未診断・希少疾患の当事者へ「届けたい」、ゆるふプロジェクト

遺伝性疾患プラス編集部

症状が現れているものの、なかなか診断がつかない未診断疾患。何年もの間、さまざまな病院を受診するケースも少なくなく、精神的に追いつめられる当事者やご家族もいらっしゃいます。このような状況を改善するべく、国は「未診断疾患イニシアチブ(IRUD、アイラッド)」というプロジェクトを開始。その成果は確実に現れ始めています(詳細は、コチラの専門家インタビュー記事から)。

一方、未診断疾患では、診断がついていないことなどから当事者同士でつながることが難しく、「どこを頼っていいかわからない」「孤立してしまう」といったお声もあります。そこで今回は、そんな未診断疾患を含め、心因性疾患、希少疾患など、理解が得られにくい病気の当事者の居場所をつくる活動を行っている「ゆるふプロジェクト」をご紹介します。お話を伺った、代表の山崎亮子さんもまた未診断疾患の当事者です。山崎さんご自身のご経験や、ゆるふプロジェクトの取り組みについて伺いました。

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ゆるふプロジェクト代表 山崎亮子さん
団体名 ゆるふプロジェクト
対象疾患 未診断疾患、心因性疾患、希少疾患など、理解が得られにくい病気
対象地域 全国
会員数 無し
設立年 2022年
連絡先 公式ウェブサイトの「お問い合わせフォーム」から
サイトURL https://asobinohara.wixsite.com/my-site
SNS Twitter
主な活動内容 未診断疾患、希少疾患の当事者と支援者の団体。病名がわからない、患者数が少ない病気の当事者がつながり、悩みを共有する場などを提供している。

専門機関や専門医を求め全国各地へ、IRUDへの参加も

最初、どのような症状をきっかけに病院を受診されましたか?

最初の受診は、39歳の頃です。転びやすい、歩くことがつらい、足腰に強い痛みが生じるといった症状が現れ、整形外科を受診しました。最初に受診した整形外科では、内反足(内反尖足)を理由に「歩きにくいのは生まれつきです」と説明を受けました。子どもの頃から、筋力の弱さや内反尖足の症状が現れていたものの、「個性」の一つだと考えられ、育てられてきました。今振り返ると、個性で済ませるような症状ではなかったのではないかと感じます。

その後、さまざまな医療施設で詳しい検査を受けました。現在は、「脳神経や筋肉に影響を及ぼす疾患であるのは確か」と説明を受けていますが、確定診断となると判断が難しい状況だと伺っています。

なかなか病名が確定しない状況の中で、どのように行動されましたか?

全国各地に足を運び、より高度な専門機関や専門医を訪ねました。自分から先生にお願いし、未診断疾患イニシアチブ(IRUD)へ参加したこともあります。結果は「他に症例の無い疾患の可能性がある」とのことで、現在現れている症状との関連性はよくわかっていません。

現在は、月1回の定期受診のほか、訪問看護を利用して生活しています。対症療法とリハビリを中心に受けています。

現在現れている症状について、教えてください。

下肢や体幹機能の筋緊張・筋力低下の症状が現れています。音や光、接触などで筋緊張が高まることもあります。また、ペットボトルを自力で開けることができないなど、手の力が弱くなってきました。声を出すことが難しい時もありますし、目に症状が現れる、頭痛が生じるなど、さまざまな症状が現れています。

これらの症状を理由に、現在は電動車いすを使って生活しています。また、多くの時間、非侵襲的陽圧換気(NPPV)を用いて過ごしています。

当事者が抱える不安や孤独を支えあえる場をつくりたい

活動を始めたきっかけについて、教えてください。

SNSで、未診断の経験を発信するようになったことがきっかけです。発信を通じて、同じように悩んでいる方々から、相談が寄せられるようになりました。医療施設との関わり方、ご家族との関係など、さまざまなお悩みが寄せられます。そこで、当事者が抱える不安や孤独を支えあえる場をつくりたいと考えるようになりました。

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ゆるふプロジェクト公式ウェブサイトより

そのように考えるようになったのは、私自身、こうした場が必要だと感じた経験があるからです。症状の進行により歩行困難となり、車いすを使うようになった頃のことです。身体の病気なのか、心の病気なのか、治療法はあるのか…など、知りたくてもわからないことだらけでした。インターネットで情報を探し、必死に答えを求めましたが、ほぼ何も情報を得られなかったのです。また、確定診断がついていないことを理由に事業所との調整が難航し、福祉制度を利用するまで困難な経験をしました。当時の不安と孤独は、とても言葉では言い尽くせません。ですから、そのような気持ちを安心して共有できる「居場所」が必要だと感じたのです。

現在の活動内容について、教えてください。

「シェアリングカフェ」というオンラインの交流会を開催しています。参加費は無料です。開催時期は不定期ですが、次回は6月頃の開催を予定しています。今後は、当事者のご家族や支援者の方々との交流も深めていきたいと考えています。参加した方々からは、「これまで、似た境遇の人と会ったことがなかったからうれしかった」「当事者の方々とお話しできて良かった」といった声が寄せられています。

現在、ゆるふプロジェクトの運営メンバーは全員車いすユーザーです。体調が不安定なメンバーもいます。そのため、全国どこからでもオンラインで気軽に参加できる「安心できる居場所」をつくるために模索しています。

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全国どこからでもオンラインで気軽に参加できる(写真はイメージ)

納得のいく人生を歩むため、当事者自身で選択していけるように

ゆるふプロジェクトの名前には、どういった思いが込められていますか?

「ゆるふ」は、「yourself(意味:あなた自身)」から取りました。未診断疾患や希少疾患と向き合う当事者は大変な経験をされる方が多いです。しかし、その中でも納得のいく人生を歩むために、当事者自身で選択していくことが大切だと思います。

一方で、私たちの抱える問題を「当事者や支援者だけで解決するのは難しい」とも感じています。ですから、当事者やご家族が抱える問題を社会に広く知って欲しいと願っています。また、私たち自身も生き方を広げるために、常に新しい情報を得ていくことも大切だと感じます。

今後、新たな活動に取り組むご予定はありますか?

今年度は、特に、積極的な情報発信を行っていく予定です。私たちの想いや活動内容などをお伝えしていくほか、運営メンバーの顔や声が伝わる発信することを考えています。「安心できる居場所づくり」を目指すため、どんな人たちが運営を担っているかも知っていただきたいと考え、準備を進めています。

未診断疾患当事者の実情、少しでも多くの方々に知ってもらうために

未診断の当事者・ご家族を取り巻く環境で、特にどういった課題があると感じますか?

当事者自身、自分の状況を的確に説明できないことです。それは、何らかの症状によって、長期にわたって仕事や通学に支障をきたす場合であっても、です。医師の診断書がなければ、社会保障制度や社会福祉制度を利用できません。病名がわからないと治療法もわからないので、当事者本人は何を頑張れば良いのかもわからないのです。もちろん、当事者を支えるご家族など周りの方々も、どのように当事者を支えていけば良いのかわかりません。

しかし、現状、当事者が適切に支援を求められるような場所は決して多くはありません。お話を伺っていると、当事者やご家族だけで不安を抱え込み、孤立していくケースが多いように感じます。ですから、当事者が安心して話せる居場所が必要だと感じ、ゆるふプロジェクトの活動を行っています。

最後に、遺伝性疾患プラスの読者にメッセージをお願いいたします。

なかなか診断がつかない、また、仮に診断がついて病名がわかった場合であっても、情報が限られた希少疾患という場合もあると思います。その場合、当事者だけでなく、支えていくご家族も、さまざまな困難や不安を抱えておられるでしょう。

私自身、未診断を通じてさまざまな経験をしてきました。大変なことも多くありましたが、お世話になった医療機関、先生方には心から感謝しています。診断が困難な中、出来る限りのことをしてくださる先生方がいるおかげで、今、私は安心して暮らせています。未診断の当事者が適切な治療を受けらず苦しんでいるとき、当事者に寄り添うお気持ちがある先生方ほど、つらい立場に立たされると感じています。ですから、私たちの活動を通じて、未診断疾患の当事者の実情を少しでも多くの方々に知っていただき、「当事者」と「医療従事者」双方にとってプラスとなる活動をしていきたいと考えています。

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「当事者」と「医療従事者」双方にとってプラスとなる活動をしていきたい(写真はイメージ)

ゆるふプロジェクトでは、定期的に開催しているシェアリングカフェのほか、公式ウェブサイトのお問い合わせフォームからもご相談を受け付けております。どうぞお気軽にお声がけください。皆さまからのご連絡をお待ちしております。


遺伝性疾患プラスには、未診断疾患の当事者の方々からさまざまなお声が寄せられています。特によく伺うのは「診断がついていないことで、患者会にも参加できない」というお声です。「診断がついていないことでどこにも居場所がないと感じられる」「未診断により適切な治療を受けられず、さらに、その苦しみをわかちあえる居場所もない」…そのような状況に、精神的に追い詰められるという声は多く伺います。

もし、同じような状況で苦しまれている方がいらっしゃいましたら、ぜひ、ゆるふプロジェクトの活動を知っていただければと思います。「安心できる居場所」をつくるため、山崎さんはじめ運営メンバーの方々が、さまざまな当事者と向き合っていらっしゃいます。オンラインで気軽に参加できますので、ぜひSNSやウェブサイトをチェックしてみてくださいね。

最後に、実は、趣味で取り組んでいらっしゃるガーデニング関連で出版のお話が進んでいるという山崎さん(詳細は、ぜひ山崎さんのTwitterInstagramから)。そちらもお忙しい中で、今回取材にご協力いただきました。編集部一同、書籍の発売も楽しみにしております。(遺伝性疾患プラス編集部)

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