脊髄小脳失調症6型、新しい治療薬候補「L-アルギニン」の第2相臨床試験結果を発表

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. 脊髄小脳失調症の新規治療薬候補「L-アルギニン」の有効性と安全性評価する治験実施
  2. 48週間後の評価で運動失調症の評価尺度に改善が見られたが統計学的な有意差はなし
  3. 脊髄小脳失調症6型に対する一定の効果が見られたことから、大規模な第3相試験の実施が望まれる

異常なポリグルタミンタンパク質が、神経細胞で固まることで発症する疾患

新潟大学を中心とした研究グループは、脊髄小脳変性症に含まれる疾患の一つである、脊髄小脳失調症6型(SCA6)に対する新たな治療薬候補「L-アルギニン」の有効性と安全性を調べるために実施された治験の結果を発表しました。

脊髄小脳失調症は小脳という脳の一部が病気になり、うまく歩けない、ろれつが回らないなどの症状が引き起こされる神経の難病で、日本の患者さんの数はおよそ3万人です。この病気の3分の1を占める遺伝性の脊髄小脳失調症では、その多くが(グルタミンというアミノ酸の繰り返しが異常に多い)ポリグルタミンタンパク質が、神経細胞の中で集まって固まることにより引き起こされることがわかっており、「ポリグルタミン病」と呼ばれることもあります。

研究グループは、これまでの研究でL-アルギニンという物質がポリグルタミンタンパク質の固まりを作らないようにすることを発見し、ポリグルタミン病の動物モデルでの治療効果を報告していました。L-アルギニンはアミノ酸の一種で既に医薬品として使用されている物質であるため、今回、ヒトにおけるL-アルギニンの安全性と、ポリグルタミン病に対する治療効果を確かめるための治験を行いました。

L-アルギニンとプラセボ各20人で比較、1年間で評価指標SARA1.5点分の治療効果

今回の治験(AJA030-002、jRCT2031200135)は、2020年9月から2022年9月までの期間、日本国内の5施設(新潟大学、国立精神・神経医療研究センター、東京医科歯科大学(当時)、大阪大学、近畿大学)が参加して行われた第2相試験です。

試験対象は、日本に患者さんが比較的多く、患者さんごとの症状の差が少ない脊髄小脳失調症6型(SCA6)の患者さんで、参加した40人の患者さんのうち、20人はL-アルギニン、20人はプラセボを48週間内服しました。試験は、無作為化二重盲検で行われました。

治療効果は小脳の病気の評価に使われるSARA(scale for the assessment and rating of ataxia)と呼ばれる手法が用いられました。SARAは、運動失調症の評価尺度で、歩行や手の動きなどの8つの項目で、0点(失調なし)から最重度の40点までの点数で評価されます。

治験開始時と48週間後でのSARAの変化が調査された結果、48週間後の治療効果判定では、L-アルギニンを内服した患者さんグループでSARAが0.96±0.55点改善し、プラセボを内服した患者さんグループでSARAが0.56±0.55点悪化していました。2つの群の差から、L-アルギニンにより1年間でおよそSARA1.5点分の治療効果が見られました。その一方で、この治療効果において、有効性の評価に重要となる統計学的な有意差はありませんでした(p=0.0582)。

重篤な有害事象として肺炎1例と肝障害1例

また、安全性の面では、治験薬の影響が否定できない重篤な有害事象が見られ、肺炎1例(死亡)、肝障害1例(改善)となっていました。

研究グループは、L-アルギニンがSCA6に対して一定の効果があることがわかったことから、統計学的な違いをはっきりさせ、脊髄小脳失調症の治療薬として安全に使用できるようになるために、今後はより大人数での第3相試験が行われることが期待される、と述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)

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