脊髄の運動ニューロンが徐々に機能を失う疾患
バイオジェン・ジャパン株式会社は、脊髄性筋萎縮症(SMA)対象の3つの臨床試験における進展について発表しました。既存の治療薬「スピンラザ(R)」(一般名:ヌシネルセン)の高用量での治療効果が示されたこと、症状が発現する前のスピンラザ早期治療による最終結果、そして年1回投与で高い効果が期待される新薬salanersenの第1相試験での有望な結果により、今後の治療選択肢拡大につながることが期待されます。
SMAは、脊髄の運動ニューロン(運動神経細胞)が徐々に機能を失う遺伝性疾患で、SMN1遺伝子の変異によりSMNタンパク質が欠乏することで引き起こされます。症状の重さや発症時期により複数の型に分類され、重篤な場合は呼吸機能や運動機能に深刻な影響を与える場合があります。
スピンラザは、SMNタンパクの産生を増加させるアンチセンス・オリゴヌクレオチド(ASO)で、現在世界71か国以上で承認され、1万4,000人以上の患者さんが治療を受けています。また、salanersenは、スピンラザと同様の作用機序を持ちながら、年1回の投与で高い治療効果が期待されるように設計された、新たなASO治療薬です。
スピンラザ高用量治療により年齢・症状の重さに関係なく運動機能改善
DEVOTE試験は、スピンラザを高用量で投与する治療計画(レジメン)の有効性と安全性を評価する臨床試験です。パートCでは、標準用量12mgを約4年間使用していた4~65歳の患者さん38人が、負荷投与(最初の投与)50mg、維持投与(その後の定期的な投与)28mgの高用量レジメンに移行しました。
解析の結果、多くの患者さんでさらなる運動機能改善が確認されました。運動機能評価指標の一つであるHFMSEでは、歩行不能だった患者さんで平均2.5ポイント、歩行可能な患者さんでは平均1.1ポイントの改善が見られました。また、上肢機能など他の評価でも改善が確認され、年齢や症状の重さに関係なく効果が実証されました。
高用量治療における安全性は、これまでの承認された用量とほぼ同様の安全性プロファイルが確認されました。DEVOTE試験全体での有害事象は、肺炎、呼吸不全、発熱、COVID-19、上気道感染、処置に伴う疼痛、頭痛などでした。重篤な有害事象は治験薬との関連性はないと判断されました。
スピンラザ早期治療により92%が自立歩行を達成
NURTURE試験は、症状が現れる前の乳児患者さんを対象に、スピンラザ12mgによる早期治療の効果を8年間にわたって追跡した非盲検試験です。
最終結果として、症状未発症で早期治療を行った患者さん25人のうち全員が試験終了時に生存しており、92%が自立歩行を達成するという成果が示されました。また、多くの患者さんが正常な発達時期内で歩行を獲得し、永続的な人工呼吸管理が必要になった患者さんはいませんでした。
8年間の追跡調査で新たな安全上の懸念は確認されませんでした。すべての患者さんに少なくとも1件以上の有害事象が発現しましたが、その大部分は軽度~中等度で、投与中止または治験中止に至った症例はありませんでした。
年1回投与の新薬salanersen、遺伝子治療後でも効果を実証
salanersenの第1相臨床試験は、健康な成人男性を対象としたパートAと、すでにゾルゲンスマ(R)での遺伝子治療を受けたものの、臨床的効果が不十分と判断された小児の患者さんを対象としたパートBで構成されています。
パートBでは24人の患者さんが参加し、40mgまたは80mgの用量で年1回投与を受けました。神経変性の進行を示すニューロフィラメント軽鎖(NfL)の値が高かった患者さんにおいて、salanersen投与開始後6か月でNfL濃度が平均70%減少し、この効果は1年間持続しました。
追跡期間が1年以上であった8人の患者さん(2~12歳)のうち、半数(4人)が新たに歩く、立つ、座るなどの運動機能を獲得しました。運動機能評価では、HFMSEとRULMと呼ばれる2つの評価指標で改善が確認され、HFMSEで治療前の状態から平均3.3ポイント、RULMでは5.3ポイントの改善が認められました。1歳で遺伝子治療を受けたものの5歳になっても支えなしでは座れなかった患者さんが、salanersen投与開始から3か月で自力で座れるようになった事例についても報告されました。
安全性については、40mgおよび80mgの両用量で全体的に良好な安全性プロファイルを示しました。有害事象の多くは軽度から中等度であり、主な有害事象は発熱および上気道感染症でした。
スピンラザの高用量治療は現在、米国、欧州、日本を含む世界各国で承認申請が行われています。salanersenについても、より大規模な臨床試験の準備が進められており、未治療の患者さんに対する効果検証も予定されています。(遺伝性疾患プラス編集部)