【イベントレポート】RDD特別開催「障害・難病」と「はたらく」を考える

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. 難病当事者の立場を想像し、ディスカッションを通じて相互理解を深めるワークショップが開催
  2. 「会社員→フリーランス」とキャリアを変えた当事者の体験について、みんなでとことん考えた
  3. 体調にあわせつつ、知ってもらうべき行動をするなど「相互理解」の大切さを知った

黄斑ジストロフィー・筋ジストロフィーなど当事者4人の体験から、キャリアを考える

NPO法人両育わーるど・難病者の社会参加を考える研究会は2月25日、世界希少・難治性疾患の日(Rare Disease Day:RDD)特別開催として、「障害・難病」と「はたらく」を考える~THINK DIVERSITY~を開催しました。同イベントには、難病や障がいがある当事者や関係者が参加し、日常や就労をテーマとしたワークショップが行われました。

RDDは、より良い診断や治療による希少・難治性疾患当事者の生活の質(QOL)の向上を目指した活動です。毎年2月頃を中心に、RDD月間としてさまざまなイベントが開催されています。

News24031801
NPO法人両育わーるど 公式ウェブサイトより

難病や障がいがある当事者が歩むキャリアについて、実際にお話を聞く機会は多くありません。そこで今回のイベントでは、黄斑ジストロフィー、クローン病、ベッカー型筋ジストロフィー、甲状腺がんの当事者4人の体験をもとにワークショップが進められました。参加者は、事前に共有された4人のプロフィール情報を見ながら、それぞれの方の立場や思いを想像し、ディスカッションするワークを実行。その後、実際に当事者ご本人たちから話を聞き、さらに参加者同士でディスカッションすることで相互理解を深めました。今回扱ったテーマは、以下の3つです。

  1. 病気があることによる過去の葛藤
  2. 就労において、この人自身が感じている不安
  3. 安心して働くために、お互いにできる働きかけは何か?

ワークでは「正しい答えはない」という前提で、参加者が感じたことを共有する時間が設けられました。また、「言葉がうまく出てこないと感じた場合は、『もし彼らが自分の職場で働く仲間だったら…?』と想像しましょう」など、具体的なサポートも入りました。

今回のワークショッププログラムは、両育わーるどの「THINK UNIVERSAL PROJECT」の一環として開発されたものです。

「THINK UNIVERSAL PROJECT」NPO法人両育わーるど公式YouTubeより

フリーランスとして活躍中の筋ジストロフィー当事者、過去・現在・未来を想像する

今回の記事では、例として、当事者4人の中からベッカー型筋ジストロフィーの当事者Tさんのグループをご紹介します。Tさんは、小学校低学年頃から症状を自覚していたものの、診断を受けたのは12歳の頃。現在の症状は「疲れやすさ」が顕著に現れ、長時間の座位・長距離の歩行・階段の昇降が難しい状況です。3年前から、車いすを利用し始めました。就労状況は、フリーランスとして、動画編集・イベント登壇といった仕事を自宅で行っています。

Tさんのプロフィール情報を踏まえて、グループではまず、「1.病気があることによる過去の葛藤」についてディスカッションしました。12歳で診断を受けたことに対しては、「年齢的にもアイデンティティに悩まれたのではないか」「安心とともに、将来への不安もあったのではないか」といった声が。また、「小学校低学年から症状を自覚しており、診断され、納得感・安堵感があったとのこと。悩んでいたことに名前がついた、という安心感を想像すると、それまでのモヤモヤが大きかったのではないか」という考えを述べた方もいらっしゃいました。

次に、「2.就労において、この人自身が感じている不安」については、「症状から通勤は厳しそう」「コロナ禍で整備されたとはいえ、在宅勤務ができる会社は少ないのでは?」といった声があがりました。また、「フリーランスを選ばれているのは、どういう背景からだろう?」など、さらに詳しく知りたいテーマも具体的になりました。

最後に、上記の内容を踏まえて、「3.安心して働くために、お互いにできる働きかけは何か?」についてディスカッションしました。「動画編集の依頼主から配慮は難しいかもしれない。ご自身から伝えるかどうかで変わるかもしれない」「仕事のクオリティに信頼を置いてもらい、やりとりする」など、さまざまな内容についてディスカッションが進められました。

News24031802
ワークショップの様子

“トリセツ”の活用などで必要な配慮を伝え、成果を出す姿勢も

続いて、当事者Tさんから、参加者の皆さんにお話しをする時間が設けられました。診断後30歳まで、周りの人や職場の人に自身が難病であることを隠していた、といった追加の情報も。就労についても、以前は会社員として働いていましたが、体調にあわせた働き方が難しいなどの理由から退職を選択した経緯も紹介されました。退職を選択したきっかけとしては、大きく2つの出来事があったそうです。1つ目は、コロナ禍でリモートワークの制度が導入されたものの、会社側が制度の終了を決めたこと。2つ目は、フレックスタイム制の導入が検討されたものの、結果的に導入されなかったことです。フリーランスとなった現在は、自宅で体調にあわせた働き方ができているそうです。また、Tさんが働き方で意識しているポイントとしては、「病気によってできないことを伝えつつ、できることで成果を出すこと」と、紹介しました。

実際にお話を伺った内容を踏まえて、再びグループごとのディスカッションへ。参加者からは、「コロナ禍は働き方の切り替えのチャンスだったのに残念。制約のある方の活躍の場が広がるはずだったのに」といった声が。また、「いわゆる「トリセツ(取扱説明書)」は大事。自分にできないことがあれば、相手に伝えることの大事さを理解した」など、当事者側から必要な配慮を伝える大切さも話題にあがりました。

「相互理解」は誰もが自分らしく生きられる社会への第一歩

イベントのまとめでは、「当事者の現在の姿だけでは、わからないことがある」という話があがりました。現在の状況に加えて、相手の過去や未来を想像することで相互理解が深まることが期待されます。そうすることで、「難病や障がいがある人もそうでない人も、誰もが自分らしく生きられる社会への第一歩になれたら幸いです」という主催者側のメッセージとともに、イベントは締めくくられました。(遺伝性疾患プラス編集部)

関連リンク