・医療講演会など

現在の活動内容について、教えてください。

幸司さん: 当事者やご家族の交流の場を設ける活動として、月1回のオンライン交流会を開催しています。最低でも年に1回の対面での交流会を開催していましたが、コロナ禍になり、月1回のオンライン交流会に変更したという背景があります。2年前より、月に1回のオンライン交流会と並行して、年に1回の対面での交流会も復活させています。2024年の対面での交流会は9~11月頃の開催を予定しているので、詳細が決まり次第、公式ウェブサイトで発信します。日常的なコミュニケーションは、会員さん向けのLINEグループで行っています。会員さんはアラジール症候群の当事者・ご家族なので、安心してお話しできる場になっています。プライベートなお話が多いので、詳細は控えさせていただきますが、さまざまなお困りごとに対して「自分の場合は、〇〇だったよ」といった経験をシェアしています。また、会員さんに限らず、相談は随時メールや電話で受け付けています。もし心配なことやお悩みがある方がいらっしゃったら、ぜひ活用していただきたいです。

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15周年記念交流会の様子

また、医療従事者を招く医療講演会を不定期で開催しています。関連学会でのブース出展などを通じて、医療従事者の皆さんとのつながりを広げる活動も行っています。アラジール症候群は希少疾患であるため、医療従事者の中でも認知度に課題があると感じています。一人でも多くの方々が正しく診断を受けられるように、医療従事者の方々にも啓発活動を続けていきたいと考えています。その他には、一般の方に希少疾患全体を知っていただくイベントも不定期で開催しています。

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ブース展示の様子
アラジール症候群だけでなく、希少疾患全体の啓発活動も行っていらっしゃるんですね。

麻里さん: アラジール症候群を知っていいただくことは大切だと思う一方で、希少疾患全体の実情を知っていただくことも大切だと感じています。アラジール症候群に限らず、病気を持つお子さんの子育てをしていく中で、医療や福祉における支援に課題を感じているご家族は多くいらっしゃるのではないでしょうか。そういったご家族の思い、また、きょうだい児さん(病気や障がいがある方のきょうだいにあたるお子さん)の思いなどを、幅広く社会に知っていいただくきっかけもつくっていきたいです。

例えば、2024年8月には、きょうだい児さんへの支援活動を行うNPO法人しぶたね、一般社団法人清水健基金、NPO法人つばめの会と一緒にイベント『ちょこっと縁日』を企画しています。その名の通り、お祭りのような場を設けて、きょうだい児さん、車いす利用者といったさまざまな立場の方々に楽しんでいただけるように準備を進めています。イベントの詳細は、公式ウェブサイトやSNSで発信していきますので、ぜひチェックしてみてください。

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『ちょこっと縁日』の様子

症状対策から生活のお悩みまで相談はさまざま、医療講演会での情報発信も 

電話・メール相談では、特にどういったお悩みが寄せられていますか?

幸司さん: 特に多いと感じるのは、皮膚のかゆみ対策に関するご相談です。アラジール症候群では、「肝内胆管減少症」で胆汁の流れが滞ることによって、かゆみが生じる方がいらっしゃいます。かゆみを軽減する薬の治療も検討されるのですが、症状の度合いによって、皆さんがどのように対策されているのか情報を探している方が多いように感じます。

麻里さん: その他、アラジール症候群に限らないことだと思いますが、入園・入学や就職活動に関するお悩みも寄せられます。学校や職場に対して、ご自身の病気や症状の情報をどこまでお伝えするかといった、コミュニケーションに関するお悩みですね。これに関しては正解がありませんし、お一人おひとりによって考え方が異なります。例えば、私たち家族の場合は割とオープンに情報を伝えてきましたので、そういった経験をお伝えすることもあります。ただ、繰り返しになりますが、どのような選択をするかは当事者・ご家族次第ですので、あくまでも一つの事例としてご紹介しています。

「医療従事者に相談したい」というご相談もあるのでしょうか?

麻里さん: はい、あります。その場合は、私たちが間に入って、会でつながりのある先生にご連絡をするようにしています。当会では、アラジール症候群の当事者・ご家族がつながる場づくりを大切したいと考えています。生活でのちょっとした困りごとを相談する、些細な出来事も気軽に共有できる、そういった場でありたいと考えているからです。ですから、医療従事者の先生方は、LINEグループなどには入っていらっしゃいません。もし先生方へのご相談がある場合には、私たちから直接ご連絡するようにしています。

幸司さん: また、医療講演会などで医療従事者の方々とお話しする機会もありますので、そういった機会も活用していただければと思います。「アラジール症候群は、どのような病気?」といった基本的なお話から、肝臓移植など治療に関わるお話など、毎年さまざまなテーマを扱っています。会員さん向けに、「医療講演会で扱って欲しい情報」について定期的にアンケートを取っていますので、皆さんが知りたいと思われている情報をお伝えできるように企画しています。アラジール症候群に関する最新情報を知る機会の一つとして、利用していただけたらうれしいです。

当事者同士だからこそ話せる安心感、医療従事者とのつながりも

活動に参加している当事者・ご家族からは、どのような声が寄せられていますか?

幸司さん: 「アラジール症候群の当事者やご家族と話せる場があって、うれしい」という声が多く寄せられています。同じ病気と向き合う当事者同士だからこそ、安心して話せることもあるのではないでしょうか。また、医療講演会などで「主治医の先生以外の医療従事者とも、つながる機会があることが良い」というお声もいただきます。当会では、アラジール症候群に関わる全国の先生方とつながっています。ですので、そういった部分に安心感を覚えてくださっている方々も多いと感じます。

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「同じ病気と向き合う当事者同士だからこそ、安心して話せることも」と、幸司さん
当事者・ご家族だけでなく、医療従事者の方々ともつながりもあるのですね。

麻里さん: そうですね。医療従事者の方々に、当事者やご家族のリアルな声を知っていただく機会も大切にしたいと考えています。「病名は知っているけど、実際に患者さんを診たことはない」という先生も、多くいらっしゃると伺います。

昔、息子が骨折して救急搬送された時の話ですが、「アラジール症候群を持っている」と伝えただけで、なかなか受け入れ先の病院が見つかりませんでした。救急車の中で、1~2時間ほど受け入れ先が見つからない状況を過ごしたほどです。この経験は、医療従事者の方々にアラジール症候群を知っていただく必要性を痛感する、きっかけの一つになりました。ですから今後も、当事者と医療従事者がつながり、情報交換できるような場づくりを大切にしていきたいと考えています。

医師からも求められる「患者実態調査」、研究班連携で実施中

2017年からは「アラジール症候群患者実態調査」を実施されていると伺いました。医療従事者からは、どういった声が寄せられていますか?

幸司さん: 先生方からはご好評いただき、「症状や経過などの具体的な情報を知ることができて良かった」という声が多数寄せられました。具体的には、何か月で首がすわった・寝返りしたなど、さまざまな情報をデータとして得られたことが良かったと伺っています。患者実態調査は、2017年に35人、2019年に22人の方々にご協力いただきました。アラジール症候群を実際に診ている先生方であっても、担当している患者さんは1~2人というケースが多いと伺います。そのため、「数十人単位の患者さんのまとまった情報は、とても貴重だ」とおっしゃっていました。ですので、こういった情報提供はこれからも続けていきたいと考えています。

前回の調査は当会による独自調査でしたが、現在、新たにアラジール症候群の研究班の先生方と連携して実態調査を行っています。私たちは患者さん向けに、先生方は医療従事者向けにそれぞれ実態調査を行うことで、どのような差が出るのかなど、今後、皆さんに情報提供できればと考えています。

アラジール症候群はもちろん、希少疾患全体で「つながりを大切に」

最後に、遺伝性疾患プラスの読者にメッセージをお願いいたします。

麻里さん: アラジール症候群の当事者の皆さんとのつながりも大切にしていきながら、症状が現れているものの診断に至っていない「未診断疾患」の方も含め、幅広く、希少疾患と向き合う当事者やご家族とつながっていきたいと考えています。医療や福祉制度については、希少疾患全体で考えたい課題もあると感じていますし、これからも皆さんと情報交換をしていきたいですね。また、疾患の当事者に限らず、一般の方々に希少疾患を知っていただくきっかけとなるイベントも引き続き開催していきます。もし、私たちの活動に興味を持ってくださった方がいらっしゃったら、ご一緒できるとうれしいです。


今回の取材を通じて、アラジール症候群の当事者やご家族、医療従事者、そして希少疾患に関わるさまざまな団体とのつながりを大切に活動されているお考えが伝わってきました。現状さまざまな課題はあるものの、「アラジール症候群患者実態調査」といった活動通じて、今後も、疾患啓発活動が続いていきます。特に、今回は研究班の先生方と連携した調査ということで、注目すべき結果が出ると期待されます。

最後に、遺伝性疾患プラス編集部が「20年近い活動の中で、今、どのようなことを感じていますか?」と伺うと、「何より、参加してくれる皆さんが楽しんでくれることを一番に考えて活動しています。でも、私たちが誰よりも一番楽しんで活動していますね(笑)」と、おっしゃったお二人の姿が印象的でした。きっと、このお二人のあたたかな雰囲気によって、日本アラジール症候群の会の皆さんも、安心して参加されているのだろうと感じます。(遺伝性疾患プラス編集部)

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