どのような病気?
シトリン欠損症は、体内で「シトリン」と呼ばれるタンパク質を作ることができないことが原因となる遺伝性疾患です。シトリンは、体の中で細胞のエネルギー代謝や重要な化学反応に関わっているため、さまざまな症状が引き起こされます。
シトリン欠損症は、発症時期によりそれぞれ症状が大きく異なることが特徴です。そのため、新生児期から乳児期に発症した場合は「新生児肝内胆汁うっ滞症(NICCD)」、幼児期から小児・学童期(適応・代償期)は「シトリン欠損症による発育不全と脂質異常症(FTTDCD)」、思春期以降から成人期は「成人発症II型シトルリン血症(CTLN2)」と呼ばれます。NICCDまたはFTTDCDの患者さんの中には、10年以上たってからCTLN2を発症する人もいますが、CTLN2を発症しない人もいます。NICCDまたはFTTDCDを発症せずにCTLN2を発症する人もいます。
なお、「シトルリン血症」という疾患名には、シトルリン血症I型(CTLN1)とシトルリン血症II型(CTLN2)があり、どちらもシトルリン血症という名前ですが、それぞれ別の病気とされています。CTLN2はシトリン欠損症の成人における病型であるためシトリン欠損症に含まれますが、CTLN1は尿素サイクル異常症(指定難病251)に含まれる疾患となります。
新生児から乳児期のNICCDでは、生後6か月以内に肝障害、胆汁うっ滞など新生児肝炎の症状で発症します。黄疸(皮膚や白目が黄色い)が長引く、低出生体重や体重が増えにくいなどの症状から気が付かれることがありますが、黄疸の症状が強い場合、胆道閉鎖症と呼ばれる別の病気と区別されにくい場合もあります。また、生まれて間もなく全員に実施される新生児マススクリーニング検査において、血液中のシトルリン、メチオニン、フェニルアラニン、ガラクトースなどの値の異常から症状が現れる前に発見されることもあります。NICCDのその他の症状としては、成長遅延、肝腫大、びまん性脂肪肝、肝線維症を伴う実質細胞浸潤、肝機能障害、低タンパク血症、凝固因子の減少、溶血性貧血、低血糖などが見られる可能性があります。
NICCDは、多くの場合重症には至らず、適切な治療が行われることによって1歳までに症状が改善するとされていますが、まれに重症例で肝移植が必要となることもあります。
NICCDで見られる症状 |
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高頻度に見られる症状 胆汁うっ滞、黄疸、プロトロンビン時間が長い(凝固因子の活性を測定する検査。肝障害などで異常値を認める場合がある) |
良く見られる症状 肝腫大、肝脾腫(肝臓と脾臓の同時肥大)、脂肪肝、下痢、乳児期の発育不全 |
しばしば見られる症状 白内障、消化管出血、異常出血、貧血、胎児期の子宮内発育遅延、食欲不振 |
幼児期から学童期(適応・代償期)は、FTTDCDと呼ばれますが、はっきりとした症状が出ないことが多く、「見かけ上は健康」であり病気とみなされない場合があります。しかし、まったく症状がないわけではなく、疲れやすい、低血糖などが見られるほか、慢性肝障害、肝腫大、成長障害、胃腸障害、けいれん、膵炎などの症状が見られる場合もあります。また、糖質の食事(白いご飯、麺類、甘いジュースなど)を嫌い、タンパク質(豆、チーズ、肉、魚など)や脂質(ナッツ、揚げ物、生クリームなど)を好むというはっきりした食事の好みが見られることも特徴の一つとなります。
思春期以降から成人期のCTLN2は、通常、20歳から50歳頃において発症します。帰る道がわからなくなる・自分がどこで何をしているのかわからない(見当識障害)、暴れだす(攻撃的な行動)などの症状が突然現れ、精神科的な疾患ととられる場合もあります。その他にも、夜間せん妄、多動性、妄想、落ち着きがない、眠気、記憶喪失、羽ばたき振戦(手首、股関節などにおいて、姿勢を維持できず左右同時に羽ばたくような動きでけいれんする)、けいれん発作、昏睡などの症状が見られ、これらの症状は、アルコールや砂糖の摂取、薬物、手術などがきっかけで引き起こされることがあります。CTLN2は血液中のアンモニアとシトルリンの値が高いことが特徴となります。また、FTTDCDで見られる糖質を嫌い、タンパク質や脂質を好むという食事の好みはCTLN2でも見られることが多いとされます。
CTLN2で見られる症状 |
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高頻度に見られる症状 BMIの低下、脂肪肝 |
良く見られる症状 肝腫大、羽ばたき振戦、振戦、てんかん発作、異常な食行動、攻撃的な行動、精神錯乱、せん妄、妄想、意識の揺らぎ、幻覚、怒りやすい性質、無気力、記憶障害、落ち着きのなさ、眠気、寝汗、睡眠障害、夜驚症(睡眠中に突然目が覚めて泣き叫ぶなどする) |
しばしば見られる症状 肝線維症、肝細胞がん、膵炎、肝性脳症(肝機能低下による中枢神経系の障害)、嘔吐、下痢、初潮の遅れ、夜尿症、反響言語(他の人が言った言葉をそのまま繰り返す)、全般的発達遅延、昏睡、多動性、不眠症、躁病、精神障害 |
シトリン欠損症は、日本人を含む東アジアや東南アジアに多い疾患です。以前は日本でしか見られないと考えられていましたが、現在ではシトリン欠損症はイスラエル、パキスタン、米国、英国、中国、チェコ共和国など多くの民族で見つかっています。
日本人でSLC25A13遺伝子に変異を持つ保因者は65人に1人の頻度であるという報告があります。この遺伝子変異の頻度から計算すると、日本人でのシトリン欠損症の発症者はおよそ1万7,000人に1人(65×65×4=1万6,900)の割合と推定されています。NICCDの発症頻度は上記から推定される値に近いものの、CTLN2の発症報告は10万人に1人の発症頻度でかなり少ないため、シトリン欠損症の遺伝子変異をもつすべての人がCTLN2を発症するわけではなく、CTLN2の発症には食事などの環境的要因の関与があるのではないかと考えられています。
シトリン欠損症は男女ともに発症し、NICCD発症における性別の差はありませんが、CTLN2の男女比は2.4対1で男性に多いという報告があります。CTLN2で男女比が異なる要因については、まだわかっていません。
何の遺伝子が原因となるの?
シトリン欠損症は、7番染色体の7q21.3と呼ばれる領域にあるSLC25A13遺伝子の変異によって引き起こされます。SLC25A13遺伝子は、シトリンと呼ばれるタンパク質を作るための設計図となります。
シトリンは、細胞のエネルギーを作り出す細胞内小器官のミトコンドリアにおいて、アミノ酸の一種であるアスパラギン酸とグルタミン酸をミトコンドリアの中と外に交換輸送する役割(アスパラギン酸・グルタミン酸膜輸送体)を担っています。そしてこの輸送は、リンゴ酸-アスパラギン酸シャトルと呼ばれる過程の一部として機能し、細胞質とミトコンドリア間のエネルギーを運ぶ物質(NADHとNAD+)のバランスを保つことにつながっています。
このアスパラギン酸・グルタミン酸膜輸送は、タンパク質の代謝、糖の代謝、核酸(DNAやRNA)の生成、脂質代謝などのほか、肝臓細胞において生体に有害なアンモニアを分解する尿素回路(尿素サイクル)と呼ばれる経路にも関わっています。
SLC25A13遺伝子の変異により、シトリンの正常な機能が失われ、細胞のエネルギーのバランスが崩れ、尿素回路の阻害、タンパク質や核酸の生成の妨げなどにつながり、この病気のさまざまな症状が引き起こされると考えられています。CTLN2で見られる症状は、尿素回路の阻害によるアンモニアなどの有毒物質の蓄積が関与していると考えられています。一方でNICCDやFTTDCDの人は血中にアンモニアの蓄積は見られません。
シトリン欠損症は、常染色体劣性(潜性)遺伝形式で遺伝します。この遺伝形式では、両親から受け継ぎ2つ存在する遺伝子の両方に変異が生じることにより発症します。この場合、両親は変異のある遺伝子と変異のない遺伝子を1つずつ持つ保因者で、通常はこの病気を発症していません。保因者である両親から生まれた子どもがシトリン欠損症である確率は25%です。
どのように診断されるの?
シトリン欠損症の診断は以下の診断基準に従って行われます。
【新生児から乳児期:NICCD】
Aの症状またはBの検査所見のうち1項目以上を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外できること、さらに遺伝学的検査でSLC25A13遺伝子の両アレルに病因変異を認めるか、末梢血でのウエスタンブロットでシトリン分子が検出されない場合に診断確定となります。
A.症状
1. 遷延性黄疸
2. 体重増加不良
B.検査所見
1. 複数のアミノ酸(シトルリン、チロシン、フェニルアラニン、スレオニンなど)の一過性の上昇
2. ガラクトースの一過性の上昇
3. 胆汁うっ滞性肝障害:総胆汁酸上昇(100 nmol/mL以上)、直接ビリルビン上昇
4. 凝固能低下
5. 低タンパク血症
6. AFP高値
7. 脂肪肝
C.鑑別診断
新生児肝炎、胆道閉鎖症、ガラクトース血症(I型、II型、III型)、門脈体循環シャント、シトルシン血症I型、アルギニノコハク酸尿症
【適応・代償期:FTTDCD】
Aの症状またはBの検査所見のうち1項目以上を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外できること、さらに遺伝学的検査でSLC25A13遺伝子の両アレルに病因変異を認めるか、末梢血でのウエスタンブロットでシトリン分子が検出されない場合に診断確定となります。
A.症状
1. 特異な食癖(高脂肪・高タンパク質食を好み、糖質を忌避)
2. 易疲労感、倦怠感
3. 体重増加不良
4. 低血糖
B.検査所見
1. 慢性肝障害
2. 低血糖
3. 高脂血症
C.鑑別診断
慢性肝炎、肝型糖原病、脂肪酸代謝異常症
【思春期から成人期:CTLN2】
Aの症状のうち1項目以上、並びにBの検査所見のうち1と2を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外できること、さらに遺伝学的検査でSLC25A13遺伝子の両アレルに病因変異を認めるか、末梢血でのウエスタンブロットでシトリン分子が検出されない場合に診断確定となります。
A.症状
1. 意識障害、失見当識、急性脳症様症状
2. 行動異常、精神症状
B.検査所見
1. シトルリン高値、スレオニン/セリン比の上昇
2. 高アンモニア血症
3. 脂肪肝
C.鑑別診断
慢性肝炎、肝硬変、門脈体循環シャント、シトルシン血症I型、アルギニノコハク酸尿症
どのような治療が行われるの?
シトリン欠損症は、NICCD、FTTDCD、CTLN2のそれぞれで治療法が異なります。
NICCDは、脂肪の吸収に働く胆汁の流れが悪いため、胆汁がなくても吸収されやすい脂肪である中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)が含まれる特殊ミルクを飲用することがあります。また、胆汁を流れやすくするお薬(利胆剤:ウルソデオキシコール酸)や欠乏しやすいビタミン(ビタミンA、D、K、E)の内服、その他、血液のガラクトース値が高い場合にはガラクトースの元になる乳糖を除去した特殊ミルクが使用されることもあります。患者さんの一部で、肝障害が進行し肝移植が必要となる場合があります。
FTTDCDは、症状に応じて低糖質・高タンパク質食による治療などが行われます。体重増加不良や易疲労感が見られる場合にはMCTオイルの飲用が良い場合もあるとされます。これはCTLN2の発症予防を目的に行われます。糖類を嫌い、タンパク質や脂質の多い食事を好む食事の好みは、病状を悪くしないための自己防衛反応と考えられているため変更しません。
CTLN2には、脳症を軽減させるために低糖質・高脂肪食、MCTオイル、静注用脂肪乳剤、アルギニン、カナマイシン、ラクツロース、ピルビン酸ナトリウム(試薬)などの内科的治療が行われます。これらの治療で良くならない場合には肝移植が適応となりますが、軽快した場合は、再燃を防ぐために低糖質・高タンパク質食による治療を行い、生涯を通じて継続されなければならないとされています。一般的に、高アンモニア血症の治療は「タンパク質負荷の軽減」および「(糖質による)高カロリー輸液」が行われますが、CTLN2の場合、これらの治療は禁忌となります。脳浮腫の治療薬としてのグリセロールも病状を悪化させることが知られています。
CTLN2は、一度発症すると重篤な経過をたどり、生命予後は不良であると考えられていましたが、近年は肝移植の有効性が認められており、また低糖質・MCTオイルを含む高脂肪食、ピルビン酸ナトリウムによる治療で軽快した例も報告されています。
どこで検査や治療が受けられるの?
日本でシトリン欠損症の診療を行っていることを公開している、主な施設は以下です。
- 東北大学病院 小児科
- 山形大学医学部附属病院 小児科
- 埼玉医科大学病院 ゲノム医療科
- 東京慈恵会医科大学附属病院母子医療センター 代謝外来
- 千葉県こども病院 代謝科
- 済生会横浜市東部病院 小児肝臓消化器科
- 名古屋市立大学病院 小児科
- 関西医科大学附属病院 精神神経科
- 大阪大学医学部附属病院 小児科
※このほか、診療している医療機関がございましたら、お問合せフォームからご連絡頂けますと幸いです。
患者会について
シトリン欠損症の患者会で、ホームページを公開しているところは、以下です。