【イベントレポート】希少疾患当事者にとってインクルーシブな社会を目指す、Rare Disease Day 2022シンポジウム

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. 京都大学総合博物館准教授・塩瀬先生「インクルーシブデザイン」の講演
  2. 筋ジストロフィー当事者・小澤綾子さん「障がい・難病とともに、生きやすい社会へ向けて」
  3. 株式会社オリィ研究所運営の『分身ロボットカフェDAWN ver.β』が会場だった

RDD 2022のイベントの一つとして開催

武田薬品工業株式会社とRDD日本開催事務局は2月6日、「Rare Disease Day 2022シンポジウム」を共催しました。Rare Disease Day(RDD:世界希少・難治性疾患の日)は、より良い診断や治療による希少・難治性疾患当事者の生活の質(QOL)の向上を目指した活動です。2008年からスウェーデンで活動が始まり、2010年から日本でも2月最終日にイベントを開催。毎年2月頃はRDD月間として、さまざまなイベントが全国で開催されています。今回のシンポジウムも、RDD 2022のイベントの一つとして開催されました。

希少・難治性疾患にはさまざまな課題があり、その一つとして「認知度の低さ」が挙げられます。認知度の低さをきっかけに、当事者に対する誤解や偏見が生じる場合もあります。こういった背景から、現状では、「インクルーシブな社会」であるとは言いがたい状況です。インクルーシブな社会とは、疾患の当事者などを一つの属性として捉え、さらにその属性を包み込み、受け入れていこうとする相互共生的な社会のことです。そこで、今回のシンポジウムは、「希少疾患当事者にとってインクルーシブな社会を目指して」をテーマに進められました。

シンポジウムでは、京都大学総合博物館准教授の塩瀬隆之先生、筋ジストロフィーの当事者であり、車イスチャレンジユニットBEYOND GIRLS※1代表の小澤綾子さん、株式会社オリィ研究所共同創設者COOの結城明姫さんが講演。株式会社オリィ研究所が運営する『分身ロボットカフェDAWN ver.β※2を会場として、オンラインによる配信が行われました。

※1 障がいがある方のチャレンジを応援する活動を行う団体

※2 外出することが困難な従業員が、ロボットを遠隔操作しサービスを提供。『分身ロボットカフェDAWN ver.β』の詳細はコチラの記事から

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武田薬品工業株式会社、RDD日本開催事務局、登壇者の皆さま

当事者と一緒に変えていく「インクルーシブデザイン」

まず、「インクルーシブデザイン」工学分野展開の第一人者である塩瀬先生が講演をしました。インクルーシブデザインは、高齢者、障がいがある方、車いすユーザーといったそれぞれの人たちに共通の特徴的なニーズを抱える方々が企画・開発の初期段階から参加し、一緒に考えていくデザイン手法のことです。インクルーシブデザインでは、「車いすユーザー向け」など限定的な対応に留まらず、課題を一般化することで、最終的に、さまざまなユーザーの使いやすさを目指します。

塩瀬先生は、インクルーシブデザインを紹介するときに「『ために』から『ともに』」という言葉を大事にしているそうです。誰かを助けようとする時に、「〇〇のために」という言葉が先行しがちです。しかし、インクルーシブデザインを考える時は「〇〇のために」より、「〇〇と一緒に」の視点で変えていく考え方が大切なのだそうです。

そのため塩瀬先生は、視覚障害や聴覚障害がある方、車いすユーザー、言語や文化の違う外国人など、さまざまなニーズを抱える方々と一緒に博物館や美術館の展示をまわるなどして、対話を重ねています。例えば、視覚障害がある方との美術鑑賞について、「『教えてあげる』とは全く異なる体験」と、塩瀬先生。視覚障害がない方にとっても、視覚障害がある方とともに鑑賞することで得られる新たな気付きがあり、「まさに、双方向の学びがある」と述べました。

また、よく質問されると言う「ユニバーサルデザインとインクルーシブデザインの違い」についても解説。両者とも、目指すところは「皆が使いやすいもの」です。一方で、違いが現れるのはアプローチの仕方です。ユニバーサルデザインでは、「みんなのために」という視点でアプローチします。一方、インクルーシブデザインでは「その人のために」という視点、つまり、特定の個人を起点にアプローチがスタートし、最終的にみんなが使いやすいもの目指す進め方だと、塩瀬先生は解説しました。

最後に、インクルーシブな社会を目指すために、「ありのまま、そこに居場所があるという安心をいかにつくれるかが大切」と、塩瀬先生はコメント。「多様性を無理やり受け入れるのではなく、多様性をありのまま受け入れられるインクルーシブな社会を目指したい」としました。

筋ジストロフィー当事者が考える「自分らしく、社会でともに生きる」とは?

続いて、筋ジストロフィーの当事者である小澤綾子さんが講演をしました。筋ジストロフィーの症状により、3年ほど前から車いすユーザーとなった小澤さん。現在の症状について、「歯磨きを自分一人ではできないくらい、手があがらないような状態」と説明しました。

小澤さんが筋ジストロフィーの症状を自覚したのは、小学4年生の頃。自身のからだが思うように動かないことが多くなり、自覚したそうです。例えば、自分では一生懸命走っているつもりでも、うまく走ることができず、教師から「真面目にやりなさい」と指摘されたこともあったと言います。そういった経験から、「人と同じことができない自分が恥ずかしい。消えてなくなりたい」と思っていたのだそうです。

一方で、症状の原因を突き止めるために病院を転々としていたものの、なかなか確定診断には至りませんでした。筋ジストロフィーと診断がついたのは、小澤さんが20歳の頃だったそうです。筋ジストロフィーだとわかり、「やっと原因がわかった」と安堵した気持ちと、「まさか、自分が難病の当事者になるとは…」と、戸惑う気持ちの両方があったと言う小澤さん。そこから、病気を理由に就職活動で苦戦するなど、さまざまな困難と向き合うこととなりました。

困難と向き合うたびに、「障がいや難病があっても、自分らしく社会で生きることを諦めたくない」と考え、行動し続けた小澤さん。以前は「病気だから、自分には難しいかもしれない」と考えていた就職や結婚なども実現し、先日の東京2020パラリンピック閉会式では、パフォーマーとしても活躍しました。

最後に、インクルーシブな社会に向けて「障がい者だから、難病者だから、社会で受け入れなくては…という考え方ではなく、個人と向き合うことが大切」と、小澤さん。「一人ひとりが違いを楽しんで、相手の違いを受け入れられる社会を実現できたら、どんな障がいや難病があっても生きやすい社会になるのでは」と述べ、講演を締めくくりました。

それぞれの立場で考える、RDDアクション

最後に、登壇者の皆さまが、RDDをきっかけに行動する「RDDアクション」をテーマに、メッセージを寄せました。

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「RDDアクション」をテーマに、登壇者の皆さまからメッセージ(右から、小澤綾子さん、結城明姫さん、塩瀬隆之先生、RDD日本開催事務局の西村由希子さん)

小澤さん

当事者やご家族の立場から、小さなアクションをしていきたいですね。「こんな制度があったらいいと思う」「こんな嬉しいことがあった」など、小さなことのシェアからで大丈夫です。小さなアクションの積み重ねが、社会を変えていくと思います。

塩瀬先生

小さな一歩が大切だと思います。例えば、街中で立ち止まって、周りを見渡してみましょう。困っている人がいるかもしれないですし、違和感に気づくかもしれません。私も、よく街中の点字ブロックを見ています。小さな一歩を、少しずつ毎日続けてみましょう。

結城さん

10分で良いので、一度想像してみてほしいです。制限のある当事者だから「できない」、ではなく、こんなテクノロジーがあれば「できるのではないか?」と、想像してみましょう。楽しく想像する中で、「これ、いいんじゃないかな?」と思うアイディアがあれば、私たちのような企業、周りの人に対して、ぜひ話してみてください。

2月28日(月)開催「RDD Tokyo」

2022年も、RDD Tokyoが開催されます。2月28日(月)12:00~17:30のオンライン配信を予定。専門家による基調講演や、当事者・ご家族によるセッションなどが予定されています。詳細は、関連リンクにあるRDD公式ウェブサイトからご確認ください。(遺伝性疾患プラス編集部)

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