IRUD参加で確定診断へ、希少難病コフィン・シリス症候群と向き合う家族の想い

遺伝性疾患プラス編集部

ざらめろさん(女性/コフィン・シリス症候群の患者家族)

ざらめろさん(女性/コフィン・シリス症候群の患者家族)

お子さんが1歳6か月の頃にコフィン・シリス症候群と診断を受ける。

多数の先天性疾患や先天異常を指摘されていたものの、なかなか診断がつかなかったことから、未診断疾患イニシアチブ(IRUD)に参加し、確定診断に至った。お子さんは2歳になる。

 

Twitter:https://twitter.com/zaramero_

病気を疑うような症状が現れているのに、その病名がなかなかわからない…。こんな風に、診断がつかず悩む患者さんとご家族のための国家プロジェクト「未診断疾患イニシアチブ(IRUD、アイラッド)」をご存知でしょうか?IRUDとは、遺伝子を調べて病気の原因を探るというプロジェクト。診断のついていない患者さんのうち、遺伝子の異常が原因で起きていると考えられる人を対象としています。

※IRUDの対象となる病気や登録についてはIRUDのサイトをご覧ください。また、IRUDに関する詳しい解説は、専門家インタビュー記事をご覧ください。

今回お話を伺ったざらめろさんは、IRUDへの参加によって、お子さんがコフィン・シリス症候群であるとわかりました。コフィン・シリス症候群は、知的障害、発達の遅れ、成長障害、特徴的な顔立ち、呼吸器感染症を起こしやすいなど、多岐にわたる症状が現れる遺伝性疾患。日本の患者数は100人未満とされる希少疾患でもあります。

もともと、お子さんが多数の先天性疾患を持つ可能性を指摘されていたものの、IRUDに参加するまではなかなか確定診断がつかなかったと言う、ざらめろさん。今回は、IRUD参加までの経緯や、確定診断を受けた後のことなどについて、詳しくお話を伺いました。

なかなか診断がつかず、制度が利用できないという苦労も

お子さんの診断がついていなかった時期は、どのようなお気持ちでしたか?

さまざまな症状が現れていたこともあり、「何も病気が無い訳がない。必ず、何かあるはず。」と自分に言い聞かせていました。

また、「診断がついていない」というだけで利用できない制度が多くあることに対し、もどかしさも感じていました。

具体的には、どのような制度を利用できず苦労されたのでしょうか?

例えば、身体障害者手帳は「病名がついていないと、すぐの取得は難しい」と言われました。わが子は、コフィン・シリス症候群と診断を受ける前から、発達が遅いといったさまざまな症状が現れていたため、先天性疾患の疑いがありましたが、診断名がついていないというだけで申請が難しい状況でした。ただ、病名が確定したことで、身体障害者手帳は取得の申請ができました。身体障害者手帳の取得により、子どもに必要な装具などを利用できるようになり、ほっとしています。

あとは、特別児童扶養手当も、同様に申請で苦労しました。確定診断前に申請について相談したところ、やはり「診断がついてないと難しい」とのことでした。そして、特別児童扶養手当も、確定診断を受けたことで申請することができました。

※障害を抱える子どもの福祉の増進を図る目的に、養育している父母などへ手当が支給される制度です。

このように、診断がついたことによって、申請できる制度が多くなったという印象です。

Coffin Siris 01
「診断がついたことによって、申請できる制度が多くなった」と、ざらめろさん(イラストはざらめろさん作。以下、同)。

「何もしないより、できることを」IRUD参加を決意

IRUDに参加された経緯について、教えてください。

IRUDを知ったのは、SNSがきっかけでした。まだわが子の診断がついていなかった時に「同じような症状の子、いないかな?」とTwitterで情報を集めていたんです。その頃、私の投稿を見た方が、「実は、うちの子も診断がついていなくて、IRUDに登録しています」と教えてくださったんです。「一度、先生にIRUDについて相談したらどうですか?」と、アドバイス頂きました。

当時、IRUDのことはよく知らなかったのですが、主治医に思い切って相談し、参加が決まりました。相談の際に、主治医からは「IRUDに参加したとしても、確定診断がつくほうがまれです」と説明を受け、また、確定診断がついたとしても、全ての遺伝子異常に対する治療法があるわけはないと知りました。しかし、「何もしないより、できることがあるのであればやりたい」という気持ちが大きかったので、迷わず、お願いしました。

IRUD登録までには約半年かかり、コフィン・シリス症候群と診断がついたのは、さらにその半年先、わが子が1歳6か月の頃でした。

Coffin Siris 02
IRUD登録を経て、1歳6か月の頃に診断。
確定診断を受けた時は、どのようなお気持ちでしたか?

「ようやくスタートラインに立てた」という気持ちでした。先ほどの制度利用の件もそうですし、これでやっと、わが子の生活環境を整えられるのだと安堵しました。

また、病名がわかったことで、これから生じる可能性がある症状への注意はもちろん、わが子が生きやすい環境をつくれるように、わが子の人生を長い目で見ての話を家族ともすることができました。

診断がつくのはまれだと聞いていたこともあり、確定診断がついたことにはとても感謝していますし、IRUDに参加して本当に良かったと思っています。

IRUDに参加される前、医療施設は複数受診されましたか?

いいえ。子どもが生まれてから、変わらず、ずっと今の病院に通っています。主治医のことをとても信頼していますので、できる限り今の主治医に診て頂きたいと思っています。

主治医は、子どもに対してはもちろん、親に対しても真摯に向き合ってくださる先生です。実は、IRUD参加によって確定診断がついた時、「もし希望されるなら、コフィン・シリス症候群を診ている先生がいる他の病院へ、紹介状を書くこともできますよ」と、話がありました。今通っている病院では、コフィン・シリス症候群の患者さんがいなかったからです。でも、「先生に、ずっと診てほしい」とお伝えしました。

病名はわかったけど…希少疾患の情報収集の難しさを痛感

コフィン・シリス症候群が「希少疾患」であることで、現在どのようなことに苦労されていますか?

とにかく、情報が少ないことです。なかなか情報を見つけられず、苦労をしています。

診断を受けた頃は、最新情報を得るために、日本だけでなく海外の医療系のウェブサイトも、片っぱしから調べました。というのも、主治医から頂いた疾患に関する資料は、少し昔の資料でしたので。主治医も「コフィン・シリス症候群の患者さんを診るのは、初めて」とおっしゃっていましたし、改めて患者数の少なさ、それに伴う情報の少なさを痛感しています。とにかく、「自分で動いて、情報を集めないと」と思いました。

とはいえ、現実はなかなか厳しいものがありました。例えば、海外のサイトであれば、もちろん英語表記です。スマートフォンの翻訳機能を使いながら「こういう意味かな?」と想像しながら見ることしかできません。また、やっとの思いで日本語の記事を見つけた場合も、医師や医療従事者以外は閲覧できないサイトで、最後まで読めないということもありました。

現在、コフィン・シリス症候群の患者さんご家族との交流はありますか?

ありません。また、コフィン・シリス症候群は症状が多岐にわたるので、コフィン・シリス症候群の中でも、さらに、わが子と同じような病歴の方に出会うのは難しいと感じています。もし、コフィン・シリス症候群の方で成人された方にお会いできたら、現在どのように生活されているのか、なども聞いてみたいですね。

一方で、「難病」という広いくくりでは交流があります。さまざまな難病のお子さんをお持ちの親御さんたちと、SNSなどを通じて交流しています。その中で、IRUDに参加経験のあるご家族とも知り合いました。

「難病」の患者さんをお持ちの親御さんたちとは、さまざまな情報交換をしています。例えば、わが子はストーマ(人工肛門)をつけており、ストーマをつけているお子さんを育てている親御さんから「〇〇の工夫で、ストーマの装具がはがれにくくなるよ」など、教えて頂くこともありました。

※おなかにつくる、便や尿の排泄の出口のこと。手術によって、お腹に造設します。

Coffin Siris 03
排泄物をためておく「パウチ」というストーマの装具でも、さまざまな試行錯誤を。

親御さんたちとの交流のおかげで、気持ちが楽になったことが何度もあります。普段の生活では、なかなか吐き出せないことも、吐き出すことができるからです。病気を抱える子どもの親は、非常に「孤独」を感じやすいと思うんですね。コフィン・シリス症候群のような、患者数が少ない希少疾患であれば、なおさらです。情報が見つけにくいこともありますし、このように気軽に相談できるような交流の場は、本当に貴重だと思っています。

知られていないがゆえの「孤独」。溜め込み過ぎない工夫を

「孤独」を感じやすいというお話がありましたが、ストレスを溜め込み過ぎないように工夫していることはありますか?

うちの家族の場合は、夫婦で交代しながら互いに好きなことをする時間を確保して、リフレッシュできるようにしています。目の前のわが子に全力で向き合うために、自分の気持ちが落ちないように気を付けていますね。

Coffin Siris 04
リフレッシュする時間を持つことも大切。(写真はイメージ)

あとは、1人で溜め込み過ぎないことも大切だと思います。家族に話せない時は、SNSでつぶやくなど、ネガティブな気持ちは中に溜め込み過ぎず、どんどん外に出していくことが大切なのではないでしょうか。

とはいえ、皆さん、どうしてもつらい時が必ずあると思います。そんな時は、思い切って主治医に助けを求めるという手段もあると思います。受診の際に、「先生、ちょっと限界です」と言ってみるだけで、少し楽になるかもしれません。私の場合は、利用可能な福祉サービスを教えて頂きました。

希少疾患の患者さんを支えるご家族を取り巻く環境について、特に、どのような課題を感じられていますか?

やはり1番は、疾患の「認知度の低さ」だと思います。

私自身が苦労したように、希少疾患は情報収集が大変です。もちろん、社会にも情報が届かず、疾患のこと自体があまり知られていません。知られていないために困っている内容が伝わらず、患者や家族側は「偏見を受けるのではないか」と不安に思うことがあります。こうした結果、患者や家族は非常に孤独を感じやすいのではないでしょうか。

私の場合、今は、家族以外には、わが子の病気のことは話していません。万が一、偏見を受けた時に、全てを受け止められる心の余裕が、今の自分にはないと思っているからです。もちろん、いずれは、私生活で家族以外にも、病気のことを伝えたほうが良いとは思っています。ただ、今はまだその時でないと考えています。

偏見を受けるのではないかという不安は、例えば、どういった時に感じられますか?

目に見える症状に対して、心無い言葉を受けた時です。相手に悪気はなく、ただ「知らないだけ」なのですが、受け取る側に少なからず、心の負担があります。

例えば、わが子は治療のために眼鏡をかけており、「もう眼鏡かけているの?かわいそう」と、言われることがあるんですね。恐らく、眼鏡は「目が悪くなったからつけるもの」というイメージがあるので、治療を目的に眼鏡をかけているという発想が無いのだと思います。「かわいそう」という話が続くと、正直、私もつらくなります。その際は、こちらから「眼鏡、かわいいでしょう」と言ってしまうことですね。すると、相手は「うん、かわいいね」となるので、「かわいそう」という話は終わることが多いです。

ただ、重ねて言うと、相手の方は私たちを「傷つけよう」と思って言っているわけではなく、ただ「知らないだけ」なんですよね。正しい知識が広まっていないことが、問題なのだと思います。

眼鏡でさえこのような状況なので、例えば、外からは見えにくいストーマなど、他の症状のことを伝えたらどんな反応をされるのだろうと思い、伝えることに抵抗があります。家族は、相当心に余裕を持っていないと、こういった社会からの反応を全て受け止めるのは、大変なことなのではないでしょうか。だからこそ、疾患への正しい理解が広まることを願うばかりです。

まずは知ることから始めよう。IRUDのこと

最後に、診断がつかずに悩んでいる患者さんやそのご家族にメッセージをお願いいたします。

この記事をきっかけに、まず、IRUDのことを知って欲しいですね。そもそも、「IRUDの存在自体を知らなかった」という方も多いのではないでしょうか。まさに、私もその一人でした。やはり、どれだけの情報を手に入れられることができるかが、大切なことの1つなのだと思います。

もし今「なかなか診断がつかない」という状況で苦しんでいるご家族の方がいらっしゃれば、IRUDについて知ってみてはいかがでしょうか。知ったうえで「参加したい」と思われたのであれば、ぜひ主治医の先生に相談してみてください。医師からIRUD参加の提案がない場合であっても、私たち家族のように患者家族側から医師へ相談することで道がひらける場合もあります。

とはいえ、子どもが生まれたばかりで、ただでさえ大変な中、さらにわが子が病気を抱えているとなれば、ご家族の負担は相当なものだと思います。私もそうでしたし、今も、わが子に新たな症状が出てくるたび、悲しい思いをします。気持ちが落ちてしまうことも、多くあります。そんな中で、さらに自力で情報を集めることは、決して簡単なことではないでしょう。

幸い、私は難病のお子さんを抱える親御さんたちとつながることができ、自分では見つけられなかった情報を教えて頂くこともありました。福祉サービスなど頼れるものには頼りつつ、無理をし過ぎずに、情報を集めていくことが大切だと実感しています。

Coffin Siris 05
「頼れるものには頼ろう」と、ざらめろさん。

IRUDへの参加を通じて、お子さんの病気がコフィン・シリス症候群とわかったざらめろさん。今回、情報を集めることや、ご家族が無理をし過ぎないことの大切さをお話してくださいました。

一方で、希少疾患のように患者数が少ない疾患の情報を集めることは、決して簡単なことではありません。ざらめろさんご自身も、情報収集に苦労されているというお話でした。そして、情報収集が難しい希少疾患が、ご家族の「孤独」につながるお話も。疾患の認知度向上についても、まだまだ課題があるようです。

また、今回、「診断がつかずに悩まれている患者さんやご家族へ届くことを願って、取材をお受けしたい」と言って、取材に協力してくださった、ざらめろさん。お忙しい中、お子さんと一緒に取材に応じてくださいました。ざらめろさんご家族のお話が、一人でも多くの患者さんやご家族へ届くことを願っています。(遺伝性疾患プラス編集部)

関連リンク