ファンコニ貧血

遺伝性疾患プラス編集部

ファンコニ貧血の臨床試験情報
英名 Fanconi anemia
別名 Fanconi貧血、Fanconi hypoplastic anemia、Fanconi pancytopenia、Fanconi panmyelopathy、FA
日本の患者数 200人前後と推定(令和4年度末現在特定医療費(指定難病)受給者証所持者数14人)
国内臨床試験 実施中試験あり(詳細は、ぺージ下部 関連記事「臨床試験情報」)
発症頻度 16万人に1人
子どもに遺伝するか 遺伝する 主に[常染色体劣性(潜性)遺伝形式]、その他[X染色体連鎖劣性(潜性)遺伝形式]など
発症年齢 幼児期より
性別 男女とも
主な症状 再生不良性貧血、皮膚の色素沈着、骨格異常、白血病、がんなど
原因遺伝子 FANCA、FANCC、FANCGのほか、22種類以上知られている
治療 対症療法(貧血に対する輸血や造血細胞移植、骨格異常に対する手術、など)
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どのような病気?

ファンコニ貧血は、進行性の再生不良性貧血、皮膚の色素沈着、骨格や内臓などの形態異常などのほか、一部のがんのリスクが高まるなどの症状を示す遺伝性疾患です。

再生不良性貧血は、汎血球減少症とも呼ばれ、血液中の赤血球、白血球、血小板などの血液細胞が全て減少します。この病気では多くの場合、再生不良性貧血を子どもの頃に発症しますが、生まれてすぐや大人になってから発症することもあります。発症すると、赤血球数の減少による極度の疲労感、白血球数の減少によって感染症にかかりやすい、血小板数の減少によって血液が凝固しにくいなどの問題が現れます。この再生不良性貧血は進行性で、多くは思春期から成人期に、異常な血液細胞が作られる骨髄異形成症候群や、芽球(未熟で異常な白血球)が作られる急性骨髄性白血病に移行します。また、急性骨髄性白血病のような造血細胞のがん以外に、頭、首、皮膚、胃腸、生殖管などにおいてがんを発症するリスクが高くなり、それらのがんは、この病気の人の1~3割で発症する可能性があるとされています。

ファンコニ貧血では、半数以上の人に、見た目にわかる症状や内臓の症状が現れます。皮膚の色素沈着として、カフェ・オ・レ斑と呼ばれる、周囲の皮膚よりも暗い色の斑点が見られるほか、色素減少と呼ばれ、周囲の皮膚よりも異常に明るい色の部分が見られるような場合もあります。また、骨格の形態異常として、親指や前腕の異常や低身長などが、内臓においては、腎臓、尿路、胃腸、心臓などでの形態異常や欠損などが報告されています。そのほかに、目や耳の形態異常、難聴、生殖器の形態異常や不妊、脳や中枢神経系の異常、水頭症、小頭症などが見られることもあり、個人によってさまざまです。

ファンコニ貧血で見られる症状

高頻度に見られる症状

親指の形態異常、腕の異常、橈骨(とうこつ、ひじから手首までの前腕の2本の骨のうち親指側の骨)の形成不全もしくは欠損、低身長、皮膚の色素沈着の異常、皮膚の低色素斑、血液と造血組織の異常、貧血、ピリドキシン反応性の鉄芽球性貧血(てつがきゅうせいひんけつ)、白血球減少、血小板減少

良く見られる症状

小頭症、アーモンド型眼瞼裂(上下まぶたの合わさる箇所がアーモンドのように角度が鋭い)、短い眼瞼裂(両側の上下まぶたの合わさる箇所の距離が短い)、脊柱側弯症、心室中隔の形態異常、腎臓の形態異常、泌尿器系の異常、腫瘍、全般的発達遅滞、知的障害

しばしば見られる症状

長頭症、前頭突出(中央部よりも両側面部が突出)、傾斜した額、顔の非対称性、まぶたの形態異常、内眼角贅皮(ないがんかくぜいひ、目頭部分を上まぶたが覆う)、目の異常(位置・間隔・眼球内)、眼間開離(目と目の間が広い)、小眼球症、眼球突出症、眼瞼下垂、眼瞼裂斜上(目がつり上がる)、耳介の奇形、高口蓋、口蓋裂、口蓋垂の欠如・形成不全、小顎症、尺骨(前腕の小指側の骨)の異常、尺骨の形成不全、手指の欠如・形成不全、第5指(小指)の湾曲、合指症(隣り合う指がくっついている状態)、三関節母指(親指が3本の指骨に分かれる)、大腿骨の形態異常、足の形態異常、つま先の末端が広がる、つま先の合指症、扁平足、包皮(陰茎の先端を覆っている皮膚)の形態異常、尿道下裂(尿道の開口部が陰茎の先ではなく下側にある)、精巣の形態異常、精巣の形成不全、脳室拡大、水頭症、後鼻孔閉鎖、気管食道瘻(食道と気管がつながる)、視床下部-下垂体軸の異常、神経系の形態異常、頸動脈の形態異常、大動脈の形態異常、大動脈弁の形態異常、動静脈奇形、動脈管開存、肥大型心筋症、心房中隔欠損、ファロー四徴症、肝臓の異常、十二指腸狭窄、神経節欠損性巨大結腸、メッケル憩室、腎臓の欠如・形成不全、腎臓の位置の異常、腎不全、水尿管症、再発性の尿路感染症、肛門閉鎖、子宮の異常、双角子宮(子宮頚部は一つで、子宮体部が左右に分かれる)、二分脊椎、臍ヘルニア、股関節脱臼、骨髄異形成、視力障害、眼振、斜視、視力の異常、乱視、虹彩の欠如・形成不全、白内障、聴覚異常、聴覚障害、脳神経まひ、性腺機能低下症、無精子症、停留精巣、男性の生殖能力低下、(胎児期の)子宮内発育遅延、成長遅延、反射亢進、羊水過少症、骨密度の低下、体重減少

ファンコニ貧血の世界における発症頻度は16万人に1人とされ、アシュケナージ系ユダヤ人、スペインのロマ族、南アフリカの黒人集団においてやや頻度が高いとされています。

日本におけるこの病気の発症頻度は、難病情報センターのウェブサイトに記載の日本小児血液・がん学会の疾患登録データによると、およそ出生20万人に1人、年間の発症数は5~10人とされます。そこから、国内の患者数はおよそ200人前後と推計されています。

ファンコニ貧血は、指定難病対象疾病(指定難病285)、およびファンコニ(Fanconi)貧血として小児慢性特定疾病の対象疾患となっています。

何の遺伝子が原因となるの?

ファンコニ貧血の原因として、現在少なくとも22種類(FANCAからFANCWまで、下表参照)の遺伝子変異が知られており、それら遺伝子は主に「FA経路」と呼ばれる細胞の働きに関連しているタンパク質の設計図となります。FA経路とは、特定のDNAの損傷を修復し、それにより細胞分裂の際にDNAのコピーを作るしくみ(DNA複製)を問題なく進行させる一連の働きです。

FA経路による修復は、DNA損傷の中でも特に、DNA鎖間架橋(ICL)と呼ばれる、2本のDNAの鎖の塩基が異常な形で結合しているような深刻な損傷に対応します。ICLは、体内で生成される有害物質の蓄積や、特定のがん治療薬などでも引き起こされることが知られています。ICLが起こった箇所では、DNA複製は停止されてしまいますが、そのことが引き金となってFA経路は働き始め、必要なタンパク質が損傷領域に送られることで修復が行われます。

このFA経路において重要な役割を持つFAコア複合体は、ファンコニ貧血に関連する8つのタンパク質(FANCA、FANCB、FANCC、FANCE、FANCF、FANCG、FANCL、FANCM)などが集まって形成されます。FAコア複合体は、ファンコニ貧血に関連する別のFANCD2、FANCIと呼ばれる2つのタンパク質を活性化し、それらがDNA修復タンパク質をICLの領域に送り修復することでDNA複製を進行できるようにします。

FA経路に関連する多くの遺伝子のどれかに変異があることで、FA経路は正しく働かず、その結果、DNAのICL損傷は修復されず蓄積していきます。ICLはDNAの複製を停止させ、新しいDNAが作れないことによる細胞死や、もしくは修復されないDNAの損傷が制御不能な細胞増殖を引き起こします。

ICLの蓄積による問題は、特に骨髄細胞や発達中の胎児の細胞のような「分裂を繰り返す細胞」で影響が大きく、この病気に特徴的な血液細胞の減少や身体の異常、急性骨髄性白血病やその他のがんが引き起こされると考えられています。

114 ファンコニ貧血 仕組み 230524

これまでの報告から、この病気の80~90%はFANCA、FANCC、FANCGの3つの遺伝子の変異によるとされ、難病情報センターによれば、日本ではファンコニ貧血の遺伝子変異のうち、特にFANCAとFANCGが多いことがわかっています。

また、22個の遺伝子の中には、BRCA2(FANCD1)、PALB2(FANCN)、 BRIP1(FANCJ)、RAD51C(FANCO)、BRCA1(FANCS)など、遺伝性乳がん卵巣がん/家族性乳がんの原因遺伝子として知られるものが数多く含まれていることもわかっています。

ファンコニ貧血の原因として知られる遺伝子

遺伝子名(別名) 染色体の領域 タンパク質の特徴など
FANCA 16q24​.3

FAコア複合体を形成

FANCB

Xp22​.2

FAコア複合体を形成

FANCC

9q22​.32

FAコア複合体を形成

FANCD1(BRCA2)

13q13​.1

DNAの修復に関与

FANCD2

3p25​.3

FAコア複合体に活性化され、修復タンパク質を送り出す

FANCE

6p21​.31

FAコア複合体を形成

FANCF

11p14​.3

FAコア複合体を形成

FANCG

9p13​.3

FAコア複合体を形成

FANCI

15q26​.1

FAコア複合体に活性化され、修復タンパク質を送り出す

FANCJ(BRIP1)

17q23​.2

DNAの修復に関与

FANCL

2p16​.1

FAコア複合体を形成

FANCM

14q21​.2

FAコア複合体を形成

FANCN(PALB2)

16p12​.2

DNAの修復に関与

FANCO(RAD51C)

17q22

DNAの修復に関与

FANCP(SLX4)

16p13.3

DNAの修復に関与

FANCQ(XPF・ERCC4)

16p13.12

DNAの修復に関与(色素性乾皮症の原因遺伝子)

FANCR(RAD51)

15q15​.1

DNAの修復に関与

FANCS(BRCA1)

17q21​.31

DNAの修復に関与

FANCT(UBE2T)

1q32​.1

FAコア複合体と共に機能してFANCD2、FANCIを活性化する

FANCU(XRCC2)

7q36​.1

DNAの修復に関与

FANCV(REV7・MAD2L2)

1p36.22

DNAの修復に関与

FANCW(RFWD3)

16q23​.1

DNAの修復に関与

ファンコニ貧血は、ほとんどの場合、常染色体劣性(潜性)遺伝形式で遺伝します。この遺伝形式では、父母から受け継いだ両方の遺伝子に変異があることで発症します。両親はこの病気の保因者ではありますが、病気は発症しません。

Autosomal Recessive Inheritance

頻度は少ないですが、病気の原因がFANCB遺伝子の変異である場合には、X連鎖劣性(潜性)遺伝形式で遺伝します。この遺伝形式では、病気が遺伝する確率が男女で異なります。男性(XY)である父親が変異を持つ場合、Y染色体を息子に、X染色体を娘に受け継がせるため、息子には病気が引き継がれませんが、娘には必ずその変異のあるX染色体が受け継がれることになります。女性(XX)である母親が変異を持つ場合は、50%の確率でその原因遺伝子が存在するX染色体を娘または息子に受け継がせることになります。男性はX染色体が1本のみですが、女性はX染色体を2本持っているため、もう1本の正常な遺伝子が働くことで機能を補完します。男性は発症し、女性は保因者となります。

X Linked Recessive Inheritance

また、FANCR(RAD51)遺伝子の変異が原因となる場合には、この遺伝子の変異は両親から引き継いだ2つの遺伝子のどちらかに変異があることで発症する常染色体優性(顕性)遺伝形式をとる可能性がありますが、これまでの報告では多くの場合、親からの遺伝ではなく孤発例であることが知られています。

Autosomal Dominant Inheritance

どのように診断されるの?

この病気の診断基準として、

1)検査により、染色体不安定性やDNA鎖間架橋薬剤の処理による染色体の断裂などの特徴的な染色体が観察される

2)先天性角化不全症、シュワッハマン・ダイアモンド(Schwachman-Diamond)症候群、ピアソン症候群、色素性乾皮症、毛細血管拡張性運動失調症、ブルーム症候群、ナイミーヘン症候群の7つの疾患ではないことを確認(鑑別診断)

3)汎血球減少(ヘモグロビン:10g/dL未満、好中球数:1,000/µL未満、血小板:100,000/µL未満、のいずれか)

4)皮膚の色素沈着

5)親指の欠損、つま先合指、小頭症などの身体の形態異常(8割に何らかの異常が見られるが多様)

6)低身長(半数以上は年齢相応身長の−2SD以下)

7)性腺機能不全

上記の1)、2)を満たし、さらに症状として3)から7)のうち1つ以上を満たす場合にこの病気と診断されます。

また、1)、2)を満たさない場合でも3)から7)の1つ以上を満たし、さらに遺伝学的検査によってファンコニ貧血遺伝子の変異を認めた場合にもこの病気であると診断されます。

どのような治療が行われるの?

ファンコニ貧血では、以下のような治療が行われます。

  • 輸血や造血因子の投与:造血障害に対しては、貧血への赤血球輸血、血小板減少への血小板輸血などが行われ、白血球減少に関しては白血球を増やすホルモンや造血因子の投与などが行われますが効果は一時的であるとされます。
  • 薬物療法:白血球が減少し、敗血症や肺炎などの感染症が見られた場合には抗生剤や抗真菌剤・抗ウイルス剤などでの治療が行われます。
  • 造血(幹)細胞移植:造血不全や造血器腫瘍に対して、唯一治癒を期待できる治療とされ、骨髄異形成症候群や白血病になる確率が大きく低下するとされます。骨髄以外の粘膜や消化管などの臓器については発がんのリスクは低下しないため、移植をしてもがんに対する注意は必要です。
  • 固形がんや身体奇形に対する手術療法:ファンコニ貧血では固形がんの化学療法は困難であるとされます。

どこで検査や治療が受けられるの?

日本でファンコニ貧血の診療を行っていることを公開している、主な施設は以下です。

※このほか、診療している医療機関がございましたら、お問合せフォームからご連絡頂けますと幸いです。

患者会について

※再生不良性貧血およびファンコニ貧血を含めた関連する血液疾患と診断された患者さんとその家族によって構成され、各地での医療講演会や会報にて、最新の情報発信しています。

参考サイト

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