球脊髄性筋萎縮症などの神経難病、早期の運動療法による効果の仕組みをマウスで解明

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. 球脊髄性筋萎縮症などのポリグルタミン病、運動療法の真の効果や適切な運動量は不明
  2. 球脊髄性筋萎縮症モデルマウスを用いて運動療法の効果を検証
  3. 早期に低負荷運動をしたマウスで、異常ポリグルタミンタンパク質量低下や運動障害の緩和を確認

運動療法は異常なポリグルタミンタンパク質の蓄積にどのように影響するのか

名古屋大学を中心とした研究グループは、球脊髄性筋萎縮症の疾患モデルマウスを用いた研究において、早期の運動療法が、運動ニューロンや筋肉の変性を緩和し症状を改善することを明らかにしたと発表しました。

球脊髄性筋萎縮症は、通常男性のみ発症し、脳の一部や脊髄の運動神経細胞に障害が起こる神経変性疾患で、顔や舌、手足の筋肉が徐々に萎縮することで筋力が低下していき、歩行障害のほか、食事のときに飲み込みづらくむせやすい(嚥下障害)などのさまざまな症状が引き起こされます。この病気の治療薬として、男性ホルモンであるアンドロゲンの産生を抑える、リュープロレリン酢酸塩が日本で承認されていますが、その効果は十分ではなく、新たな治療法の開発が望まれています。

球脊髄性筋萎縮症は、ポリグルタミンタンパク質の毒性が原因で引き起こされるポリグルタミン病の一つで、ポリグルタミン病にはこの病気以外に、ハンチントン病脊髄小脳変性症などの疾患も含まれています。多くの神経変性疾患や筋変性疾患では異常なタンパク質が蓄積することで神経細胞や筋肉の障害が引き起こされますが、球脊髄性筋萎縮症では、アンドロゲン受容体遺伝子のCAGリピート配列の異常な延長が、ポリグルタミンを含む異常なアンドロゲン受容体タンパク質を作り出し、それがアンドロゲンと結合することで核内に凝集体を形成し、運動ニューロンや骨格筋の障害につながると考えられています。

ポリグルタミン病のような神経変性疾患や筋疾患の治療には、適切な運動療法が有効であると考えられています。しかし、負荷の大きい運動などは病状を悪化させる可能性もあることから、いつ・どのような強さの運動を行うのが効果的なのかを明らかにする必要がありました。そして、運動療法がこれらの異常なタンパク質の蓄積にどのような影響を与えるのかについてもわかっていませんでした。研究グループは、以前の研究で作成した球脊髄性筋萎縮症のモデルマウスを用いて、発症早期の運動療法にどのような効果が見られるのかを検証しました。

早期に低負荷の運動を行ったマウス、異常タンパク質量低下し運動障害も緩和

研究グループは、球脊髄性筋萎縮症のモデルマウスに一定期間「かご走行運動」を行わせ、運動を行なったマウスと、運動を行なっていないマウスを比較しました。

まず、かご走行運動装置を用いて、マウスがどのような強さの運動が可能かを調べました。その結果、発症前〜発症早期では、低負荷(5メートル/分)の運動であれば、マウスは1時間途切れずに運動することが可能で、進行期のマウスは同じ負荷でも運動の継続が困難であることがわかりました。また、早期、進行期どちらのマウスでも高負荷(10メートル/分)の運動は困難でした。

そこで、早期に低負荷の運動を1日1時間、4週間(5週齢から9週齢)行ったところ、運動を行ったマウスは運動を行なっていないマウスと比べて生存期間が延長しました。運動を行ったマウスの運動機能をロタロッドテストと呼ばれる方法で評価したところ、運動障害の緩和が見られ、この運動機能の改善は運動期間の終了後も長期間継続しました。

また、運動を行ったマウスのタンパク質を調べたところ、運動ニューロンや骨格筋での異常なポリグルタミンタンパク質の量が低下し、核内の凝集体形成が抑制されていました。これらの結果から、早期の運動を行うことで、モデルマウスの神経筋変性が緩和したと考えられました。

そこで、早期の運動によってどのようなメカニズムでポリグルタミンタンパク質量が低下したのかを調べるため、運動の期間が終了した直後のマウスの組織を調べたところ、AMPKシグナルと呼ばれる経路が活性化することによって、タンパク質合成を全体に低下させ異常アンドロゲン受容体タンパク質の蓄積を抑えていると示唆されました。研究グループが、骨格筋の細胞にAMPKシグナルを活性化する薬剤を加えたところ、運動と同様にタンパク質の合成が抑制され、異常アンドロゲン受容体タンパク質の凝集体が低下することが明らかになりました。

この研究によって、球脊髄性筋萎縮症などのポリグルタミン病では、早期に低負荷の運動を一定期間行うことで、異常なポリグルタミンタンパク質による神経筋変性が緩和できる可能性が示されました。

研究グループは、今後、運動への耐久性を評価するバイオマーカーを確立し、その指標をもとに運動の方法を決定することが、個々の患者さんに合わせた最適な運動療法の開発につながる、と述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)

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