複数の遺伝子の影響で虹彩のメラニン量が決定、目の色が決まる
ヒトの目の色は、目の「虹彩」部分の色素沈着が関わっています。虹彩とは、目の中心の黒い部分(瞳孔)を取り囲む部分のことで、目に入る光の量を調節する働きがあります。虹彩の色は、薄い青色から濃い茶色まで個々人でさまざまな色合いですが、通常、目の色は青色、緑/榛色(はしばみいろ、ヘーゼル)、茶色の3つに分類されます。ちなみに、世界で最も多い目の色は茶色です。
目の色は、遺伝子の種類によって決まります。そして、この目の色に関連する遺伝子のほとんどは、「メラニン」という色素の生成、輸送、貯蔵に関わっています。そのため、目の色は、虹彩の表層にあるメラニンの量によって異なります。例えば、茶色の目の人は虹彩にメラニンが多く、青色の目の人はメラニンが非常に少ないのです。
目の色には、15番染色体上のある領域が大きく関わっています。この領域内には、非常に近い位置にOCA2遺伝子とHERC2遺伝子という2つの遺伝子が存在します。OCA2遺伝子から生成されるPタンパク質は、メラニンを生成し貯蔵するメラノソームという細胞の成熟に関わっており、虹彩に存在するメラニンの量と質に重要な役割を担っています。OCA2遺伝子に時々見られるいくつかの変異では、機能的なPタンパク質の生産量が減少します。Pタンパク質が少ないということは、虹彩に存在するメラニンが少ないことを意味し、そのようなOCA2遺伝子変異を持つ人の目は、茶色ではなく青色に近い色になります。
また、HERC2遺伝子のイントロン86という領域には、OCA2遺伝子の発現を制御し、必要に応じてオン・オフにするDNAセグメントが含まれています。HERC2遺伝子のこの領域に起こる変異の中には、OCA2遺伝子の発現を低下させるものがあり、それによりPタンパク質の生成が減少し、虹彩のメラニン量が減少することで目の色が薄くなることが示されています。
目の色に関わる遺伝子には他にもいくつかあり、その中には皮膚や髪の色にも関与するものもあります。これまでに、ASIP、IRF4、SLC24A4、SLC24A5、SLC45A2、TPCN2、TYR、TYRP1などが目の色に関与する遺伝子として報告されています。これらの遺伝子とOCA2、HERC2の遺伝子が組み合わさって、一人ひとり異なる目の色を作り出していると考えられています。
かつて、目の色は1つの遺伝子で決まり、茶色い目の遺伝子が青い目の遺伝子より優性であるという単純な遺伝パターンを持っていると考えられてきました。そのため、両親がともに青い目の場合、茶色の目を持つ子どもは生まれないと考えられていたのです。しかし、その後の研究により、この考え方は正しくないことが判明しました。まれですが、青い目を持つ両親から茶色の目を持つ子どもが生まれることもあります。目の色の遺伝は、複数の遺伝子が関与しているため、当初考えられていたよりも複雑であることがわかっています。多くの場合、両親や親戚の目の色から子どもの目の色を予測できますが、複数の遺伝子の変異が予期しない結果を生む場合もあるのです。
眼皮膚白皮症など、目の色に関わる疾患も
目の色に関わる疾患は、いくつか報告されています。例えば、眼白皮症(ocular albinism:OA)は、虹彩の色素が著しく減少することにより、目の色は非常に薄く、視力にも問題が生じます。また、目だけでなく、皮膚や毛髪の色素にも影響を与える眼皮膚白皮症(oculocutaneous albinism:OCA)では、目の色が非常に薄いだけでなく、肌が白く、髪が白色になることが特徴です。OAとOCAは、どちらもメラニンの生成と貯蔵に関与する遺伝子の変異によって生じます。
その他にも、目の色が左右異なることが特徴である虹彩異色症は、遺伝子の変化によってだけでなく、目の病気や傷害によって後天的に起こる場合があります。(遺伝性疾患プラス編集部)