先天代謝異常症の1つであるメープルシロップ尿症は、分岐鎖アミノ酸「バリン」「ロイシン」「イソロイシン」が体内で適切に処理されない遺伝性疾患です。これら3つの分岐鎖アミノ酸はタンパク質の構成要素であるため、タンパク質を制限する食事療法などが必要になります。また、メープルシロップ尿症は新生児マススクリーニング検査の対象疾患の1つ。早期発見・早期治療、肝臓移植によって症状が改善することが知られています。そして、日本の患者数100人程度と推定されている希少疾患でもあります。
今回は、日本メープルシロップ尿症の会・代表の藤原和子さんにお話を伺いました。藤原さんご自身も当事者ご家族です。お子さんがメープルシロップ尿症と診断を受け、少し時間が経ってから同じメープルシロップ尿症の当事者ご家族と出会い、一緒に同会を立ち上げたそうです。ご自身のご経験や、同会の活動内容についてお話し頂きました。
団体名 | 日本メープルシロップ尿症の会 |
対象疾患 | メープルシロップ尿症 |
対象地域 | 全国 |
会員数 | 5家族 |
設立年 | 2015年 |
連絡先 | 公式ウェブサイトの「お問い合わせフォーム」から |
サイトURL | https://msud-japan.com/ |
SNS | |
主な活動内容 | メープルシロップ尿症の当事者・ご家族支援とともに、交流の場やメープルシロップ尿症に関わる最新情報の提供などを行っている。フェニルケトン尿症親の会連絡協議会所属の患者会。 |
当事者がつながり、「仲間がいる」と感じられる場を
活動を始めたきっかけについて、教えてください。
娘がメープルシロップ尿症と診断された当時、日本にはメープルシロップ尿症の患者会はありませんでした。そのため、私はフェニルケトン尿症親の会連絡協議会の活動に参加していました。フェニルケトン尿症とメープルシロップ尿症は、タンパク質を制限する食事療法を行うという共通点があったためです。
その後、少し時間が経った2013年頃に、同じメープルシロップ尿症のお子さんを持つご家族と同会の活動を通じて出会いました。この出会いがきっかけで、一緒に「メープルシロップ尿症の患者会を立ち上げよう」となり、2015年に日本メープルシロップ尿症の会を設立しました。このご家族とは、同じ大学・学科の出身など共通点も多く、どこか運命的な出会いだったと感じています。
診断を受けた当時、どのように病気の情報を集めていましたか?
娘が診断を受けた頃は、今ほどインターネットが普及していない時だったため、情報を集めることは簡単ではありませんでした。看護師である義理の姉にお願いし、メープルシロップ尿症に関連する文献を送ってもらうなどして何とか情報を集めていた状態です。ただ、医療従事者向けの文献は専門用語が多くて難しかったり、亡くなった症例の話などは当事者にとって衝撃的な内容だったりして、読むことは大変でした。また、限られた診療時間の中で主治医に質問できる内容も限られていたので、当時は大変でした。
最近では、インターネットで気軽に情報を検索できようになったと感じています。それでも、メープルシロップ尿症に関わる情報はまだまだ少ないと感じますし、難しい内容のものが多い印象ですね。会を設立するきっかけになったもう一人のご家族の方も、とにかく情報が欲しいという気持ちで、フェニルケトン尿症親の会連絡協議会に参加されたようです。
同じメープルシロップ尿症のご家族と出会えた時は、どのようなお気持ちでしたか?
「ほっとした」という気持ちが大きかったです。毎日、病気に関わるさまざまな悩みごとと向き合っていますが、「あ、うちだけじゃないんだ」と感じました。患者数が少ない中で当事者・ご家族と出会えたことがうれしかったですし、何より「仲間がいる」「一人ではない」と感じられたことで、気持ちが前向きになりました。そういった経験もあり、患者会を立ち上げることにつながったと思います。
当事者同士の情報共有、医師・研究者とのつながりも
当事者・ご家族との情報共有は、どのように行われていますか?
LINEなどで、皆さん気軽に情報共有を行っています。「外食はどうしていますか?」「学校行事での宿泊はどうしていましたか?」「お付き合いする人には、どのように病気のことを伝えましたか?」など、日常生活に関わるお悩みに対して、皆さんの経験を共有しています。
また、メープルシロップ尿症は、病型によって重症度もさまざまです。治療も、食事療法だけでなく、重症の場合には肝臓移植が検討されるなどその内容は異なります。会には、さまざまな重症度・症状を経験されている当事者・ご家族がいますので、それぞれの経験者の方にお話を伺うことができます。その他、海外にお住まいの方から、日本の特殊ミルクに関する問い合わせなどがきたこともありました。ですので、当事者・ご家族の方は、お住まいの地域に関わらず、気軽にご連絡頂ければと思います。
最近はコロナ禍で直接お会いする機会は持てていないですが、コロナ禍以前はリアルでの交流会なども開催していました。今後は状況を見て、オンラインなどでの交流の場を設けていきたいと考えています。
医師監修のもと、メープルシロップ尿症に関わる情報もわかりやすく発信されていますよね。
はい、文章やイラスト部分など、主治医の先生を中心にご協力頂き情報を発信しています。そのため、医師や研究者の方々からも「資料として使わせてもらえないか?」と、お問い合わせ頂くこともあります。
イラストや写真を使い、やさしい文章でわかりやすくメープルシロップ尿症を解説したリーフレットも作成しました。ご自由にダウンロード・印刷してご使用頂けます。
7年活動を続けてこられてきた中で、改めて今感じていることはありますか?
これから診断を受ける当事者・ご家族のために、「メープルシロップ尿症の患者会がある」という状態を維持することが大切だと感じています。私もそうでしたが、当事者とつながることで「仲間がいる」「一人ではない」と感じ、気持ちが前向きになることもあります。ですから、これからも当事者・ご家族が孤立しないように、いつでも皆さんとつながれる場として会を維持していきたいです。
また、活動を続けてきて、医師や研究者の先生方とのつながりも広がってきたように感じています。大学の先生から「当事者・家族の話をしてもらえないか?」といった講演の依頼もあります。患者数の少ない希少疾患ではありますが、さまざまなつながりを通じて、当事者の声をお届けする活動も続けていきたいですね。より詳しく発信するため、今後は、当事者の状況調査の実施なども検討しています。
遺伝性疾患への正しい理解を
最後に、遺伝性疾患プラスの読者にメッセージをお願いいたします。
いまだに、遺伝性疾患への正しい理解はなかなか広まっていないと感じています。そういった背景もあり、ご自身の病気を他人へ説明することが難しいと感じている方もいらっしゃるかもしれません。遺伝性疾患への正しい理解がなされていないことから、心無い言葉を受けたり、ご家族との関係に影響があったり…というお話も、当事者から伺うことがあります。今後は、遺伝性疾患への正しい理解が進み、当事者やそのご家族が誤った理解による偏見にさらされることなく、生きていけるようになれば良いと感じます。
私たちも、メープルシロップ尿症の疾患啓発活動を通じて、多くの方々に正しい理解を広めていけたらと思います。
藤原さんともう一人のご家族の出会いによって生まれた、日本メープルシロップ尿症の会。患者数の少ない希少疾患の場合、当事者とつながりたくてもつながれない場合や、患者会を立ち上げることが難しい場合があると伺います。そんな中で、お二人が出会われて同会が生まれたことは、とても大きな意味を持つことのように感じました。
メープルシロップ尿症と診断を受けたご家族の方は、ぜひ同会を知って頂けたらと思います。これからも、「会を維持していく」と決意された藤原さんの想いは続いていきます。(遺伝性疾患プラス編集部)