ハーラー症候群に対する造血幹細胞移植、早期診断が課題
東海大学は、心不全を併発したハーラー症候群の1歳3か月の患者さんに対する造血幹細胞移植に成功したと発表しました。
ハーラー症候群は、ライソゾーム病に含まれる疾患で、細胞内の不要物を分解する酵素の先天的な欠損によって「ムコ多糖」と呼ばれる糖とタンパク質が結合した老廃物がさまざまな臓器に蓄積する遺伝性疾患です。精神・運動機能の発達障害や特徴的な顔つき(顔貌)、骨の形成不全、心臓の異常などの症状が現れ、治療せずにいると15歳前後で命を落とすことが多いとされています。
ハーラー症候群の治療法には、欠損している酵素の補充や造血幹細胞移植などがあります。造血幹細胞移植は、生後2年以内に行うと中枢神経系に起こる症状の進行を抑えられるとされていますが、一般的には診断を確定できるのが4歳前後になるため、障害が進んでしまい、治療の効果が不十分であるといった課題がありました。
新生児拡大マススクリーニングで早期診断、造血幹細胞移植に成功
今回、造血幹細胞移植による治療を受けたのは、「新生児拡大マススクリーニング」によって日本で初めて新生児期(生後28日未満)にハーラー症候群と診断された1歳3か月の患者さんです。新生児拡大マススクリーニングは、公費で行われる新生児マススクリーニング(23疾患が対象)に対し、自費で追加の疾患(ハーラー症候群を含む)を検査するものです。
この患者さんの保護者は、早期の移植を希望していましたが、心不全を合併していたため、複数の病院で移植は困難と判断されていました。同大学の血液腫瘍性疾患診療グループは、小児科や小児循環器の専門医らと協力して、臍帯血(へその緒と胎盤の血液)に含まれる造血幹細胞を用いた移植を実施しました。移植は成功し、造血幹細胞の順調な生着(移植された造血幹細胞が体内で働き始めること)と、心機能の改善が確認されたため、患者さんは無事に退院に至りました。
心機能の低下により造血細胞移植が困難とされた患者さんに対する治療成功は、早期診断と高度な医療技術による成果であり、両者の融合がハーラー症候群の進行防止につながると期待されます。(遺伝性疾患プラス編集部)
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