クリーフストラ症候群

遺伝性疾患プラス編集部

英名 Kleefstra syndrome
別名 Kleefstra症候群、9q34欠失症候群、9q subtelomeric deletion syndrome、9q- syndrome、9q34.3 deletion/microdeletion syndrome、Chromosome 9q deletion syndrome
日本の患者数 不明
発症頻度 不明
子どもに遺伝するか ほとんどが孤発例
発症年齢 新生児期より
性別 男女とも
主な症状 特徴的な顔立ち、知的障害、発達遅滞、先天性心疾患など
原因遺伝子 9番染色体にあるEHMT1遺伝子など
治療 対症療法
もっと見る

どのような病気?

クリーフストラ症候群は、発達遅滞、知的障害、特徴的な顔立ち、乳児期の筋緊張低下、先天性心疾患などの幅広い症状が見られる遺伝性疾患です。

この病気では多くの場合、中程度から重度の知的障害が見られますが、軽度から正常範囲内の人もいます。表出する言葉の発達が重度に制限される人が多く、言葉を豊かに話すことができる人は少ないとされます。一方で、全般的な言語の能力は高く、非言語のコミュニケーション、例えば手話や絵文字を使用してコミュニケーションを取ることができる場合が多いとされます。運動の発達は、小児期に見られる筋緊張低下のために遅れることが多いものの、ほとんどの場合2~3歳以降に1人で歩くことができるようになります。

クリーフストラ症候群で見られることが多い顔立ちや見た目の特徴には、小さい頭(小頭症、短頭症)、広い額、左右つながった眉毛、左右の目の間隔が開いている(眼間開離)、軽度につり上がった目(眼瞼裂斜上)、耳輪(耳の外側の内巻きになった部分)が太い、顔の中央がくぼんでいるように見える(顔面中部後退)、短く上向きの鼻(鼻孔)、テント状に三角になった上唇、外向きに裏返った下唇、大きな舌(巨舌)、突き出た顎などがあります。顔面の中部後退や突き出た顎は年齢が上がっても維持され、だんだん粗い顔立ち(皮膚が厚く目、鼻、口、顎の境界がはっきりしない)になっていく傾向があるとされます。

また、新生児期に歯が生えてきたり、乳歯が長く残るなどの歯の異常も見られることがあります。生まれた時の体重は多くの場合正常範囲内もしくは範囲を超えており、小児期に体重が増加し半数程度の人は肥満となる場合があります。

この病気の形態的な異常は、脳や心臓など他の部分でも起こる可能性があり、脳梁欠損症や心室中隔欠損症などのほか、腎臓、泌尿生殖器にも異常が起こる場合があります。

また、行動上で見られる症状として、睡眠障害(頻繁に夜間や早朝に覚醒する、過度に日中覚醒する)、常同症(同じ言葉や動作を繰り返す)、軽度の自傷行為、幼児期における自閉スペクトラム症などがあります。思春期以降に、興味や熱意が極度に失われる無関心や、無反応になる緊張病のような症状が見られることがあります。

その他に、てんかん発作、重度の呼吸器感染症、遠視などの目の異常、胃腸症状、難聴なども発症する可能性がある症状となります。

クリーフストラ症候群で見られる症状

高頻度に見られる症状

粗い顔立ち、眼間開離、平坦な頬、短い鼻、上向きの鼻孔、上唇の中央の曲線(キューピッドの弓)が目立つ、テント状の上唇、下唇が裏返った状態、筋緊張低下、全般的発達遅滞、重度知的障害、発話と言語発達の遅れ

良く見られる症状

小頭症、短頭症、広い額、高いアーチ型をした眉毛、眉毛癒合(左右の眉毛がつながっている)、眼瞼裂斜上、耳輪(耳の外側の内巻きになった部分)が太い、巨舌、下顎前突、聴覚障害、慢性中耳炎、心室中隔欠損症、大動脈2尖弁(通常3つある大動脈弁の弁尖が2つになる形態異常)、不整脈、大動脈狭窄症、便秘、肥満、攻撃的な行動、自閉症的行動、自傷行為、睡眠障害

しばしば見られる症状

非対称な顔つき、口角が下がる、歯の早期萌出、歯の萌出が遅い、脳梁欠損症、大脳皮質萎縮症、肺動脈狭窄、胃食道逆流症、幽門狭窄、脊柱側弯症、ヘルニア、関節の可動性の制限、水腎症、腎嚢胞、腎不全、便失禁、停留精巣、陰茎の形成不全、小さな陰茎、尿道下裂(尿道の開口部が陰茎の先ではなく下側にある)、発達退行、呼吸困難、常同運動、呼吸器感染を繰り返す、てんかん発作

クリーフストラ症候群は非常に稀な病気であり、この病気の発症頻度や、国内における患者さんの数は正確にはわかっていません。米国のワシントン大学を中心としたスタッフが運営している遺伝性疾患情報サイト「GeneReviews」によれば、神経発達障害全体における新規変異の発生率や他のまれな遺伝性疾患などからのデータから推測し、クリーフストラ症候群の発症頻度は2万5,000人から3万5,000人に1人程度であると推定されています。

クリーフストラ症候群(9q34欠失症候群)は、「先天異常症候群」として、国の指定難病対象疾病(指定難病310)に含まれる場合があります。

何の遺伝子が原因となるの?

クリーフストラ症候群は、9番染色体の9q34.3と呼ばれる領域に存在するEHMT1遺伝子の変異や欠損によって、その遺伝子の機能が失われることで引き起こされます。EHMT1遺伝子は、ヒストンと呼ばれるタンパク質を修飾する酵素である、ユークロマチンヒストンメチルトランスフェラーゼ1(EHMT1、GLPとも呼ばれる)の設計図として働きます。

ヒストンは、DNAに結合し染色体の構造を作らせるために必須となるタンパク質です。ヒストンメチルトランスフェラーゼは、ヒストンにメチル基と呼ばれる構造を結合させ(メチル化)、特定の遺伝子の働きをオフにする(抑制する)機能を持っています。ヒストンのメチル化による遺伝子の抑制は、身体の正常な発生や機能に広く関与しています。

クリーフストラ症候群の人の多くで、9番染色体のEHMT1遺伝子を含む100万塩基対程度の配列の欠失(一部の遺伝子とともに消失)が見られます。染色体の長い方(q)が欠損することから、この病気は9qマイナス症候群、9q34欠失症候群などの名称で呼ばれることもあります。欠失した領域内のEHMT1遺伝子の機能が失われることがこの病気の原因となりますが、欠失が起こる領域はより短い場合や長い場合など個人差があり、別の遺伝子の機能が失われることでさらに他の症状が併せて引き起こされる場合もあります。

一方、およそ4人に1人では9番染色体の欠失はなく、EHMT1遺伝子の変異によってこの病気が引き起こされます。その結果、EHMT1酵素が正しく作られないような変化を引き起こし、作られた酵素は不安定だったり適切に働かなかったりします。

これらの原因によるEHMT1酵素の欠損から、多くの器官や組織で特定の遺伝子の適切な活性制御が行われなくなります。その結果、クリーフストラ症候群に特徴的なさまざまな症状が引き起こされると考えられています。しかし、それぞれの症状を引き起こす詳細なメカニズムはまだわかっていません。

132 クリーフストラ症候群 仕組み 1

132 クリーフストラ症候群 仕組み 2

また、米国の研究機関が運営する遺伝性疾患データベース「OMIM」では、クリーフストラ症候群2として7番染色体の7q36.1領域にあるKMT2C遺伝子を原因とする疾患が記載されています。

クリーフストラ症候群ではほとんどの場合、両親はこの病気を発症しておらず、卵子や精子、胎児期などにおいて変異や欠失が生じたことによる孤発例として発症します。そのため多くの場合、家族内にこの病気の人がいることはありません。

しかし、病気を発症していない親の染色体において均衡型転座(異なる染色体間で一部が入れ替わるが全体は重複や欠失が無い転座)があり、子どもが受け継ぐ際に不均衡型転座(重複や欠失がある転座)となることでこの病気を発症することがあります。

EHMT1遺伝子の欠失や変異は、理論上は常染色体優性(顕性)遺伝形式で遺伝します。この遺伝形式では、親がこの病気を発症している場合に子どもが病気を発症する確率は50%となります。

Autosomal Dominant Inheritance

どのように診断されるの?

クリーフストラ症候群の診断は、「小頭症または短頭症を伴う重度の知的障害(特に言語発達の遅れ)」、「成長障害」の2つの主症状を認め、遺伝学的検査により9番染色体の9q34に欠失を認めるかもしくはEHMT1遺伝子異常を認めた場合にこの病気であると診断確定されます。

どのような治療が行われるの?

クリーフストラ症候群については、本質的な治療はまだ確立されておらず、症状に応じた対症療法が主な治療となります。

知的障害に対しては、年齢に応じたケアや教育プログラムなどが行われることがあります。行動上の問題、てんかん、睡眠障害、視覚、聴覚、心臓、腎臓、泌尿器科など幅広い症状に対してそれぞれの診療科での治療や定期的な検診を行っていく必要があります。

動物実験での段階ではありますが、理化学研究所の研究グループによってクリーフストラ症候群の病態マウスの脳機能不全を生後治療した研究が報告されています。

どこで検査や治療が受けられるの?

日本でクリーフストラ症候群の診療を行っていることを公開している、主な施設は以下です。

※このほか、診療している医療機関がございましたら、お問合せフォームからご連絡頂けますと幸いです。

患者会について

クリーフストラ症候群の患者会で、ホームページを公開しているところは、以下です。

 

参考サイト

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス

このページ内の画像は、クリエイティブ・コモンズ 表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際 ライセンスの下に提供されています。
こちらのページから遺伝に関する説明図を一括でダウンロードすることも可能です。