SCDやSBMAなどの「リピート伸長病」、有望な治療薬となりうる化合物を発見

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. 特定のDNA塩基配列の繰り返しが異常に伸長するリピート伸長病、有効な治療法はない
  2. PIポリアミドと呼ばれる化合物の一つ「CWG-cPIP」について、ハンチントン病・筋強直性ジストロフィー1型への効果を検討
  3. CWG-cPIP、病因となるRNAを阻害し疾患マウスの神経機能低下を抑制

DNAの繰り返し配列が異常に伸長し、神経や筋肉に症状が現れる疾患

熊本大学の研究グループは、ハンチントン病や脊髄小脳変性症、筋強直性ジストロフィー1型などのリピート伸長病において、「ピロール・イミダゾール(PI)ポリアミド」と呼ばれる種類の化合物が、新しい薬の基礎となりうることを発見したと発表しました。

リピート伸長病は、特定のDNA塩基配列の繰り返し(リピート配列)が、何らかの理由で異常に伸長(通常の繰り返し数よりも増加)することで引き起こされる疾患の総称です。リピート伸長病の多くは、神経や筋肉に症状が現れる難病で、CAGのリピート配列が伸長するハンチントン病・脊髄小脳変性症(SCD)・球脊髄性筋萎縮症(SBMA)のほか、CTGのリピート配列が伸長する筋強直性ジストロフィー1型などが代表的な疾患として知られています。

これまでにリピート伸長病に対する治療法として、化合物による薬理学的治療や幹細胞を用いた治療・遺伝子治療などの開発などが進められてきましたが、有効な治療法はまだありません。ハンチントン病では病気の原因となるRNAを除去するアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)治療の臨床試験が行われましたが、治療効果が認められませんでした。その原因として、正常なRNAまで除去してしまう「オフターゲット効果」や、治療が必要な領域に到達しにくい「低い細胞膜透過性」などが考えられています。

これらの課題を解決した新しい治療薬の開発につなげるため、研究グループは、PIポリアミドと呼ばれる化合物を検討しました。PIポリアミドは、アミド結合したN-メチルピロールとN-メチルイミダゾールから構成される化合物の総称で、標的遺伝子だけに結合するように合成することができます。

研究グループは、CAGまたはCTGのリピート配列に結合するPIポリアミドの一つ「CWG-cPIP」を用いて、ハンチントン病患者さん・筋強直性ジストロフィー1型患者さん由来の細胞や、それぞれの疾患モデルマウスの神経における症状を改善できるか解析を行いました。

異常なRNAの産生を阻害、マウスの神経機能低下抑制

その結果、CWG-cPIPはそれぞれの疾患患者さん由来細胞で見られる病気の原因となる異常なRNAの産生を阻害し、疾患モデルマウスの神経機能の低下を抑制することがわかりました。

また、CWG-cPIPは、高い細胞膜透過性があり薬を目的の場所に届けるための技術を必要としないこと、安全性が高く細胞に対する毒性や正常なRNAに対するオフターゲット効果が少ないこと、疾患特異性がありリピートが長いほど効果を発揮すること、が明らかになりました。

研究グループは、「リピート伸長病は疾患ごとに繰り返す塩基の種類が異なりますが、PIポリアミドは、標的とするDNA配列に合わせて設計・合成することで、標的遺伝子に特異的に結合させることができ、疾患ごとにテーラーメイド医療を実現できる創薬基盤となる」と、述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)

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