神経伝達物質が合成されず運動発達の遅れなどさまざまな症状が引き起こされる
米国のPTC Therapeutics社は2024年11月13日、芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素(AADC)欠損症に対する遺伝子治療薬「KEBILIDI(一般名:エラドカゲンエクスユーパルボベク-tneq)」が、米国食品医薬品局(FDA)から承認されたと発表しました。あらゆる重症度のAADC欠損症(小児および成人)が適応となります。KEBILIDIは、欧州ではUpstazaの商品名で2022年に欧州委員会から販売承認を取得していました。
AADC欠損症は、DDC遺伝子の変異が原因となり、神経伝達物質であるドーパミンとセロトニンの合成に関わる酵素であるAADCが働かないことにより引き起こされる遺伝性疾患です。これらの神経伝達物質は、運動や自律神経などあらゆる機能に不可欠な物質であるため、生後数か月からさまざまな症状や重度の障害を引き起こし、身体、精神、行動など多くの面で生活に影響を与えます。座る、立つ、歩くなどの粗大運動機能の発達の遅れ、筋緊張低下、認知機能発達の遅れなどが見られるほか、感染症や重度の摂食障害、呼吸障害など、命に関わる合併症が見られることもあります。
KEBILIDIは、機能するDDC遺伝子を直接脳に導入することで、AADC酵素を増加させ、遺伝子の欠損を修正するように設計された遺伝子治療薬です。KEBILIDIの投与は、低侵襲の脳神経外科手術である定位脳手術によって、脳への薬物送達に使用される特殊な細い管を使ったシステムを用いて行われます。この手術は、定位脳手術に特化した施設で資格を有する脳外科医により行われます。
運動機能評価で有効性確認、最も多い副作用はジスキネジアで77%
今回KEBILIDIは、進行中の臨床試験「PTC-AADC-GT-002」において認められた安全性と臨床的有効性に基づいて迅速承認を受けました。
AADC欠損症の小児患者さん13人を対象とした同試験では、KEBILIDI投与により、ドーパミンが新たに合成され、その後、運動発達のマイルストーンが徐々に獲得されることが実証されました。試験開始時は全員、粗大運動機能が全く見られず、血液中のAADC酵素の活性が低下していました。治療開始後48週目に、13人中12人の運動機能評価が完了し、12人中8人で粗大運動機能が改善したことからこの治療薬の有効性が認められました。
KEBILIDI治療を受けた患者さんで最も一般的な副作用(15%以上)は、ジスキネジア(77%)、発熱(38%)、低血圧(31%)、貧血(31%)、唾液過剰分泌(23%)、低カリウム血症(23%)、低リン血症(23%)、不眠症(23%)、低マグネシウム血症(15%)、呼吸停止および心停止を含む処置合併症(15%)でした。
今後、同臨床試験では長期追跡調査が行われ、継続的な承認は、これらの追跡調査を確認した後で行われる可能性があります。(遺伝性疾患プラス編集部)