全国の血友病患者さんを支援、ヘモフィリア友の会全国ネットワーク

遺伝性疾患プラス編集部

日本では、血友病および類縁疾患の患者さん・ご家族を支援する複数の患者会が、全国で活動しています。「一般社団法人ヘモフィリア友の会全国ネットワーク」は、個々の患者会を横断する緩やかな連絡体として、全国の患者さんやそのご家族を支援する患者支援団体です。

1980年代頃、さまざまな理由から支援活動が停滞してしまった全国の血友病患者会。「横のつながりを強化しよう」という思いから各会の代表者が集まり、ヘモフィリア友の会全国ネットワークの活動は始まりました。そして、2008年には一般社団法人として、新たに活動を開始。運営するウェブサイト「ヘモフィリアねっと」を通じて、患者さん同士の交流の場を提供したり、疾患啓発活動を行ったりするなど、さまざまな活動を行っています。

今回は、ヘモフィリア友の会全国ネットワーク副理事長の大西赤人さんに、団体設立までの経緯から、今年開催する「バーチャル・ヘモフィリアシンポジウム2020」のお話まで、詳しく伺いました。

ヘモフィリア友の会全国ネットワーク副理事長 大西赤人さん

 

団体名一般社団法人ヘモフィリア友の会全国ネットワーク
対象疾患血友病および類縁疾患
対象地域全国                  
会員数地域血友病患者会26団体(2020年現在)            
設立年2008年(法人化は2012年) 
連絡先

公式ウェブサイトの「お問い合わせフォーム」から

「メール」webmaster@hemophilia-japan.org

サイトURLhttps://hemophilia-japan.org/
SNSヘモフィリアひろば(会員限定)
主な活動内容

全国で活動する血友病の患者会を取りまとめる団体として、血友病患者さんやそのご家族の支援を行う。

運営するウェブサイト「ヘモフィリアねっと」では、血友病に関する基礎知識から最新情報までをわかりやすく解説するなど、疾患啓発活動も行っている。

一方で、患者会の全国組織として、国や製薬企業などへの働きかけも行っている。

薬害エイズをきっかけに長くつらい時期…2008年に全国組織を再建

全国組織として活動を始めたきっかけについて、教えてください。

以前にも、血友病や類縁疾患の患者会の全国組織はありましたが、さまざまな理由から、事実上その活動は休止状態となっていました。その後、全国的な組織を再建しようという動きが起こるまで、各地域の患者会の活動は停滞することとなります。

まず、1980年代に、いわゆる「薬害エイズ」が発生しました。これは、血友病治療に用いる血液凝固因子製剤を通じて、患者がHIVに感染してしまうという悲しい出来事でした。治療によってHIVに感染した患者への差別が出てくるなどして、徐々に患者たちの間に距離が生じてしまったんです。全国にはさまざまな患者会がありましたが、この出来事により、多くの会が活発に活動できない状況に追い込まれてしまいました。当時、患者会を統一していた全国会もまた、事実上、休止状態となりました。1990年代に入ると、各地域の患者会の中には、ほぼ消滅に近い状態の会も出てくることとなります。

わたしは、その頃すでに荻窪病院の「むさしのヘモフィリア友の会」の活動に関わっていました。わたし自身、血友病の治療のために、子どもの頃からさまざまな病院に通院してきましたが、荻窪病院を受診していたことが患者会に関わるようになったきっかけです。活動の継続を断念していく会が出てくる中、むさしのヘモフィリア友の会は、「みんなで会を維持していこう」という気持ちが強かったんですね。そのため、何とか活動を続けていました。全国には、むさしのヘモフィリア友の会のように活動を維持している患者会がいくつかありましたが、各会を束ねるような全国組織は無いという状況が、そこから長く続くこととなりました。

「薬害エイズ」をきっかけに、全国の患者会は活動が困難な状況に追い込まれてしまったのですね。そこから、どのようにして全国組織の再建が行われたのでしょうか?

2000年代に入ると、東京医科大学病院の福武勝幸先生を中心に、医療従事者と患者会の代表者が集まって意見交換をする機会が定期的に設けられるようになりました。福武先生のおかげもあり、わたしたちは「改めて、全国の患者会で集まることはできないだろうか?」と、話し合えるようになったんです。そこから、わたしを含めた各地域の患者会の代表を中心に、全国組織の再建に向けて活動が始まりました。

わたしたちは、「上下関係のある全国組織ではなくて、横のつながりを強化するための全国組織をつくろう」と考えました。そこで2008年に、まずは任意団体として活動を開始し、後に一般社団法人「ヘモフィリア友の会全国ネットワーク」となりました。ヘモフィリア友の会全国ネットワークは、全国で活動する患者会を横断する「緩やかな連絡体」となり、血友病患者の連携を強化することを目的としています。また、医療施設、製薬企業、行政との連絡や交渉、折衝に際して、幅広く日本の血友病者の意向を体現していく役割も担い、活動しています。

患者さんであれば誰でも参加可能、会員限定SNS「ヘモフィリアひろば」

サイト内にある「ヘモフィリアひろば」は、どのようなサービスですか?

会員限定のSNSサービスです。患者会に所属していない方でも、患者や家族であれば、どなたでも会員登録できます。また、ヘモフィリアひろばでは、血友病の話だけでなく、趣味など自由なテーマで「コミュニティ」をつくり、交流することが可能です。

TwitterやFacebookといったオープンなSNSではなく、「ヘモフィリアひろば」はクローズドなSNSです。患者や家族にできるだけ安心して利用していただきたいという考えから、クローズドなSNSの運用を決意しました。そのため、病気に関わる個人情報も安心して公開していただけます。

また、会員登録の際には、患者や家族であるかの確認にご協力いただいています。たとえば、「通院している病院はどこですか?」「主治医の先生はどなたですか?」などを伺います。その中で、血友病に関わりがないと思われる方には、ご利用をご遠慮いただくようにしています。

ヘモフィリアひろばは、ウェブサイト「ヘモフィリアねっと」内で利用できる
「ヘモフィリアひろば」は、患者さんが安心してご利用いただけるサービスなのですね。実際に、患者さん同士どのような交流をされていますか?

基本的に全員が利用できる「みんなのコミュニティ」では、病気に関するさまざまな不安や相談ごとを書き込むことができます。その書き込みに対して、他の患者から「こんな経験をしたことがあるよ」「不安だと思うけど、元気を出してくださいね」という励ましのメッセージが投稿される、というように、みなさん交流を深めています。

例えば、患児をお持ちのお母さんで、地方にお住まいの場合、近くに同じような立場の人がいないというケースは多くあるんですね。そうようなお母さんですと、ヘモフィリアひろばを通じて、他のお母さん方と交流されています。その他にも、「どんな駆血帯(くけつたい)を使ってる?」などツールに関する話題や、「新聞に血友病の記事が載っていたよ」といった情報共有の話題なども見られます。

ヘモフィリアひろばを通じて、普段はなかなか会えない、全国の患者や家族と気軽に交流できる点も好評をいただいている理由だと思います。

2020年はオンラインで「バーチャル・ヘモフィリアシンポジウム2020」を9月27日に開催予定

「バーチャル・ヘモフィリアシンポジウム2020」の内容について、教えてください。

5月に開催を予定していたのですが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けて中止となり、オンライン配信に変更しました。日時は9月27日(日)13:00~17:00(予定)で、参加費は無料です。今回は「もっと自分を知るために」をテーマに、以下の通り、血友病に関わるさまざまな方々による講演、パネルディスカッションを予定しています。

  • 講演1:「世界と日本における血友病遺伝子治療の現状」大森司氏(自治医科大学医学部 教授)
  • 講演2:「先天性止血異常症の女性をめぐるさまざまな課題」長尾梓氏(荻窪病院 医師)
  • パネルディスカッション:「先天性止血異常症の女性をめぐる文化・社会的話題」

 

長尾先生の講演やパネルディスカッションでも扱われるテーマ「先天性止血異常症の女性」については、今回、フォン・ヴィレブランド病の女性患者さんの登壇も予定しています。フォン・ヴィレブランド病患者さんがどのような症状で苦しまれているのか、まだまだ知られていないというのが現状だと思います。当事者のお話を通して、フォン・ヴィレブランド病のリアルな状況をお伝えできるように、いま準備を進めているところです。

昨年開催された、全国ヘモフィリアフォーラム2019の様子

また、まだ診断を受けていないフォン・ヴィレブランド病患者さんでは、ご自身の症状に気付かれてない場合もあると思います。例えば、女性の月経(生理)について、ご自身の出血量が通常か、異常かという判断をすることは難しいと聞きます。そのため、当事者のお話を通じて、患者以外の多くの女性の方々にも広く先天性止血異常症のことを知ってもらえたら、と考えています。

バーチャル・ヘモフィリアシンポジウム2020の詳細については、公式サイトを通じてお知らせしています。

患者さんやご家族みんなで手を取りあい、力を蓄えよう

新型コロナウイルスの感染拡大は、活動にどのような影響を与えていますか?

開催予定だったさまざまなイベントが、中止もしくはオンラインでの開催に変更せざるを得ない状況になっています。先にご説明したヘモフィリアシンポジウムもそうですし、6月に開催が予定されていた世界血友病連盟(WFH)の世界大会も、オンラインでの開催となりました。

今後も、会場でのイベント開催など、現地での活動は制限されることが予想されます。一方で、オンラインを活用することにより、これまでは遠方にお住まいなどの理由でイベントに参加できなかった方々にも、積極的に参加していただければ嬉しいですね。

最後に、血友病患者さんやそのご家族、その他、患者さんたちを支える方々へのメッセージをお願いします。

以前と比べて、日本の血友病患者を取り巻く環境は大きく改善しています。治療の発展により、適切な治療を受ければ、基本的に出血しない状態で日常生活を送ることさえも期待できるようになりました。

一方で、病気に関わる課題が残っていることも事実です。例えば、治療については、まだ根治療法が確立されている段階ではなく、遺伝子治療は開発途中です。また、将来的に遺伝子治療が現実になった場合であっても、次世代への遺伝の問題は残るでしょう。そのため、患者を取り巻く多くの方々には、血友病を含めた「遺伝性疾患」のことを正しく知ってもらい、患者や家族が生活しやすい社会を目指すための一助となっていただけたら嬉しく思います。

血友病に関する課題が全て解決するまでは、みんなで手を取りあい、大きな血友病の「輪」をつくり、力を蓄えておくことが大切だと思います。

 

みんなで手を取りあって血友病の「輪」をつくり、力を蓄えよう(イメージ写真)

 


 

凝固因子製剤による補充療法など血友病治療の発展により、「日本の血友病患者を取り巻く環境は大きく改善している」と、実感を持って話してくださった大西さん。一方で、新型コロナウイルスの影響など、患者さんやそのご家族を取り巻く環境は日々変化しています。「バーチャル・ヘモフィリアシンポジウム2020」のオンライン開催など、今後も、その時代にあわせた患者さん支援を続けていくことを、力強く話してくださいました。

「バーチャル・ヘモフィリアシンポジウム2020」は、の詳細については、公式ウェブサイト「ヘモフィリアねっと」に掲載されています。興味のある方は、ぜひ確認してみてくださいね。(遺伝性疾患プラス編集部)

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