どのような病気?
原発性高シュウ酸尿症は、遺伝子の変異により体内でシュウ酸と呼ばれる物質が過剰に作り出されることによる、尿路結石や腎臓結石、またそれらが繰り返すことによる腎臓障害や末期腎不全などを特徴とする遺伝性疾患です。
体内の代謝過程で作られたり、食品から取り込まれるなどしたシュウ酸は、腎臓でろ過されて老廃物として尿中に排泄されます。そのため体内でシュウ酸が過剰になると、尿のシュウ酸濃度が高くなります。シュウ酸は、体内でカルシウムと結合してシュウ酸カルシウムという硬い物質を形成します。このシュウ酸カルシウムは沈着し、尿路結石や腎臓結石の主成分となることがあります。シュウ酸カルシウムの沈着や結石は、腎臓やその他の臓器を傷つけ、血尿や尿路感染症のほか、腎臓障害や末期腎不全などにもつながる可能性があります。
原発性高シュウ酸尿症の発症は、乳児期から50歳までと幅広いですが、半数以上は5歳までに、9割以上が25歳までに発症します。発症時には、尿路結石の典型的症状である、腎仙痛(背中や右か左の側腹部に急激な痛みを感じる)や血尿(無症候性血尿)などが見られます。発症後は、尿路結石を繰り返すほか、腎石灰化症、腎臓結石、腎不全など腎臓の症状が進行し、末期腎不全を引き起こすことも多い病気です。
そして、腎臓の機能が低下すると、腎臓によるシュウ酸の排泄ができなくなることで血中のシュウ酸濃度が上昇し、骨や血管など体全体の組織にもシュウ酸カルシウムが沈着します。骨への沈着は骨折を引き起こす可能性があるほか、心筋内へのシュウ酸カルシウム沈着による不整脈は命に関わる症状となり、この病気で透析をしている人の死因の半数を占めるとされています。それ以外の症状としては、痛風のような骨痛、網膜症、歯の異常、末梢神経障害、成長障害などが見られることもあります。
原発性高シュウ酸尿症は、発症時期や重症度、遺伝的要因によって1型から3型の3つのタイプに分けられます。
1型(PH1)は、3つのタイプの中で一番重症な病型で、また最も頻度が高く原発性高シュウ酸尿症の70~80%を占めると推定されています。乳児期から成人初期までの間に腎臓結石、尿路結石を発症します。腎機能は徐々に低下し慢性腎臓病が進行、シュウ酸カルシウムの沈着により、他の臓器や組織(骨、心臓、網膜によく見られる)の損傷が見られます。末期腎不全はどの年齢でも発症する可能性があります。治療が行われない場合には、腎不全や他の臓器障害により命に関わることがあります。
PH1の中でも、乳児期発症の場合には重度の場合が多く発育不全が認められます。また、小児~青年期にPH1発症の場合、腎臓のほかに膀胱、尿道などの尿路に関する部位に再発性の結石ができるという特徴があり、年少の場合には、排尿コントロールの困難や夜尿症などが見られる場合があります。成人になってから診断されるPH1は、PH1の中では軽度とされ、腎結石を時々発症するという症状のみが見られるという場合もあります。しかし、結石による腎臓の閉塞により腎不全を発症する場合もあり、また成人で診断された人の約20~50%が進行した腎疾患や腎不全を患っているという報告もあります。
2型(PH2)はPH1と症状は似ていますが、末期腎不全はより後年になってから発症します。PH2の発症は幼児~小児期で、尿路結石などで発症しPH1と同様の症状やシュウ酸のレベルを示しますが、初診時に腎石灰化症まで進行していることはあまりなく、PH1よりも症状は軽度とされています。最終的に進行して腎不全を引き起こす可能性はあるもののPH1より遅く、腎不全となる人もそれほど多くないとされています。
3型(PH3)は、重症度や経過についてまだはっきりわかっていない部分が多くありますが、PH1やPH2よりも軽度であると考えられています。症状がほとんど見られない場合や、幼少期に腎臓結石だけを経験する場合などがあります。成人期まで結石が見られない場合もあります。腎臓結石の再発による症状が若い時から始まることもありますが、腎機能の低下はPH1やPH2よりも遅く、シュウ酸レベルも最も低いとされます。
原発性高シュウ酸尿症で見られる症状 |
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高頻度に見られる症状 シュウ酸カルシウム腎結石 |
良く見られる症状 壊疽(体の組織が壊死)、歯髄の形態異常、歯列異常、歯根欠損、骨痛、全身性の骨硬化症、骨折を繰り返す、眼の脈絡膜層に新しい血管が形成される、視神経萎縮、通常はオレンジ色をしている視神経乳頭の色が蒼白になる、視力の低下、網膜症、心ブロック(不整脈)、動脈閉塞、慢性腎臓病、尿中グリコール酸濃度の上昇、腎石灰沈着症、末梢神経障害、レイノー現象(手や足先の細い動脈に強い収縮が起こり白くなる)、間欠跛行(かんけつはこう、歩くと足が痛くなり休むと痛みが引く)、発育不全 |
しばしば見られる症状 肢端チアノーゼ(四肢の末端が紫色になる)、末期腎不全 |
まれに見られる症状 皮膚石灰沈着症、大理石紋様皮斑、心筋症 |
原発性高シュウ酸尿症の国内における患者数ははっきりとわかっていませんが、小児慢性特定疾病情報センターによれば、1962年から2003年まで原発性高シュウ酸尿症の患者さんについて59人の報告があるとされています。発症頻度は、5万8,000人に1人と推定されています。
原発性高シュウ酸尿症は小児慢性特定疾病の対象疾病です。また、原発性高シュウ酸尿症I型(PH1)は、「ペルオキシソーム病」として指定難病対象疾病(指定難病234)の対象となっています。
何の遺伝子が原因となるの?
原発性高シュウ酸尿症は、病型によって原因遺伝子が異なり、PH1は、2番染色体の2q37.3領域に存在するAGXT遺伝子、PH2は、9番染色体の9p13.2領域に存在するGRHPR遺伝子、PH3は10番染色体の10q24.2領域に存在するHOGA1遺伝子の変異や欠損によって引き起こされます。一方、これらの遺伝子に変異が認められない場合もあり、原発性高シュウ酸尿症を引き起こす他の遺伝要因があるのではないかとも考えられています。
PH1の原因となる、AGXT遺伝子は、肝臓でグリオキシル酸からグリシンへの変換を助ける、アラニン:グリオキシル酸アミノ基転移酵素(AGT)と呼ばれる酵素タンパク質の設計図です。グリオキシル酸は、変換されずに残存すると、その後シュウ酸に変換されるため、尿中シュウ酸濃度の上昇につながります。AGXT遺伝子の変異により、AGTの活性低下や欠失が起こると、グリオキシル酸がグリシンに変換されず残存し、この病気の症状につながると考えられます。
PH2の原因となるGRHPR遺伝子は、グリオキシル酸/ヒドロキシピルビン酸還元酵素(GRHPR)と呼ばれる酵素タンパク質の設計図で、肝臓のグリオキシル酸をグリコール酸に変換する酵素でAGTと同様にグリオキシル酸が蓄積することを防ぐ役割があります。GRHPR遺伝子の変異によりグリオキシル酸が残存し、シュウ酸が過剰に作り出されることがこの病気の原因と考えられています。
PH3のHOGA1遺伝子は、4-ヒドロキシ-2-オキソグルタル酸アルドラーゼ(HOGA)と呼ばれる酵素タンパク質の設計図で、この酵素はアミノ酸を分解し、グリオキシル酸を作り出す役割を持っています。HOGA1遺伝子の変異により、この酵素に異常が生じグリオキシル酸が過剰に作られますが、どのような仕組みで起こるのかはまだはっきりわかっていません。
原発性高シュウ酸尿症は、常染色体劣性(潜性)遺伝形式で遺伝します。この遺伝形式では、父母から受け継いだ2つの遺伝子の両方に変異があることで発症します。両親はこの病気の保因者で、病気は発症しません。
どのように診断されるの?
小児慢性特定疾病情報センターによれば、原発性高シュウ酸尿症(PH1、PH2)の診断は、以下のような症状、尿検査、腎エコー検査、家族歴などから疑われます。反復する腎結石に対しては原発性高シュウ酸尿症の可能性を疑うことが肝要と記載されています。
【PH1】
・発症は、乳児期より50歳まで見られ、半数以上の症例は5歳以前に、90%以上は25歳までに見られる
・発症時、尿路結石の典型的症状である腎仙痛や無症候性血尿が見られる
・発症後、尿路結石を繰り返し、腎石灰化症、腎不全が進行する
・ほとんどの症例で末期の腎不全状態に陥る
・腎以外の症状では、痛風に類似した骨痛や網膜症、歯の異常、末梢神経障害、腎不全による成長障害などのほか、致命的な症状として心筋内へのシュウ酸カルシウム沈着による不整脈が見られる
【PH2】
・小児例の診断時年齢は0.8〜15歳で、平均は1.7歳
・尿路結石の症状で発症し、初診時に腎石灰化症まで呈することはまれ
・経過もPH1より軽症で腎不全まで進行する例はまれ
上記の症状や所見があれば、生化学的検査として尿中シュウ酸排泄量の亢進と血中シュウ酸値の高値が確認されます。またPH1ではグリコール酸、PH2ではL-グリセリン酸の尿中排泄が亢進しています。
さらに肝生検によりPH1ではAGT酵素活性、PH2ではGRHPR酵素活性の欠損を確認するか、それぞれの病因遺伝子(PH1はAGXT遺伝子、PH2はGRHPR遺伝子)の変異解析により診断が確定されます。
PH3の診断基準は国内では確立されていませんが、アメリカの遺伝性疾患情報サイトである「GeneReviews」には、PH3の診断について以下のように記載されています。
以下のような症状や検査所見、家族歴などからPH3が疑われます。
・シュウ酸カルシウム結石(特に、両側の腎臓に確認された場合)
・再発性のシュウ酸カルシウム結石
・小児期や青年期から結石を発症する
・カルシウム結石や腎石灰化症がある場合の腎機能の低下
・腎石灰化症
・検査所見では、尿中シュウ酸排泄量、血中シュウ酸値などが確認される
これらの症状があり、遺伝学的検査によってHOGA1遺伝子の変異が確認された場合に診断確定されます。
どのような治療が行われるの?
原発性高シュウ酸尿症の根本的な治療法はまだありません。症状に応じた対症療法としては、シュウ酸カルシウムの沈着や結石を防ぐために、多量の水分を摂取して尿量を維持したり、尿中のシュウ酸の溶解度を高めるような薬(マグネシウムやサイアザイトなど)を用いたりすることが検討されます。
また、PH1の軽症例ではAGTの補酵素であるビタミンB6の内服投与に反応する場合があり、PH2についても有効という報告があります。
腎不全に対しては、透析(血液透析、腹膜透析)が行われますが、内因性のシュウ酸の産生を上回るような透析効率を得ることは難しいとされています。根治的な治療法として、PH1では肝臓のAGT酵素を補充するための肝移植、また回復が期待出来ない腎不全に対しては腎移植が行われることがあります。
どこで検査や治療が受けられるの?
日本で原発性高シュウ酸尿症の診療を行っていることを公開している、主な施設は以下です。
※このほか、診療している医療機関がございましたら、お問合せフォームからご連絡頂けますと幸いです。
患者会について
難病の患者さん・ご家族、支えるさまざまな立場の方々とのネットワークづくりを行っている団体は、以下です。
参考サイト
- 難病情報センター
- 小児慢性特定疾病情報センター 原発性高シュウ酸尿症
- MedlinePlus
- Genetic and Rare Diseases Information Center
- Online Mendelian Inheritance in Man(R) (OMIM(R))
- GeneReviews
- NORD
- orphanet