「研究への患者・市民参画(PPI)」とは?専門家が徹底解説

遺伝性疾患プラス編集部

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昨今、疾患に関するセミナーやインターネット情報などで、研究への患者・市民参画(PPI)という言葉をちらほらと耳にするようになりました。PPIとは具体的にどのような取り組みなのでしょうか?遺伝性疾患プラス読者にお答え頂いた、PPIの認知度アンケートでは、「知らない」が6割強、「名前しか知らない」が2割強でした(回答者の9割が、疾患当事者またはご家族)。また、同時にご意見として「研究の推進を心から望む」といったお声も複数頂きました。そこで、PPIについて、日本医療研究開発機構(AMED)ゲノム医療実現バイオバンク利活用プログラムのうち、社会共創推進領域の課題「ゲノム医療・研究推進社会に向けた試料・情報の利活用とPPI推進に関する研究開発」研究代表者で、東京医科歯科大学生命倫理研究センター センター長の吉田雅幸先生と、同分担研究者で、東北大学 東北メディカル・メガバンク機構 教授の長神風二先生に、詳しくお話を伺ってきました。後半では、読者から寄せられた質問にもご回答頂いています。日本ではまだ十分に浸透しておらず、誤解も多いと言われるPPIについて、みんなで正しく知りましょう!

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PPIのキホン

PPIとは一言で言うとどのような取り組みですか?

吉田先生 PPIは「Patient and Public Involvement(ペイシェント・アンド・パブリック・インボルブメント)」の頭文字を取ったもので、「患者さんをはじめとした市民の皆さんに、1分1秒でも早く医療研究開発の成果をいち早くお届けするための、研究開発上の工夫の一つ」と言える取り組みです。従来、ほとんどの研究は、計画の立案から実施、評価などまでの一連のプロセスを、研究者たちのみで行うような形で実施されてきました。一方で、より質の良い研究開発をスムーズに、より加速的に行っていくためには、患者さんや市民の皆さんの、ご経験に基づいたご意見などを伺うことが大変重要です。こうした背景から発足したのが、PPIの取り組みです。

具体的には、患者さんや市民の皆さんに、受益者という立場で研究成果が出るのを待っていて頂くだけでなく、研究者と一緒に能動的に研究に関わって頂こうという考え方に基づいた、さまざまな活動となります。それは、必ずしも立案のところから全てにわたって関わって頂くとは限りませんし、全ての医療研究において何かしら必ず関わって頂くものとも限りません。また、研究成果が出たら終わりではなく、その発表方法について考えるところなども含まれます。こうした考え方を、患者さん・市民と研究者の双方が持って、積極的に関わることで、より良い医療研究開発をしていきましょうという取り組みが、PPIなのです。

長神先生 今、吉田先生が「受益者」とお話しされましたが、補足すると、患者さんは「最終的に」受益者となる方々という風に、私たちは考えています。読者の方々の中にも、研究に参加・協力し、ご自身の検体(血液など)を提供していらっしゃる方がおられると思います。そうした方々が、自らが研究のために提供した個人情報/個人に紐づいたものが、どのように扱われて、またそれがどんな風に活用されるのかに対して、完全に研究者にお任せするのではなく、ある程度責任を持って関わっていく、その結果、最終的に受益者となる、という流れになるところも、PPIの大事な視点の一つだと思っています。

吉田先生 それから、もう一つ大事なこととして、PPIは「研究参加者そのものを募ること」とは完全に区別されます。一方で、参加者の募り方について、どこで誰にどのように呼びかけ、参加条件をどう設定するのが正しいのか、誰かを傷つけたり差別したりすることなく呼びかけたりインフォームド・コンセントを行ったりするためにはどのような表現が適切なのか、など、研究者だけでなく研究参加者となり得る方々が属するコミュニティなどと一緒に考えていくことは、PPIに含まれます。つまり、PPIは研究参加の手前から行われることもあるし、研究には参加しないけれどもPPIが参画することもあるわけです。

PPIは、いつから、どのような形・組織として開始したのですか?

長神先生 国内外でPPIという言葉が使われるようになる前から、患者会は存在しており、患者会による「当事者の声を届けよう」という動きは、大きな流れとして段々組織化されてきている傾向にあります。実際に海外では、患者会主体で研究費を集め、研究の提案から参加者募集、成果の発信や還元に至るまで、全体を通して患者会が関わるようなことが、ある程度行われるようになってきています。こうした組織的な動きがPPIという形にまとまり、そして始まったわけですが、それはここ20年程度のことかと思います。

医療に限らずにもう少し視野を広げると、科学者側から市民に対してのパブリック・インボルブメントは、それより前から課題として取り上げられていました。例えば1990年代頃、欧州でBSE(牛海綿状脳症)の安全宣言後にまた発生した問題や、米国で遺伝子組換え作物(GMO)の作出を主導した企業に対する訴訟問題などがありました。どちらも当時、科学者が「これは安全だから大丈夫です」と、市民に対して上から目線で説教のように伝えたことで、納得してもらえなかったどころかむしろ反発を生んだといったことがありました。これは、市民が不安になっている中で、科学者からの一方的な意見の押し付けは意味をなさないということが示された出来事として、社会科学的にもよく研究されている事例だと思います。

こうした出来事をきっかけに、上の例だけでなくナノテクノロジーなどを含めたサイエンス全般において、科学者が市民とコミュニケーション(伝え合う)しながらエンゲージメント(つながる)し、さらにインボルブメント(参画する)につなげて行くといった流れが、2000年代ぐらいまでにかけて欧米を中心に始まりました。私も当時、この流れの中にいた人間で、欧米では医療の分野でもこうした科学全般の流れと地続きでPPIが始まっていたように見ていました。

日本でもその動きを受けて2005~6年頃に、国としてサイエンス・コミュニケーションに急速に力を入れ始めました。一方で、医療におけるPPIも地続きで始まったかというと必ずしもそういう流れではありませんでした。

吉田先生 日本では、科学技術振興機構(JST)を中心にサイエンス・コミュニケーションの加速が推進され、PPIについては、医療に関する研究開発を発展させるために必要なものとして、医療研究開発の推進を担う機構であるAMEDが、推進に力をいれています。まずは研究者たちにPPIを知って頂くための資料として「AMED患者・市民参画(PPI)ガイドブック」が作成されました。このガイドブック自体も、PPI活動の一環として、患者さんや市民の方々にもご意見を頂きながら作成しました。主な読者は研究者を想定していますが、PPIに参画する患者さんや市民の方々にも参考になる内容となっています。それから、AMEDが公募する医療研究事業の応募書類では、研究開発計画におけるPPIについて述べる項目も設けられました。これはつまり、研究者がAMED事業に応募する際、PPIについて向き合わざるを得ない状況になったと言えます。ただ、これはまだ一部で始まったことで、全てのゲノム研究者などがPPIについて十分に理解しているわけでは決してありません。これは、私たち研究班が、これからしっかり浸透させていかなくてはならないことだと思っています。また、こうした流れの中から、一般社団法人PPI JAPANという組織も発足し、活動を始めています。以上が、PPIに関して、今日本が置かれている状況です。

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AMEDが提供している「患者・市民参画(PPI)ガイドブック」の表紙。
PPIに参加することの、疾患当事者にとってのメリットを教えてください

吉田先生 ある疾患に関わる研究について、参加者の立場となり得る患者さんたちが、ご自身の情報を提供する段取り・検体採取の方法・研究結果をお知らせする手段など、実際どのように行われるのがご本人たちにとって良いのかを、研究者と一緒に考えていくことができるというのはメリットだと考えています。一緒に考えて頂くことで、例えば、患者さんの体調や、社会的な状況など、研究者だけで進めた場合に気付けなかったようなことも考慮した、参加者がより参加しやすい形として研究を進めることができるようになります。

長神先生 一つ、具体的なイメージがつきやすいように、私たち東北大学を中心とした研究グループによる研究結果のお知らせに関して、PPI活動が必要と感じて対応した事例をお話ししますね。研究は、一般住民の乳幼児を対象としたコホート調査で、乳幼児のスクリーンタイム(電子画面を見る時間)の長さと発達の状況との関連を調べるものでした。その結果、1歳時点のスクリーンタイムの長さと、2歳・4歳時点での、社会性など一部の発達の遅れに相関があるというデータが示されました。この結果は、ちょうど新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響でスクリーンタイムが伸びるお子さんが増えているような時期に、インパクトの高い米国の医学ジャーナルで論文発表されたのですが、発表直後に「発達障害の子どもが増えるのではないか」といった報道が、米国内で一気に行われました。実際のデータは、相関を示したのみで、「スクリーンタイムが長いことが発達障害につながる」といった因果関係を示すものではありませんでした。

こうした報道に対して私はちょっと危機感を覚えたため、大学から発信する日本語のプレスリリースの表現を、一層慎重に考えたいと思いました。そこで、発達障害の当事者の方々の会に連絡をして、プレスリリースの原稿を見て頂きながらディスカッションを行いました。その結果として、当事者の会の方々から「このデータは、後に発達の遅れ等が見出されるような特性(例えば、一度始めたことをすぐには止めづらい、待ち時間の過ごし方が限られる、など)が、1歳時点で見えた結果かもしれませんね」という考察を頂きました。つまり、発達障害に関わる方々による考察は、米国で報道された因果関係の予想と逆転した視点だったのです。

繰り返しになりますが、私たちの研究は相関関係を示したものであり、どちらが原因でどちらがその結果なのかといった、因果関係については研究結果から知ることはできません。しかし、誤解や間違った解釈に基づいた報道などにできるだけ向かわないように、プレスリリースの文面には「因果関係はわかりません」ということに加え、当事者の会の方々から頂いた考察の内容も一言添えて、発表することとなりました(実際のプレスリリースはコチラ)。さらにその後、当事者の会の方々に頂いた考察をもとに、因果関係の検証を含めた研究を進めているところです。

以上が、大変まれなケースかもしれませんが、当事者だからこそ知りえる事情(言い換えれば、研究において見逃されていたこと)をPPI参加という形で情報提供して頂いたことで、より適切な研究成果についての情報発信につながり、引いては次の研究の計画につながった、という例でした。このようにPPIは、疾患当事者と研究者の双方にメリットがあると言えると思います。また、PPI参加でメリットがあるのは、疾患当事者に限定されません。例えば、私たちが推進している東北大学東北メディカル・メガバンク計画は、一般住民の方々が研究の対象になっていますが、PPI参加によって同様のメリットがあると言えます。

吉田先生 プレスリリースで「事実」を伝えていても、長神先生が示された事例のような解釈のずれなどのほか、発信側の表現方法などによって、受け取り側の患者さんが傷ついた事例もあります。やはりプレスリリース一つ取っても、単なる情報発信と考えるのではなく、PPIによる手法改善などを行っていくことは、より良い研究につながっていく手段の一つとして大変重要であると考えています。

遺伝性疾患の領域においての、PPI活動の事例を教えてください

吉田先生 先ほどお話しした、「AMED患者・市民参画(PPI)ガイドブック」に掲載されている事例をいくつかご紹介します。

まずは、遠位型ミオパチーという遺伝性疾患の患者会とのPPI活動事例です。遠位型ミオパチーは大変人数の少ない疾患であるため、患者さんがお住いの自治体ごとの医療・福祉政策の違いについて、患者会活動のみで把握するのが難しい状況でした。そこで、研究者と患者会が協力をして、患者さんの生活により密着した介助・介護への合理的配慮についての研究を立案し、実施しました。その結果、遠位型ミオパチー特有の介助・介護ニーズと健康に関連した生活の質(QOL)との関連が明らかになり、介助・介護の現場で実際にどのようにするとより良いのかについての示唆が得られました。この研究成果は学会発表され、患者会機関紙にも掲載されました。

シルバー・ラッセル症候群では、患者会の中で、足の形の問題や靴の悩みの話が頻繁にあがっていましたが、医学的な知見が少ない状況でした。そこで、研究者、医療者、靴業者らが患者会と一緒に、足長・足幅・足高・足囲の継続的な計測による患者さんの足の成長曲線を推定するプロジェクトを実施しています。同プロジェクトはAMED事業に採択されたもので、3Dプリンターを用いた、患者さんの足に合った靴の製作まで含まれています。

ライソゾーム病の一種であるムコ多糖症の患者会では現在、世界中で誰がどのようなアプローチで研究を進めているかを把握し、医学の専門家が他の領域の専門家と連携できるような橋渡し役を担っているほか、研究者に向けて、病態の解明と並行して患者ニーズに合った治療法開発を進めてもらうよう働きかけ、遺伝子治療をはじめとする治療の選択肢を日本で選択できるように取り組んでいます。しかしこの状況に持ってくるまでには、患者会の大きな努力がありました。当時、国内患者数が10人未満と言われていた中で、SNS発信などをもとに実際は数十人いることを突き止め、そこから研究者とつながったことで、動きを加速させることができました。

その他、直近で参加した米国の人類遺伝学会でも、研究プロトコルの作成に、患者さんによるアドバイスを取り入れたところ、研究参加者が大幅に増えたという事例紹介の発表があったのを覚えています。

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AMED「ゲノム医療・研究推進社会に向けた試料・情報の利活用とPPI施策に関する研究開発」による、市民向けウェブサイトのトップページ
PPI推進における課題点とその解決策を教えてください

吉田先生 これはまさに今、我々がAMEDの研究班として取り組んでいる内容です。「当事者としての研究者」「当事者としての患者市民」「研究者と当事者との関わり(サイエンス・コミュニケーション)」の3つの点について、それぞれの立場の方々に適切に把握してもらうにはどのように伝えたら良いかが、とても重要な課題です。まだ研究途中なのですが、研究を進めるためには、研究者と患者さんや市民の皆さんが、ともに一歩ずつ歩み寄り、協同していく人や場を増やしていくことが、まず大事なのではないかと考え、いろいろな取り組みを進めているところです。

長神先生 今吉田先生がおっしゃったことを、いつでもご意見を出して頂ける特定の患者さんが疾患ごとにいる体制を整えたい、という形だけに落とし込むべきではないと考えます。特定の疾患から出発しても、その個別の事情だけに限定されず、可能な限り一般化できるように、それが理想的な状況に近づくために、研究者側や患者さん側の一方だけが動くのではなく、共に意見を出し合っていきましょう、ということを一言で表したものがPPIということになります。希少疾患であっても、ご意見や研究のご要望を頂いたことが、ご自身が関わる疾患から出発しても個別具体的な症例そのものに特化したものから、できるだけ一般化され客観的なものとして扱えることが、理想的なPPIです。

吉田先生 何がPPIなのかについては、現状、10人いれば10人、同じように理解しているようで、みんな何となくずれているというのが実態だと思っています。概念として難しいためにこうなっているのだと思っていますが、研究者の中にも、全くPPIと呼べないようなことをPPIではないかと思っている人や、全ての人の声をただ聞けば良い、患者さんや市民に何でも良いから意見を言ってもらえば良い、と誤解している人がいます。みんなにとって良い形で医療研究を推進していくため、どんな形でPPIについての理解を世の中に浸透させ、そしてPPIに基づいた発信をしていくのかも、私たちの研究課題の一つです。

長神先生 これが一筋縄でいかないからこそ、研究班の課題になっているわけなのです。

読者からの質問

PPIと倫理審査委員会の違いを教えてください

長神先生 倫理審査委員会(IRB)は基本的に、立案された研究計画の倫理面を審査する場です。もちろん、中途や終了時に報告を受けたり、状況によって監査を行うこともありますが、役割のメインは研究計画段階になります。IRBに委員として患者さんや市民の立場の方々に参画頂くのも、PPIのうちの一つと言えますが、PPIは、研究計画の立案から研究成果の発表まで、全ての段階においてあるものです。IRBは、研究全体のうち、研究計画を審査するというステップの中の1個のピースに深く関わる側面が強いです。そこにおけるPPIは、研究におけるPPIの一部という風に解釈して頂ければと思います。

検査の時に「データを使わせてもらって良いですか?」と聞かれ、「何かのためになるなら良いですよ」といつも言っていますが、これもPPIなのですか?

吉田先生 ご自身のデータを提供することに同意し、研究に参加するということですね。研究参加そのものはPPIではないため、ご質問の答えは「PPIではありません」ということになります。

長神先生 「何かのためになるなら」とおっしゃっているところについて、もう一歩踏み込んで、提供したデータが具体的にどう使われるのかを研究者に伺い、それに対する意見を伝え、より良い研究に向けて一緒に考えていく、となれば、それはPPIになりますね。

PPIへ、私たち疾患当事者はどこからどのように参画すればよいのですか?

吉田先生 患者さん・市民の方々のPPI参画について、現時点で私たちの研究班では公募を行っておらず、前年度の公募で就任頂いた数名の方々に情報共有をしながら、PPIについて理解を進めていって頂いている段階です。他も、公募をしているところはまだほとんど無い状況ですが、全く無いわけではなく、例えば国立がん研究センターでは、患者さんや市民の皆さんの視点を取り入れていくために「患者・市民パネル」というPPI活動を行っており、毎年参加者を募集しています。これはがんに関してのものですが、その他、遺伝性疾患など、難病の方は、患者会などを介してPPI参画につながっていく流れもあるように思います。と言うのは、患者会をはじめ、さまざまな団体が、患者さんや市民に向けて、PPIについて学ぶ機会を提供し始めており、そうした機会は徐々に広がってきているからです。PPIに参画したいと思われている方は、ぜひこうした機会を見つけ、積極的にアクセスして頂くことで、そのチャンスが広がっていくのではないかと思います。

将来的には、もちろん多くの方々にぜひPPIに参画して頂きたいと考えています。患者さんの人数が少ない疾患では、よりPPIが重要になってくるかも知れませんし、お住まいがどこであろうと、移動が難しい状況であろうと、ウェブ会議を用いるなどして、いろいろな方々が参画する機会が必ずあるべきなのがPPIだと思っています。

長神先生 研究に参加された方に、その後「あの研究はどうなりましたか?」と、質問して頂くこと、そしてその声が研究者に届くことも、PPIの第一歩なのではないかと思います。ぜひ、「自分はこの研究に参加したんだ」という意識のもとで、最後まで気にしていて頂ければ、私たち研究者は大変うれしいです。「論文が出ました」とお伝えできることもあるし、「全然進んでいないんです。その理由は・・・」とお伝えしたことから、うまくいかなかった原因を乗り越えて研究をさらに進めていくきっかけが得られる可能性もあると思います。

吉田先生 ご自身に関わる疾患の個別の症状を治すために研究を進めて欲しい、という考えは、PPIとは異なりますが、自分自身に関わる部分だけではなく、その疾患一般に関する研究や、希少疾患全体に関わる研究はPPIの対象となります。ですので、そうした研究推進の必要性については、患者会などを通じて研究者側に働きかけて頂くことも、PPI参加の一つのきっかけになるのではないかと思います。将来的には、ニーズを抱える患者さんと研究者などがマッチングできる仕組みなども出来ると、PPIの加速にもつながるかも知れませんね。

疾患のため就労が難しく、金銭的・体力的に余裕がないのですが、それでもPPIに参画できますか?

長神先生 PPIは、患者さんにお金がかかる取り組みではありません。ただ、体力的なことを含め、疾患によって非常に厳しい状況に置かれていらっしゃる方々が、強くPPIに参画したいと考えておられても余裕がないという状況に対し、私たちに何ができるのかということは、大きな課題の一つとして取り組みを進めていきたいと思います。

先生方はそれぞれ具体的に、疾患当事者や患者会がどのような形でPPIに参画して欲しいとお考えですか?

吉田先生 ここまでお話ししてきたように、PPIはさまざまな形で参画できるものです。ですので、それぞれの方に合った形で、できるだけ多くの方々に参画して頂き、いろいろなアイデアを出して頂きたいと考えています。そうすることで、研究がより効率的・加速的に進み、最終的には、いろいろな病気の克服につながっていくのだと思います。ぜひ皆さん、ご自身にはどのような形が合っているのかを考えて、参画してみてください。

長神先生 実は、研究する側は、患者さんたちにどのようにアプローチしたら良いかわからないことが多いというのが現状です。臨床医は、ご自身が診療されている患者さんにコンタクトすることはできても、疾患一般についてのご意見を誰に伺ったら良いかわからないこともありますし、基礎医学の研究者では、研究対象の疾患の患者さんに実際にお会いしたことが無いこともあります。この問題の解決に向け、疾患当事者や患者会の方々には、ご無理のない範囲で、「どこにいらっしゃって、どんなことを求めておられ、かつ、どこからどのようにコンタクトできるのか」ということが見えるようにしていって頂けると、大変ありがたいなと思っています。PPIの本当に初めの一歩の段階のことだと思いますが、まずはお互いが見えるような形になることで、関係性の構築につながり、いろいろなPPI参画の形が生まれてくるのではないかと思っています。

AMEDの、ゲノム医療・研究を考える「ラウンドテーブル」に参加したいです。次回の日程を教えてください。

長神先生 このラウンドテーブルは、開催の都度参加者を募集しているものではありません。開始前に、「年に数回、定期的に開催される全てを通してご参加可能な方」をウェブサイトから公募し、応募されたうちの一部の方々にラウンドテーブル委員になって頂き、開催しているものです。なぜ委員という形でメンバーを固定して開催しているのかというと、議論を一定のメンバーで熟成させたいという意図があるからです。

吉田先生 ラウンドテーブルではありませんが、私たちのPPIの研究プロジェクトの中で、皆さんに参加して頂けるイベントは、プロジェクトのホームページの「お知らせ」から随時募集しています。ぜひ、ここをチェックして、ご興味のあるイベントに積極的に参加して頂きたいなと思っています。今のところ予定はありませんが、今後、ラウンドテーブル委員の第2期を募集するようなことがあれば、それもここからお知らせが出ることになります。

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AMED「ゲノム医療・研究推進社会に向けた試料・情報の利活用とPPI施策に関する研究開発」による、市民向けウェブサイトの「お知らせ」ページ(2024年6月現在)
ICRwebで、はじめて学ぶ「研究への患者・市民参画」を受講し、修了証も発行済みなのですが、どのような場所で活用できるでしょうか?

吉田先生 これは大変良い教材です。修了証そのものを活用することだけでなく、それを学ばれたというご自身のご経験をもとに、今後いろいろな所でPPIに参画して頂きたいなと思います。

長神先生 今後、PPI関連の公募から応募される際にはぜひ、同講座の修了書を持っている旨を記載してみてください。募集する側も、PPIについて学ばれている方からの応募だと知り、お願いしやすくなるのではないかなと思います。

最後に、遺伝性疾患プラスの読者に一言メッセージをお願い致します

吉田先生 読者の方々は、恐らく何らかの遺伝性疾患とのつながりがあってこの情報に接しておられると思います。これまでPPIを知らなかったという方や、名前だけ知っていたけれど良く知らなかったという方などにとって、今回の記事が、少しでも理解を深めて頂く手助けになればうれしいです。PPIは、今後のゲノム研究の発展や推進には不可欠なものと思っていますので、引き続きPPIについてぜひ積極的に理解を深め、ご自身に合った形で参画していって頂ければと願っています。

長神先生 PPIの始まりは「関わって頂くこと」だと思っています。今のところ、PPIの入り口は、明示されていないものが多い状況ではありますが、ご自身に合った入り口を見つけて研究に関わって頂き、研究の開始、進展、出口、全てに関わって頂くことで、その研究が広がったり、より良い形に変化していったりすることもあるのではないかと思います。ぜひその一歩を、一緒に踏み出して頂ければ幸いです。

※今回の取材では、AMED研究開発統括推進室研究開発企画課社会共創推進グループの勝井恵子グループ長代理に、大変お世話になりました。心より感謝申し上げます。


PPIとは「患者さんをはじめとした市民の皆さんに、1分1秒でも早く医療研究開発の成果をお届けするための、研究開発上の工夫の一つ」。PPIの形は実に多様ですが、研究者と疾患当事者・市民が「疾患の原因解明や治療法開発」という同じ望み・目的に向けてお互いに積極的に関わり、それぞれ単独では気づけなかったことを補い合うことで、目的の達成に向け加速的に推進していく、という狙いの取り組みであることがわかりました。PPI参画は今のところ、疾患当事者側からの入り口や方法が明確に決まっているわけではなく、いろいろなきっかけがあり得る状況ですが、その中で、「待っているだけではなく、自ら能動的に関わっていくことが重要である」ということを、先生方は繰り返しおっしゃっていました。例えば、「研究のために血液を提供したけれども、あの研究はその後どうなっているんだろう?」など、思い出された方は、これを機に、問い合わせをしてみても良いかもしれません。また、この記事を読んだ皆さんは、既にPPI参画に向けた第一歩を踏み出したと言えるのではないかとも思っています。遺伝性疾患プラスも、皆さんのお声を届ける「メディア」という立場から、PPIに参画していかれればと考えています。(遺伝性疾患プラス編集部)

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吉田 雅幸 先生

吉田 雅幸 先生

東京医科歯科大学生命倫理研究センター長、同大先進倫理医科学分野吉田研究室教授、同遺伝カウンセリングコース長、同大学病院遺伝子診療科長。医学博士。1988年に東京医科歯科大学医学部医学科を卒業後、同大医学部附属病院第3内科、ハーバード大学医学部ブリガムアンドウィメンズ病院研究員、東京医科歯科大学難治疾患研究所助手、同助教授、同大生命倫理研究センター教授等を経て、2010年より現職。日本動脈硬化学会副理事長、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医・指導責任医・評議員、医学系大学倫理委員会連絡会議理事・事務局長、日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会専門医、日本老年医学会専門医等、所属学会・役職多数。

長神 風二 先生

長神 風二 先生

東北大学東北メディカル・メガバンク機構広報・企画部門教授。博士(医学)。2002年に東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻博士後期課程満期退学。日本科学未来館科学技術スペシャリスト、科学技術振興機構を経て、2008年東北大学脳科学グローバルCOE特任准教授。2012年東北大学東北メディカル・メガバンク機構発足と同時に、同特任准教授となり、2021年より現職。所属学会は、日本疫学会、日本人類遺伝学会、日本分子生物学会など。