HAE、のどの腫れは命に関わる可能性も
遺伝性血管性浮腫(HAE)は、体のさまざまな部位に突然の腫れ(浮腫)が繰り返し起こる遺伝性疾患です。腫れによる発作は予測できないため、患者さんの日常生活に大きな影響を与えます。特に、喉頭(のど)の腫れは窒息につながり、命に関わる可能性があります。そのため、「発作の予防」と「発作が起きた際の治療」が重要になります。
近年、HAE治療薬の研究開発は着々と進歩を遂げています。今回は、3つの治療薬について、海外の最新情報をご紹介します。
ナベニバート、数か月に一度だけの投与を目指す発作予防注射薬
米国のAstria Therapeutics社が開発中の「ナベニバート(Navenibart)」は、HAEの発作予防を目指す生物学的製剤(抗プラズマカリクレインモノクローナル抗体薬)です。同社は、健康な被験者を対象とした第1a相臨床試験の結果を発表しました。
今回の試験では、ナベニバートの平均半減期が82~105日と非常に長いこと(薬が体の中で長く効果を発揮し続けること)が確認されました。そのため、現在の治療薬と比べて、たった3か月ごと、6か月ごとの投与だけで発作予防が可能になる可能性が示唆されています。また、ナベニバートは良好な忍容性を示しました。現在、ナベニバートは、第3相臨床試験が進行中です。
ベロトラルスタット、あらゆる年代に対応する1日1回の経口予防薬
米国のBioCryst Pharmaceuticals社は、「ベロトラルスタット塩酸塩」(製品名:オラデオカプセル150mg)の「リアルワールドデータ」(実際の患者さんの治療現場で得られたデータ)を発表しました。同剤はHAE発作予防のための経口治療薬であり、1日1回の服用で効果を発揮します(プラズマカリクレイン阻害薬)。日本でも承認されている薬剤になります。
今回発表されたデータでは、ベロトラルスタットが全ての年齢層のHAE患者さんにおいて、発作を一貫して減少させることを示しました。特に、2~11歳の小児患者さんを対象とした試験の中間結果では、HAE症状のある日の割合が治療前の平均11%から4.0%に減少し、この改善は最長48週間にわたって維持されました。また、12~17歳の思春期の患者さんのデータでは、治療開始前の月平均発作率1.8回から、治療6か月後には0.55回に減少しました。なお、日本では、成人および12歳以上の小児の患者さんが対象の薬剤となっています。
デュークリクチバント、予防・発作両方に対応する1日1回の経口薬
オランダのPharvaris社が開発中の「デュークリクチバント」(Deucrictibant)は、予防と発作時治療の両方で使える薬剤として開発が進められています(低分子ブラジキニンB2受容体拮抗薬)。この薬剤には、目的別に工夫された2種類の飲み薬があります。
(1)発作の予防を目的とした飲み薬
このタイプは、薬効が長時間持続するよう設計されており、1日1回服用することで、発作予防ができるよう開発が進められています。これまでの臨床試験では、1年半以上にわたり発作の発生率を低い水準に保つことが確認されています。
(2)発作が起きた時に使う飲み薬
このタイプは、発作が起きた時に迅速に効果を発揮することが期待されています。臨床試験では、平均1.1時間という速さで症状が緩和することが確認されました。特に重要とされる上気道・喉頭の発作に対しても、同様の安全性と有効性が確認されています。
現在、(1)(2)どちらも第3相臨床試験が進行中です。
今回は、日本でも承認されている薬剤含め3つの開発中の薬剤の最新情報をご紹介しました。今後、これらの新しい治療法が実用化されることで、HAE患者さんのQOL向上が期待されます。(遺伝性疾患プラス編集部)