遺伝性脳小血管病CADASILで起こる変異タンパク質蓄積の機構を解明

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. NOTCH3変異と老化が組み合わさり発症するCADASIL、根本的な治療法は未確立
  2. 糖鎖修飾を受けた変異型NOTCH3が血管周囲に異常に蓄積する機構を検証
  3. 血管細胞ペリサイトの老化によって変異型NOTCH3の糖鎖修飾が増えて発症に至ると判明

脳の小さい血管が傷つけられ脳卒中を繰り返す

千葉大学を中心とした研究グループは、遺伝性脳小血管病CADASIL(カダシル)の原因として知られるNOTCH3変異型タンパク質の蓄積に、化学修飾の1つである糖鎖修飾が関与することを明らかにしたと報告しました。

CADASILは、指定難病「皮質下梗塞と白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症」の英語略称。脳の小さい血管が傷つけられることで脳卒中(脳梗塞・脳出血)を繰り返し、認知症を発症します。患者さんの数が人口10万人あたり数人の希少難病として知られていましたが、最近の研究では、アジアでおよそ100人に1人がCADASILもしくはその予備軍と推定されています。CADASILは、NOTCH3遺伝子の変異が原因となり、無症状期間を経た後、老化が遺伝要因と組み合わさることで発症します。しかし、病態の仕組みは完全には解明されておらず、根本的な治療法も存在しません。

CADASILでは、脳の小さな血管が傷つけられます。脳の小さな血管は、血管の外側を覆うように包んでいる「ペリサイト」細胞によって血流が調節されており、NOTCH3タンパク質は、このペリサイトを維持するために重要です。NOTCH3遺伝子に変異が生じると、変異型のNOTCH3タンパク質が作られます。変異型タンパク質によりペリサイトの維持に重要な働きが失われるだけでなく、血管の周囲に変異型タンパク質が異常に蓄積することで毒性が発揮され、老化と組み合わさることでCADASILの発症につながると考えられています。

しかし、この変異型タンパク質がどのように機能低下し、タンパク質の蓄積が増加するのか、その詳しい機構はわかっていませんでした。研究グループは、NOTCH3タンパク質が、「糖鎖修飾」と呼ばれる化学反応によってそのシグナル活性やタンパク質の量が制御されていることに着目し、糖鎖修飾の影響を検証しました。

ペリサイトの老化により、NOTCH3の糖鎖修飾を行う酵素「RFNG」が増加

研究グループは、CADASILで見られる変異のうち、C185R・R141C変異型のNOTCH3に関して実験を行いました。その結果、1)ペリサイトの老化によって糖鎖修飾を行う酵素「RFNG」の発現が上昇する、2)RFNGは糖鎖修飾を促進する、3)NOTCH3のC185R・R141C変異タンパク質は正常なNOTCH3タンパク質に比べて、RFNGによって蓄積しやすい、4)NOTCH3によるシグナル活性がRFNGによって著しく減弱する、という4つのメカニズムが明らかになりました。

これらの結果から、RFNGが老化によって増えることで糖鎖修飾を促進し、変異型タンパク質がシグナル活性を弱め、さらに蓄積することで、血流が低下して脳梗塞や認知症を引き起こすという、糖鎖修飾を介した新たなCADASIL病態の機構が示唆されました

研究グループは、「他の変異型におけるタンパク質蓄積に対してもRFNGが関与するのかを調べる必要があるが、今回の研究を発端として、NOTCH3の糖鎖修飾を介した病態の解明や有効な治療法の確立が進むことが期待される」と述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)

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