筋ジストロフィー、海外で開発中の3つの治療薬の最新情報

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. 筋ジストロフィーDMD/LGMD対象、エクソンスキップ治療・遺伝子治療の開発が進む
  2. DMDエクソン45スキップ薬「ENTR-601-45」の開発情報、遺伝子治療エレビジスの最新安全性情報
  3. LGMDのうち 2C/R5型・2D/R3型・2E/R4型対象の遺伝子治療の開発情報

進行性の筋力低下、遺伝性疾患「筋ジストロフィー」

筋ジストロフィーは、遺伝子の変異により進行性の筋力低下を引き起こす遺伝性疾患です。デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は、多くの場合、男性で発症する遺伝形式です。歩きがふらつく、階段の上り下りが困難、転びやすいなどの歩行障害が生じます。肢帯型筋ジストロフィー(LGMD)は、歩行障害が現れるほか、肩甲帯、腰帯、四肢近位部の筋障害が生じます。今回は、DMDとLGMDを対象に開発中の3つの治療について、海外の最新情報をご紹介します。

DMD:エクソンスキップ治療「ENTR-601-45」

米国のEntrada Therapeutics社は、DMDの原因となるジストロフィン遺伝子の変化のうち、エクソン45のスキップが可能な患者さん向けのエクソンスキップ治療薬ENTR-601-45の開発を進めています。同剤は、正常なジストロフィンより少し短縮されているものの、機能するジストロフィンタンパク質をつくることを目指しています。

今後、英国で第1/2相臨床試験を開始予定。その試験結果をもとに、米国での臨床試験実施を目指す予定だとしています。

DMD:遺伝子治療「エレビジス」の安全性情報

スイスのエフ・ホフマン・ラ・ロシュ社は、歩行不能なデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)患者に対するELEVIDYS(エレビジス(R)点滴静注(一般名:デランジストロゲン モキセパルボベク)の新たな安全性情報を発表しました。同剤は、DMD患者さん対象の遺伝子治療薬。日本では2025年5月に条件及び期限付承認されています。同剤は、標的とする筋肉組織で正常な短縮型のジストロフィンを発現させることで、DMDの根本的な原因へ対処することを目指します。

2025年6月時点では、歩行不能なDMD患者さん限定で投与制限の発表が出ています。これは、歩行不能な患者さんで致死的な経過をたどった急性肝不全の報告が2件あったことを受けた判断です。具体的には、歩行不能なDMD患者さんに対して、臨床試験を含めで投与が中断されます。なお、歩行可能なDMD患者さんに対するベネフィット・リスクに変更はないとしています。

LGMD:3つの病型に対する遺伝子治療薬

LGMDには30以上の病型があります。米国のSarepta Therapeutics社は、その中でも3つの病型に対する遺伝子治療薬の開発を進めています。

(1)SRP-9005(LGMD 2C/R5型)

米国の第1相臨床試験での投与が開始される予定。AAVrh74ベクター(遺伝子の運び屋)を用いて、ガンマサルコグリカン遺伝子を導入します。LGMD 2C/R5型では心臓疾患の発症が課題としてあります。そこで同剤では、特に心臓での遺伝子発現を特徴としています。

(2)SRP-9004(LGMD 2D/R3型)

LGMD 2D/R3型は、主に股関節、肩、大腿部の筋肉の低下を引き起こします。そのため同剤は、骨格筋、横隔膜、心筋を中心に全身へ機能的な遺伝子を送るように設計されたAAVrh74ベクターを用いて開発されています。また、骨格筋に選択的に発現するtMCKプロモーターを使用していることも特徴です。現在、同剤は、医薬品としての実現可能性を検証するため、第1相試験において、アルファサルコグリカンタンパク質の発現と安全性の評価を実施しています。

(3)SRP-9003(LGMD 2E/R4型)

第3相臨床試験の参加者となる患者さん募集から投与までが完了しています。同社は、2025年半ばまでにデータが発表される予定だとしています。同剤は、骨格筋、横隔膜、心筋を中心に、全身へ機能的な遺伝子を送るように設計されたAAVrh74ベクターを使用する遺伝子治療薬です。特に2E型の患者さんは心臓などの合併症が課題のため、同剤も心臓での遺伝子発現を特徴としています。


今回は、DMDやLGMDを中心に海外での開発状況をご紹介させていただきました。遺伝子治療やエクソンスキップ治療の進展が、患者さんのQOL向上に貢献することが期待されます。(遺伝性疾患プラス編集部)

関連リンク