どのような病気?
ロスムンド・トムソン症候群は、皮膚を中心として体のさまざまな部位に症状が現れる遺伝性疾患です。この病気の特徴として、小柄な体形、日光を浴びるとやけどのように赤くなる(日光過敏性紅斑)、紅斑や皮疹・皮膚の萎縮・色素沈着・毛細血管拡張などのさまざまな皮膚異常が慢性的に広がる(多形皮膚萎縮症)、骨格異常などが挙げられます。骨のがんである骨肉腫や皮膚のがんを合併することもあります。
この病気は、ロスムンド・トムソン症候群Iとロスムンド・トムソン症候群IIの2つのタイプに分けて考えられることがあります。ロスムンド・トムソン症候群Iは多形皮膚萎縮症、受精後すぐの「胚」と呼ばれる状態のとき、その組織の一部である外肺葉(将来皮膚・歯・毛髪などになる部分)に異常がみられる(外胚葉形成異常)、若年性の白内障、を特徴とします。ロスムンド・トムソン症候群IIは多形皮膚萎縮症のほか、生まれつきの骨の欠損、幼児期の骨肉腫の合併、加齢に伴う皮膚がんの合併を特徴とします。
ロスムンド・トムソン症候群の特徴的な症状は、生後3~6か月頃から見られ始め、まず発疹(皮疹)が生じます。最初は紫外線の当たりやすい顔面、特に頬の部分に紅斑、浮腫、水泡のような皮疹が生じます。これらは1~2歳で腕や脚に広がり、やがてお尻まで広がることもありますが、通常、皮疹は胴体部分(体幹)には見られません。その後、時間の経過とともに毛細血管の拡張、過剰な色素沈着、皮膚の萎縮など多形皮膚萎縮症の症状が見られるようになります。その他の特徴や症状として、毛髪は薄く、眉毛がほとんど見られない場合もあります。骨格の異常が70%以上の人で見られ、前頭部の突出、低い鼻(鞍鼻)、手足の細長い形状の骨(長管骨)の異常、前腕の2本の骨のうち親指側の骨(橈骨)の欠損、親指(母指)の欠損や低形成などが見られる場合もあります。
また、ロスムンド・トムソン症候群は、ラパデリノ(RAPADILINO)症候群、バレー・ジェロルド(Baller-Gerold)症候群の2つの疾患と症状や特徴が重複しており、これらはロスムンド・トムソン症候群の類縁疾患と考えられています。ラパデリノ症候群は、橈骨の欠損や低形成、膝蓋骨の欠損や低形成、口蓋の低形成、口蓋裂、慢性的な下痢、関節の脱臼、小柄、四肢奇形、細長い鼻、正常な知能、骨肉腫などのがんの合併などロスムンド・トムソン症候群と似た症状が見られますが、皮膚の症状(多形皮膚萎縮症)は認められません。バレー・ジェロルド症候群は、前頭の突出、橈骨欠損、拇指の欠損、多形皮膚萎縮症、骨肉腫や皮膚がんの合併のほか、冠状縫合(頭蓋骨を構成している別々の骨同士をつないでいる帯状の組織)の早期癒合による短頭、眼球の突出、耳介低位、悪性リンパ腫の合併を特徴とします。
ロスムンド・トムソン症候群で見られる症状 |
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高頻度にみられる症状 多形皮膚委縮、頬部紅斑、発疹 |
良くみられる症状 水疱、歯列異常、骨格異常、不妊、角化亢進症、骨密度低下、毛様体色素沈着、低身長、胎児発育不良、薄い眉毛、薄い睫毛、薄い毛髪、爪の形態異常 |
しばしばみられる症状 歯のエナメル質の異常、柱状骨異常、造血機能異常、膝蓋骨形成不全、橈骨形成不全、皮膚形成不全、尺骨異常、虫歯、萌出(歯が生えること)遅延、下痢、皮膚の低色素沈着、歯形成不全、尺骨形成不全、易骨折性、若年性白内障、小歯症、爪の形成不全、皮膚の良性腫瘍、骨量低下、歯牙欠如、短い親指、小さい爪、埋伏過剰歯、皮膚の毛細血管拡張、嘔吐 |
まれにみられる症状 脱毛症、貧血、再生不良性貧血、基底細胞がん、石灰沈着、白血病、悪性黒色腫、骨髄異形成、幼児期の摂食不良、好中球減少症、汗孔角化症、扁平上皮がん |
ロスムンド・トムソン症候群の患者数は世界でおよそ300人、日本では約10人とされています。ロスムンド・トムソン症候群は指定難病対象疾病(指定難病186)となっています。
何の遺伝子が原因となるの?
ロスムンド・トムソン症候群の主要な原因として、「RecQL4タンパク質」の異常が考えられています。ロスムンド・トムソン症候群の患者さんの約3人に2人で、RECQL4タンパク質の設計図となるRECQL4遺伝子の変異がみられます。RECQL4タンパク質は、DNAの二重らせん構造の解除や修復に関与し、遺伝情報の安定化とDNAの複製と修復において重要な働きをもつ酵素「ヘリカーゼ」の一種です。ロスムンド・トムソン症候群ではRECQL4遺伝子の変異によってRECQL4タンパク質が正しく作られなくなり、DNAの複製や修復が障害されると考えられています。しかしRECQL4タンパク質の異常がどのようにロスムンド・トムソン症候群の病態に関わっているのかは、まだ十分にわかっていません。
また、ロスムンド・トムソン症候群の患者さんの約3人に1人ではRECQL4遺伝子の変異はみられません。ロスムンド・トムソン症候群の患者さんの一部では7番染色体または8番染色体における遺伝物質の過剰や欠落などの染色体異常がみられ、これが病態に関与する可能性もあると考えられています。
ロスムンド・トムソン症候群は常染色体劣性(潜性)遺伝形式で遺伝します。この場合、両親がともにRECQL4遺伝子の片方に変異を持つ(保因者)場合、子どもは4分の1の確率でロスムンド・トムソン症候群を発症します。また、2分の1の確率で保因者となり、4分の1の確率でこの遺伝子の変異を持たずに生まれます。
どのように診断されるの?
難病情報センターに記載の情報によると、下記の症状のうち、多形皮膚萎縮症に加えて、他の症状が2つ以上あればロスムンド・トムソン症候群が疑われます。
症状
多形皮膚萎縮症、低身長、骨格異常(橈骨欠損等)、日光過敏症、毛髪異常、若年性白内障、乳児期の難治性下痢、爪異常、その他(毛細血管拡張症、色素沈着、成長遅延、性腺機能低下、角化異常)
ロスムンド・トムソン症候群の家族歴がある場合、遺伝学的検査でRECQL4遺伝子に変異が確認されるとロスムンド・トムソン症候群と確定診断されます。RECQL4遺伝子に異常が確認されなかった場合には、ロスムンド・トムソン症候群の暫定診断となります。また、ロスムンド・トムソン症候群が疑われて家族歴のない人は、FISH検査(染色体を調べる検査)で8番染色体に異常が見つかった、または、皮膚生検でRecQL4タンパク質の欠損が見つかった場合に、RECQL4遺伝子検査が実施されます。ロスムンド・トムソン症候群と鑑別すべき疾患としては、ブルーム症候群、コケイン症候群、ウェルナー症候群、ファンコーニ症候群、毛細血管拡張性運動失調症、色素性乾皮症、先天性角化症、アクロゲリアがあります。
どのような治療が行われるの?
皮膚科、眼科、整形外科、小児科などの多科連携による治療が行われます。皮膚病変に関しては日光に当たらないようにすることが重要です。毛細血管の拡張は、皮膚病変に対するレーザー治療によって改善します。白内障に対しては、必要な場合には外科的治療も選択されます。う歯(むし歯)が起きやすいため、口腔内のチェックが定期的に行われます。骨格の異常に対しては、対症療法が主体となります。また、定期的な検診によりがんの発生をチェックし、がんが見つかった場合には外科的切除や抗がん剤による治療が行われます。骨肉腫やがんの発症は、発見の早さが命に関わるので早期発見に向けて定期的な検査が重要となります。
どこで検査や治療が受けられるの?
日本でロスムンド・トムソン症候群の診療を行っていることを公開している、主な施設は以下です。
※このほか、診療している医療機関がございましたら、お問合せフォームからご連絡頂けますと幸いです。
患者会について
ロスムンド・トムソン症候群の患者会で、ホームページを公開しているところは、以下です。
参考サイト
- 難病情報センター
- MedlinePlus
- Genetic and Rare Diseases Information Center
- 金子 英雄、早老症研究の最前線4.ロスムンド・トムソン症候群、日本老年医学会雑誌第58巻第3号