筋ジストロフィー(DMD)のエクソン44スキップ薬、医師主導治験の有望な結果を発表

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. DMDのアンチセンス核酸医薬品「ブロギジルセン」について医師主導治験の成果を報告
  2. 平均20.55%のジストロフィンタンパク質発現回復と運動機能の維持・改善傾向を確認
  3. 尿から採取した細胞を用い、筋生検なしで治療効果を評価できる手法の有用性を確認

既存薬が適応にならない遺伝子変異タイプに対する治療法開発が求められている

国立精神・神経医療研究センター(NCNP)を中心とした研究グループは、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(以下、DMD)のアンチセンス核酸医薬品である「ブロギジルセン(NS-089/NCNP-02)」を用いた医師主導治験(First In Human試験)の成果を報告しました。

DMDはジストロフィン遺伝子の変異により、筋肉細胞の骨組みを形成する重要なタンパク質(ジストロフィンタンパク質)が正常に作られなくなることで引き起こされる遺伝性疾患です。主に男児に発症し、筋細胞膜の安定性が失われ徐々に筋力低下が進行します。DMDの治療は、現在はステロイド剤で進行を遅らせる治療が行われていますが、根本的な治療法は限られており、新たな治療法の開発が求められています。

DMDの筋機能改善が期待できるアプローチとして、「エクソン・スキップ治療」の開発が進められています。エクソン・スキップ治療は、アンチセンス核酸を用いて、メッセンジャーRNAのタンパク質に翻訳される領域(エクソン)の一部を意図的に除去する治療法です。これにより、アミノ酸読み取り枠のずれを修正し、部分的に短縮しながらも機能を保持したジストロフィンタンパク質が発現することで筋機能の改善が期待できます。この治療法は患者さんの遺伝子変異に応じて標的エクソンが異なり、国内では、エクソン53スキップ薬であるビルテプソ(R)点滴静注250mgが製造販売承認を取得しています。しかし、この薬が適応にならない患者さんには、別のエクソンを標的とした薬剤が必要です。

ブロギジルセンは、エクソン44を対象とした世界初のエクソン44スキップ薬です。1つの薬剤で2か所を同時に狙うデュアルターゲティング技術や高い安全性と安定性を持つモルフォリノ核酸を採用し、エクソン44スキップが有効な変異タイプを持つDMD患者さん由来細胞を用いた非臨床試験では、優れた有効性が確認されています。

有害事象発生による投与中止例はなし

今回報告された医師主導治験(UMIN:000038505、ClinicalTrials.gov:NCT04129294)は、NCNP病院と鹿児島大学病院で実施されました。6例のDMD患者さんに対してブロギジルセンが全身投与され、その安全性と有効性が評価されました。

その結果、平均20.55%までジストロフィンタンパク質発現の回復が確認され、ノース・スター歩行能力評価スコアなどで評価された運動機能において、維持または改善傾向が示されました。また、有害事象の発生による投与中止例はありませんでした。これらの結果から、ブロギジルセンはDMDに対する新たな治療選択肢として期待されます。

研究グループはこれまでに、患者さんから採取した尿中の幹細胞をダイレクト・リプログラミング法と呼ばれる手法で骨格筋細胞へ変換し、実験室で薬剤効果を検証する方法を開発していました。今回の治験において、患者さんから採取した尿中の幹細胞を評価したところ、実際の全身投与で効果が見られた患者さんでは、尿中細胞由来の骨格筋細胞でも同様にジストロフィン発現の上昇が確認されました。

この方法が確立されれば、従来の苦痛を伴う筋生検を行わずに薬効の評価が可能となり、患者さんの負担を大幅に軽減した評価による治験実施につながることが期待されます。

また、この治験では、ブロギジルセン投与前後の血液サンプルを分析し、DMDで高値を示すタンパク質(タイチン、ミオメシン2、ミオシン軽鎖PF)がジストロフィン回復に伴い低下することを確認しました。これらは日常診療での治療効果判定や将来の治験における重要な血液マーカーとなる可能性があります。

今回の結果を踏まえ、日本新薬株式会社が臨床試験を引き継ぎ、現在、医薬品としての販売開始に向けてこの医師主導治験の継続投与試験とグローバル第2相試験を実施中です。(遺伝性疾患プラス編集部)

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