DMD初の遺伝子治療薬、「マイクロジストロフィン」を発現させる薬
スイスのエフ・ホフマン・ラ・ロシュ社は2023年10月30日、Elevidys(TM)(一般名:delandistrogene moxeparvovec、開発コード:SRP-9001)について、歩行可能なデュシェンヌ型筋ジストロフィー(以下、DMD)の男児を対象としたグローバル第3相EMBARK試験のトップライン結果を発表しました。主要評価項目は達成しませんでしたが、重要な副次的評価項目はいずれも良好な結果を示しました。
DMDは、ジストロフィン遺伝子の変異により、筋肉に関わるタンパク質のジストロフィンが正常につくられないことで生じる遺伝性疾患です。筋肉が変性することで、歩行能力、上肢機能、肺機能、心機能などに影響が現れます。世界では、男児の約3,500~5,000人に1人が生まれつきDMDとされ、小児の早期から急速に症状が進行するとされています。
Elevidysは、DMDに対する初めての遺伝子治療薬であり、2023年6月に米国で迅速承認されました(日本では未承認)。AAV(アデノ随伴ウイルス)ベースの遺伝子治療薬で、治療は1回の点滴投与で行われます。筋肉内に「マイクロジストロフィン(短縮型のジストロフィン)」を発現させることで、ジストロフィンの機能を補う治療です。なお、DMD遺伝子のエクソン8および/または9に欠失変異がある患者さんには禁忌です。
副次的評価項目(立ち上がるまでの時間・10mの歩行時間)、統計学的に有意な改善
今回発表されたトップライン結果によると、主要評価項目である、52週時点での運動機能を評価するノース・スター歩行能力評価(North Star Ambulatory Assessment:NSAA)は達成しませんでした。一方、NSAAの総スコアについて、Elevidys群は2.6ポイントの向上、プラセボ群は1.9ポイント向上し、数値上の向上は認められました(0.65、125例、p=0.24)。
続いて、時間機能に関する重要な副次的評価項目(床から立ち上がるまでの時間・10メートルの歩行時間)は、Elevidys群で、いずれも臨床的に意義があり統計学的に有意な改善が認められました。事前に規定された副次的評価項目Stride Velocity 95th Centile(SV95C)では、臨床的に意義があり統計学的に有意な改善が認められました。SV95Cは、日中の最高歩行速度を測定するウェアラブルデバイス(Syde(R))を用いた評価項目です。4段上るまでの時間の副次的評価項目でも、Elevidys群で良好な結果が認められました。
なお、新たな安全性シグナルは認められず、良好な忍容性が確認されました。
同試験の詳細は、解析中です。詳細な結果は今後、医学系学会で発表され、医学論文に掲載される予定だとしています。また、同社は、今後の開発計画を検討するために規制当局と協議予定だと述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)