尿素サイクル異常症、CPS1欠損の乳児に対する世界初の個別化ゲノム編集治療を実施

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. CPS1欠損症の乳児患者さんに対する、個別化ゲノム編集治療を実施
  2. 患者さんの遺伝子変異を特定し6か月以内に治療を設計・製造、安全な投与に成功
  3. 3回の治療を受けた時点で患者さんは順調に回復、重篤な副作用はなし

アンモニアを変換する酵素が欠損、肝移植が必要な場合も

米国のフィラデルフィア小児病院とペンシルベニア大学医学部の研究グループは、尿素サイクル異常症の一つであるカルバミルリン酸合成酵素(CPS1)欠損症の乳児の患者さんに対する、世界初のゲノム編集治療に成功したと報告しました。

尿素サイクル異常症は、遺伝的な原因により肝臓でアンモニアを尿素に変換するために必要な酵素が欠損する遺伝性疾患です。体内でタンパク質が分解される際に生成されるアンモニアは、尿素に変換されることで尿として排泄されますが、この疾患では変換されずに残ったアンモニアが有毒なレベルまで蓄積し、特に脳や肝臓において障害を引き起こす可能性があります。

CPS1欠損症を含む尿素サイクル異常症の重症例では肝移植による治療が必要となる場合がありますが、移植を受けるためには医学的に安定した状態で、手術に耐えられる年齢に達している必要があります。その間に、血中アンモニア濃度の上昇が起こると脳への障害のリスクや致命的な結果を招く可能性があり、肝移植を受けることができない乳児や小児の患者さんを治療する新たな方法が求められていました。

CRISPR技術を用いたゲノム編集は、ヒトゲノム中の疾患原因となる変異を正確に修正することができます。これまで、この技術を用いた治療は鎌状赤血球症とベータサラセミアなど世界的に数万から数十万人の患者さんが存在する比較的一般的な疾患を対象とした「万能型」アプローチで開発されてきました。しかし、希少遺伝性疾患に関しての開発はほとんど行われていませんでした。

食事制限の緩和と薬剤減量、感染症からの回復も順調

今回の治療は、重篤なCPS1欠損症の乳児患者さんに対して実施されました。研究グループは、患者さんの出生直後に特異的なCPS1遺伝子変異を特定し、この変異を標的とした患者さん専用のゲノム編集治療システムを6か月以内に設計・製造しました。この治療システムは、脂質ナノ粒子によって肝臓に送達され、異常のある酵素を修正して正常に機能させることが期待されます。

生後6〜7か月で最初の治療を受けた患者さんは、その後1か月おきに合計3回の追加治療を受けました。3回の治療を受けた時点で、重篤な副作用はなく、短期間の経過観察では非常に有望な結果が得られました。

具体的には、食事中のタンパク質摂取量を増やすことができ、窒素除去薬の必要量も減少しました。また、ライノウイルスなどの一般的な小児疾患から回復する際も、体内にアンモニアが蓄積することなく順調に回復していることが報告されました。

今回の成果は、希少疾患分野における個別化ゲノム編集治療の実現可能性を実証した第一歩であり、今後のさらなる研究が期待されます。(遺伝性疾患プラス編集部)

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