若い年代の血友病当事者・保因者がつながる場、YHC(Youth Hemophilia Club)

遺伝性疾患プラス編集部

血友病は、血液凝固因子の活性が全くない、もしくは、十分な活性が得られないために非常に血が止まりにくくなる遺伝性疾患です。不足する血液凝固因子の種類によって「血友病A」と「血友病B」に分類されます。血友病は、X連鎖劣性(潜性)遺伝という遺伝形式をとることから、患者さんのほとんどは男性で、女性は保因者となります。

今回ご紹介するのは、20代から40代のメンバーを中心とした、ご家族、当事者、保因者向けの患者支援団体「YHC(Youth Hemophilia Club:ユース・ヘモフィリア・クラブ)」です。代表の阪口直嗣さんは、ご自身もまた20代の血友病の当事者で、職業は看護師です。大阪ヘモフィリア友の会の理事としても活動する中、2023年にYHCの活動も始めました。幼少期の頃、病気を理由に友だちとの関係に悩んだ時期があることから、「病気をマイナスなイメージでなく、プラスのイメージに変えていきたい」と、阪口さん。若い年代の方々を対象に、今回、活動を始められたそうです。YHCでは、看護師の阪口さんをはじめ、医療従事者の当事者も運営に関わります。今回は、その活動内容を中心にお話を伺いました。

Hemophilia23 01
YHCご提供
団体名 YHC(Youth Hemophilia Club)
対象疾患 血友病
対象地域 全国
会員数 32人(2024年1月現在)
設立年 2023年
連絡先 公式LINEオープンチャット
サイトURL なし
SNS 公式LINEオープンチャット
主な活動内容 20~40代の血友病の当事者(保因者を含む)向けに支援活動を行う。主に、公式LINEオープンチャットを通じて相談の場を提供中。その他、イベント開催を通じてつながる機会を提供している。

「病気のマイナスなイメージを変えていく」YHCの活動開始を決意

活動を始めたきっかけについて、教えてください。

2年前、血友病の患者会の活動に参加したことがきっかけでした。たまたま、YHCの前代表が活動を引き継ぐことを考えていたタイミングで、「阪口くん、やってみない?」と声をかけていただいたという経緯です。「病気をマイナスなイメージでなく、プラスのイメージに変えていきたい」と考えていたこともあり、YHCの代表として活動を始めました。当時から、別の患者会の活動に関わっていたのですが、自分が代表として活動することで、よりコミットしていきたいと考えました。

YHCでは、社会の血友病に対するイメージを変えていくために、まずは、当事者やご家族の持つイメージを変えていきたいと考えています。このように考えるようになったのは、自身の幼少期の経験が影響しています。これはあくまでも僕の経験ですが、友だちの親御さんたちが「(けがをさせたら大変だから)この子と遊ばせるのは控えよう」と考え、お子さん(=阪口さんの友だち)にそう伝えていたようです。ですから、僕は自然と友だちから仲間外れにされる機会が増えていきました。今でも、当時の経験は強く記憶に残っています。

その他、血友病では、運動したいと思っても、出血リスクがあるため思うように運動をすることができず、ストレスを抱えている人もいます。また、親御さんも初めての経験なので「わからなくて不安」というケースが多いと伺います。ですから、年齢の近い世代の当事者から「自分の時は、こんな風に親や先生と話し合って運動していたよ」など、具体的な経験を教えてもらい、知っていただく機会をつくりたいと考えました。

幼少期の経験が、今の活動につながっているんですね。中でも特に印象に残っていることはありますか?

今の自分があるのは、家族のおかげだということですね。先ほどの話にあったように、幼少期、僕は友だちから仲間外れにされていた時期があったんです。小学4年生くらいの時で、学校の友だちから意図的に距離を取られたり、陰で悪口を言われたりして、学校の中で孤立していきました。僕は、親を頼ることが苦手な子どもだったので、苦しくても一人で抱えることが多かったんです。でも、家族がそんな自分と根気よく向き合って、話を聞き続けてくれたおかげで、大変な時期を乗り越えられました。

特に、父の言葉をきっかけに自分の考え方が変わっていきました。「病気を持っていることは、マイナスに捉えられることが多いかもしれない。でも、マイナスなイメージをプラスに変えることができるのは、自分自身だけだよ」という言葉です。「自身のつらい経験も、同じ血友病の当事者にとっては何かの助けになるかもしれない」と考えるようになりました。そう考えると、自分の経験は一つの武器にもなるのだと思え、血友病に対して初めてプラスのイメージを持てるようになったんです。

また、血友病は今のところ、病気と一生向き合っていく必要があり、生きていくためには医療費がかかります。幼少期から、そういった医療費のことも理解していたので、「自分は生きているだけで、家族に迷惑をかけているのかな…」と、思い悩んだ時期もありました。それは、「生きることをやめたほうが良いのではないか?」と考えることもあったほど深刻でした。でも、先ほどの父の言葉をきっかけに「自分だから、できること」を考えられるようになりました。そして、次第に「誰かの役に立つ仕事に就きたい」と考えるようになり、現在の看護師という職業を意識するようになったのだと思います。

仕事・パートナーの悩みなど、年代の近い当事者だからこそ相談できる

YHCの活動には、どういった方々が参加されていますか?

YHCは現在、20~40代の血友病A・血友病Bの当事者、保因者の方を対象としています。さまざまな職業の方々が参加されており、当事者の中には看護師、医師といった医療従事者もいます。

Hemophilia23 02
YHCご提供(中央が阪口さん)
年代が近い人同士の集まりは、どういった良さがあると感じていますか?

一番の良さは、何でも話しやすいことだと感じています。イメージとしては、学生時代の部活動に近い雰囲気だと思います。メンバーの年代が近いので、仕事やパートナーに関わる悩みも相談しやすいと感じています。例えば、「血友病のことを職場の人やパートナーへどのように伝えるか?」は、人によって考え方が異なりますよね。正解が一つとは限らないテーマを話しやすいことも、年代の近い人たちの集まりならではだと感じます。

自分は、YHC以外の患者会でも活動しているので、さまざまな年代の血友病当事者と関わりを持つ大切さも感じています。一方で、同世代でのつながりも必要だと感じており、YHCは自分にとっても大切な場となっています。

LINEやイベントを通じたお悩み相談

現在の活動内容について、教えてください。

LINEでのお悩み相談対応や、血友病当事者向けのイベントでの交流活動が現在の主な活動内容です。お悩み相談は、YHCの公式LINEオープンチャットを中心に、株式会社QLifeの運営する血友病オンラインコミュニティでも対応しています。

その他、各地域の血友病患者会や医療施設などが主催するサマーキャンプなどに参加して、皆さんと交流しています。例えば、自己注射を始める患児さん向けにレクチャーをしたり、心配ごとについてお話を伺ったりします。自分は当事者であり看護師ですし、YHCには他にも医療従事者のメンバーがいます。ですので、ぜひ気軽に相談していただけたらうれしいですね。

Hemophilia23 03
YHCご提供
血友病の当事者からは、特にどういったお悩み相談が寄せられていますか?

イベントなどで直接お話を伺っていると、特に、運動に関わるお悩みが多いと感じます。幼少期は皮下注射の薬で対応していたものの、運動量が増えることで静脈注射のお薬に切り替える必要が出てくる場合があります。例えば、中学生になって「運動部に入りたい」と思った場合です。その時に初めて静脈注射のやり方を覚える方がほとんどなので、関連するお悩みが寄せられています。

その他、コミュニケーションに関わるお悩みも多い印象ですね。中には、バスケットボールやラグビーといった、出血リスクの高い運動をやりたいと考える方もいらっしゃいます。その場合、家族から心配されることがわかっているので、「どのように親に伝えたらいいか?」といったお悩みも多いです。僕自身も運動のことで悩んだ経験があるので、少しでも皆さんが前に進めるきっかけになればと思い、お話を伺っています。“近所のお兄ちゃんに相談する”感覚で、これからも相談していただけたらうれしいですね。

阪口さんご自身も、幼少期に運動のことで悩まれた経験をお持ちなんですね。

そうなんです。僕は元々、「サッカーをやりたい!」と思っていたんですが、サッカーは出血リスクの高いスポーツの一つなので、家族からとても心配されまして…。「それだったら、野球をやりたい!」と相談して、自分の場合は、やらせてもらえるようになりました。最初は野球も反対されていたのですが、中学生になった時に「やっぱり、野球をやりたいんだ」と、改めて家族に相談してみたんです。自分なりに、「なぜ野球をやりたいのか?」を一生懸命に家族へ伝えたところ、父が応援してくれました。もちろん、家族の心配は完全にはなくならなかったのですが、父も一緒に家族に働きかけてくれました。

「お前の人生だから、やりたいことをやりなさい。その代わり、絶対にレギュラー取るんだぞ!」と、父からプレッシャーをかけられたことを覚えています(笑)。けがで苦しんだ時期もありましたが、父と約束したレギュラーを取って試合に出る所まで活躍することができました。野球部での経験は、今の自分にとって大切な宝物です。あの時、応援してくれた父や家族には本当に感謝していますね。

Hemophilia23 04
ご家族から反対されていたものの「やっぱり、やりたい」と相談し、野球部へ(写真はイメージ)
今後、新たな活動に取り組むご予定はありますか?

YHCのLINE公式アカウントの中で、運営メンバーの紹介を行っていく予定です。どのような経験をしてきたメンバーかを知っていいただくことで、より身近にYHCを感じてもらえたらうれしいですし、こうして皆さんが、相談しやすい雰囲気をつくっていきたいと思っています。また、YHC主催イベントも開催していく予定です。具体的には、安心して運動できる場をつくっていきたいと考えています。

また、地域によっては孤立している血友病の当事者や家族がいらっしゃる状況を目の当たりにする機会があり、課題だと感じています。もし、必要な情報を得られずに苦労している方がいらっしゃったら、ぜひ僕たちの活動も選択肢の一つとして知っていただけたらうれしいです。YHCの公式LINEオープンチャットは、お住まいの地域に関わらず無料で参加することができますので、ぜひ気軽に参加していただけたらと思います。

看護師を志した理由と世界血友病連盟(WFH)での経験 

看護師を目指した理由について、教えてください。

先ほどの話とも重なりますが、父の言葉をきっかけに「誰かの役に立つ仕事に就きたい」と考えるようになりました。看護師という職業を意識するようになったのは、小学5年生の頃の入院経験が影響しています。

当時、僕は盲腸の手術で入院することになりました。手術自体は簡単なものと聞いていたのですが、自分の場合は血友病に伴う出血管理が必要でした。初めての手術だったこともあり、当時はとても不安で、怖くて夜もなかなか眠れないほどだったんです。そんな自分のもとへ、夜、看護師さんが来てくれたんですね。「私が手を握っているから、大丈夫だよ。何か不安なことがあれば言ってね」と言ってくれて、本当に嬉しかったです。一方で、小学5年生で思春期だったこともあり、「恥ずかしいから、絶対に他の人に言わないでね」とお願いしていたこともよく覚えています(笑)。看護師さんに手を握ってもらうと、不思議と安心することができて、すぐに眠ることができました。恐らく、10分程度の時間でしたが、今、自分が看護師として働いたことで、いかに貴重な時間だったかを改めて実感しています。

Hemophilia23 05
「看護師さんに手を握ってもらうと、不思議と安心することができた」と、阪口さん(写真はイメージ)

これは、看護師の専門書で知った考え方なのですが、看護師は「病気」だけでなく患者さんという「人」を看る(みる)仕事なのだそうです。当時、自分の手を握ってくれた看護師さんの行動も、「人」と向き合われている結果なのかなと感じました。自分もこんな風に患者さんに向き合い、患者さんにとって一番身近な存在として医療に関わりたいと考え、看護師の仕事を選びました。

患者会への参加などで血友病の当事者・ご家族とつながるようになり、ご自身に変化はありましたか?

皆さんとのつながりによって、以前よりも、視野が広がったと感じています。自分は、YHCの他、理事として大阪ヘモフィリア友の会の活動にも関わっています。自分が幼少期の頃は、父が患者会の活動に参加してくれていたんですね。自分が高校3年生になった頃、看護師を目指すための受験がなかなか上手くいかない時期がありました。その時、世界血友病連盟(WFH)がイギリスで開催されるタイミングで、ありがたいことに「阪口くん、イギリスに行ってみない?」と声をかけていただいたんです。WFHに参加し、海外での医療や血友病治療の現状を目の当たりにして、どんどん視野が広がっていくのを感じました。そこから、自分もスタッフとして、患者会の活動、サマーキャンプなどに積極的に参加するようになりました。イギリスに行かせていただく条件として、「会の活動に参加してね」と言われていたこともあったのですが(笑)。あの時、会の活動に参加するようになって本当に良かったと感じています。看護師としても、血友病の当事者としても、大切な経験だったと思います。

笑顔で生きる、病気の有無に関わらず「人」と向き合うことを大切にできる社会へ

最後に、遺伝性疾患プラスの読者にメッセージをお願いいたします。

僕は、「笑顔で生きること」を大切にしています。自分が笑顔でいることで、多くの方々との縁がつながっていると感じているからです。血友病など遺伝性疾患と向き合う中で、きっと、皆さんはさまざまな出来事と向き合われていることと思います。大変なこともあると思いますが、そんな時こそ笑顔でいることを思い出していただけたらうれしいですね。僕自身も、上手くいかないと感じる時こそ、自分を鼓舞するように笑顔でいたいと思います。

Hemophilia23 06
「大変なこともあると思いますが、そんな時こそ笑顔でいることを思い出していただけたら」と、阪口さん

そして、病気の有無に関わらず、その人自身と向き合うことを大切にできる社会にしていきたいです。例えば、自分が幼少期に経験した「血友病だから、遊ぶのは控えよう」といった誤った認識を無くしていきたいです。もし、YHCの活動に興味を持ってくださった方がいたら、ぜひご連絡ください。しんどい時こそ、笑うときっといいことがあります!


YHCのお話を伺う中で、同年代での活動ならではの“何でも話しやすい”雰囲気が伝わってきました。もし、病気に関してご自身が悩まれていることについて「他の人は、どうしているんだろう?」と思われたら、同じ疾患を持つ年齢の近い人に聞くことも大切かもしれません。

また、自己注射などを始める患児さんたちにとっては“何でも聞ける”先輩の立場で、さまざまなお悩み対応も行われているYHC。初めてのことばかりで不安が多いという親御さんにとっても、具体的な経験を聞ける場として、ぜひ活用していただければと思います。(遺伝性疾患プラス編集部)

関連リンク