「血友病と向き合う生活」20~50代の当事者4人と考える

遺伝性疾患プラス編集部

鈴木さん(男性/52歳/血友病A重症)

鈴木さん(男性/52歳/血友病A重症)

生後10か月の頃に確定診断を受ける。現在、左右両足関節、左膝関節、右肘関節で関節症を持ち、いずれも可動域の制限がある。会社員を経て、現在はフリーランスとして活躍中。

ナカイさん(仮名)(男性/35歳/血友病A中等症)

ナカイさん(仮名)(男性/35歳/血友病A中等症)

生後10か月の頃になかなか出血が止まらないことがあり、受診。3~4歳の頃に確定診断を受ける。現在、医療に関わる業界で働く(写真はイメージ)。

阪口さん(男性/24歳/血友病A重症)

阪口さん(男性/24歳/血友病A重症)

生後6か月の頃に、脳出血がわかったことをきっかけに確定診断を受ける。現在、右足首は末期の血友病関節炎と診断を受けている。看護師として働く。

大河内さん(男性/21歳/血友病A重症)

大河内さん(男性/21歳/血友病A重症)

生後6か月の頃に確定診断を受ける。あざが目立っていたことなどから、疑いを持たれた。現在、大学生として薬学を学ぶ。

血が非常に止まりにくくなる遺伝性疾患「血友病」。血を止めるために必要な血液凝固因子の活性が全くない、もしくは、十分な活性が得られないために症状が現れます。不足する血液凝固因子が第VIII(8)因子の場合は「血友病A」、第IX(9)因子の場合は「血友病B」と呼ばれます。

近年、血友病治療は目覚ましい進歩を遂げており、遺伝子治療の研究開発も進んでいます(専門医の先生インタビューはコチラ)。そのため、以前と比べると血友病での命に関わるイベントは大幅に減ってきました。一方で、当事者のライフステージごとにさまざまな生活の困りごとが生じています(専門医の先生インタビューはコチラ)。

そこで今回、20代の学生さんから50代の社会人まで、さまざまな立場の血友病Aの当事者4人の皆さんにお話を伺いました。具体的には、「幼少期の経験」「現在、日常生活で工夫していること」「病気に関わるコミュニケーションで気をつけていること」「キーパーソンとの付き合い方」についてお聞きしました。同じ血友病と向き合う当事者やご家族はもちろん、病気とともに生きる全ての皆さんに「こんな考え方があるんだ!」と知っていただくきっかけが盛りだくさんの内容です。ぜひ、皆さんが気になるテーマからお読みください。

血友病と日常生活

血友病に関連して日常生活で印象に残っている経験を教えてください。

鈴木さん: 自己注射による治療が可能になる1983年より前、自分がまだ小学生だった頃のことが印象に残っています。当時は、週4日は注射のため通院しており、ほぼ毎日のように遅刻や早退を繰り返していました。そして、自己注射が可能になった小学4年生以降は、学校の保健室で自己注射をしていました。その様子をクラスの友だちが見学しに来ることもあり、「自分で注射を打っている、“足の悪い”こうちゃん(鈴木さんのニックネーム)」というポジションを確立。さほどネガティブなイメージを持たれなかったのは、その後の自身のポジティブな考え方に大きく影響したと感じます。

クラスメイトたちがこの状況をすんなりと受け入れてくれたのは、親が学校側に働きかけて、病気を受け入れる体制を整えてもらっていたことも大きかったように感じます。当時の血友病はまだ「出血した時は、必ず病院へ行かなければならない病気」と認識されており、うまく歩けなかったり車いすを利用していたりする患者さんも多くいらっしゃいました。それが当たり前だった時代でしたし、平均寿命も今より短い時代でした。そのため、当時はまだ「特別支援学級のほうが良いのではないですか?」といった話が学校側から出ることもあったと聞きます。一方、僕の母は教員だったこともあり、学校側の事情も理解していたからこそ、コミュニケーションが上手くいっていたのかもしれません。両親と主治医の先生が、上手に学校側とコミュニケーションを取ってくれたことが大きかったのだろうと思います。

ナカイさん: 中学生の時に「運動部に入りたい」と親に相談し、反対されたことが印象に残っています。恐らく「運動部は練習が厳しくなるだろうから」と考え、自分の体を心配して言ってくれたのでしょう。結果として中学時代は運動部に入らず、文化部にも興味を持てなかったので帰宅部でした。中学生のときに運動部に入らなかったことで「運動する基礎ができていない」と考えるようになり、高校でも運動部に入ることを躊躇し、帰宅部でした。結果的に、僕の学生生活の中心は勉強だったように思います。大人になった今でも、「もし、あの時、運動部に入りたいと親にもっと伝えていたら…」と考えることがあります。

ですから、血友病のお子さんの「やってみたい」に対して、親御さんは、まず受け止めてあげて欲しいと考えます。仮に体への負担が想像され賛成できない場合でも、すぐに否定するのではなくて、お子さんの話を聞いてあげて欲しいですね。あの時きちんと話し合いできていたら主治医と相談の上、うまく治療しながら運動部に入る選択肢もあったかもしれません。

阪口さん: 僕の場合は、小学生の頃に「サッカーをやりたい!」と親や主治医の先生に伝えたのですが、その時は結局サッカーをやらないことになりました。しかし、中学生の時、今度は「どうしても野球をやりたい!」と思い、親に再度相談しました。そして話し合いの結果、応援してもらえることになり、主治医の先生のおかげで薬剤量を調整してもらえるようにもなりました。僕は定期補充療法(凝固因子製剤の定期投与)が始まった世代なので、ちょうど運動がしやすい環境も整いつつあった頃だったのかなと思います。

Hemophilia 01
皆さんからは、幼少期のエピソードが(写真はイメージ)

大河内さん: 今でも覚えているのは、小学1年生の時、在校中に低血糖で倒れて搬送されたことです。ただ、通常であれば救急車を呼ぶほどの緊急性はなかったようで、親も「救急車を呼ぶ必要はないのではないか?」と伝えたそうです。それでも学校側が救急車を呼んだと聞き、「自分が血友病を持っているから、大事をとっての対応だったのかな」と感じました。

その他にも、学校側の配慮を感じた対応は「組体操」での位置です。僕以外の子どもたちは、例えば、大柄な子は下で小柄な子は上というように、体の大きさを考慮して位置が決められていたようです。ですが、当時の僕は小柄だったにも関わらず一番下の位置でした。きっと、上だと落下する可能性を考えての配慮だったのかなと感じました。

血友病治療への期待

開発中のものも含め、新しい治療に対してはどのような期待をお持ちですか?

鈴木さん: まず、今と昔で変わった一番大きなこととして、僕は「製剤と治療法の進化」だと感じています。「オンデマンドではなく予防的な治療になったこと」「アイスボックスに入れないと薬を持ち運べなかったのが、今では常温保存も可能になったこと」については、劇的な変化だと感じています。

僕の叔父も血友病だったのですが、当初は全血血液による治療(採取された血液をそのまま輸血する治療)でした。どういうことかというと、血友病の人で出血が確認されると、親族が集まって血液を集め、それでも足りない血液は知り合いに献血をお願いして輸血して、何とか出血を止める…そのような時代でした。そして、僕はギリギリ非加熱製剤も使っていた世代だったのですが、当時のことは今でも鮮明に覚えています。というのも、自分の場合は非加熱製剤を打つと気持ち悪くなってしまって、病院のソファーで1時間ほど横にならないと起き上がれないくらいだったからです。そこから加熱製剤が登場し、自己注射もできるようになりました。

このように、製剤の進化を目の当たりにし、僕自身も治験への参加経験がある中で感じるのは、「一発でゼロブリーディング(出血ゼロ)を目指す薬より、凝固をコントロールしやすい薬が望ましいのではないか」ということです。これは、あくまでも個人的な意見です。もちろん、遺伝子治療はある意味究極の治療だと感じています。ただ、その他にもさまざまなアプローチができる治療法が出てくると良いのではないか、と感じています。

ナカイさん: 自分は、いつか日本でも遺伝子治療が承認され、血友病が完治する病気になったらいいなと思っています。一方で、自身が医療に関わる業界で働いていることもあり、副作用への不安も感じています。

阪口さん: 僕が期待しているのは、錠剤の治療薬の実現です。なぜかというと、注射が苦手だからです。一方で、今の製剤にも満足しています。日本と海外とで使用可能な製剤の数を比べると、日本の方が使える治療薬の種類が豊富だからです。僕は、定期的にWFH(世界血友病連盟)に参加する機会がありますが、今年もちょうどこの話題が取り上げられていました。改めて、日本は非常に恵まれている環境にあるのだなと感じています。

ですから、それぞれの患者さんのライフスタイルに合った治療薬を選べるようになると良いですよね。例えば、自分のように注射が苦手な場合は、錠剤などもその一つの選択肢となれば良いなと思っています。

大河内さん: 今後、もし日本でも遺伝子治療が保険診療として受けられるようになれば、患者さんのQOLに良い影響を与えるのではないかと思います。なぜかというと、出血を恐れてチャレンジすることを躊躇する機会が減ると考えるからです。同じ血友病の患者さんの中には、「出血が怖くて消極的になる時もある」という方もいるそうです。僕自身は、そのようなことで困った経験はあまりないのですが、血友病を理由に迷うことがある場合、完治が「一歩を踏み出す」良いきっかけになるのではないでしょうか。

日常生活での工夫~運動習慣・コミュニケーションなど~

血友病を理由に日常生活で、特に工夫していることを教えてください。

ナカイさん: 日常的に適度な運動をすることを心がけています。自分は、特にダンスが好きです。スタジオで60分ぐらい、定期的にダンスをしています。家でも好きなグループの曲や振り付けを覚えてダンスすることがありますが、とても楽しいです。自分が楽しく続けられる運動習慣を見つけることが、ポイントの一つかもしれません。ぜひ、自分が楽しいと思える運動を見つけてみてください。

阪口さん: 僕も体を動かすことを意識していて、1日1万歩は歩くように心がけています。看護師としての仕事とは別に、血友病患者さん向けのストレッチイベントで講師もしています。歩く、ストレッチするなど、ご自身が無理なく日常に取り入れられる運動が良いと思います。

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ダンス、歩くなど、適度な運動を心がけている方も(写真はイメージ)
皆さん、運動は特に意識的に行っていらっしゃるんですね。それ以外の工夫も、ぜひ教えてください。

鈴木さん: 工夫していることはたくさんあるのですが、中でも特に、新しい遊び仲間などのコミュニティや会社などの組織に加わる時は、少なくとも一人以上のキーパーソンに自分の関節の状況、血友病であること、サポートが必要なこと(迷惑をかける可能性のあること)を伝えるようにしています。

例えば、仕事仲間とご飯に行く時のキーパーソンは、いわゆる“宴会部長”の方です。具体的には、皆に声をかけて食事するお店を探して予約をしてくださるような方ですね。最近は、仕事でリモートワークの機会も多くなりました。そのため、自分の病気のことを伝える機会がないまま一緒にお仕事をする方も増えました。ですので、キーパーソンには自分の状況をお伝えするようにしています。そうすることで、例えば、階段の上り下りが必要ない場所で食事会を企画してくださるなど、配慮していただけるようになりますよ。

その他、もっと仕事に関わるシーンで考えると、ある程度の権限を持っているような立場の方がキーパーソンになると思います。自分がまだ会社員だった時代は、今では考えられないようなハードな働き方をしていました。大きな声では言えませんが、会社に泊まり込むことも珍しくなかったような状況です(笑)。当時は、まだ製剤の常温保存ができずに冷蔵保存が必須だったので、自分でアイスボックスを会社に持ち運んで、製剤を管理していました。当時は若かったですし、それが当たり前だと思っていたんですね。そんな時に、上司から「病気や製剤について上の人に話してみたらどう?」と声をかけてもらったんです。自分にはそのような発想はなかったのですが、上司に繰り返し言われたこともあり、とりあえず人事部の人に説明をしました。すると、「鈴木くん、冷蔵庫があれば大丈夫かな?他に何か必要な物はある?」と聞いてもらえたんです。結果的に冷蔵庫を置いてもらえるようになり製剤を入れておけるようになったので、負担が一気に減りました。冷蔵庫をあっという間に用意していただけたのは、権限を持つキーパーソンの方に病気について理解してもらえたことが大きかったのだろうなと思います。

大河内さん: 僕もキーパーソンを見極めてコミュニケーションを取ることは大切だと考えています。大学生になって、昔より自分で考えて行動することが増えました。大学の支援窓口に行って製剤を置かせてもらえるようにお願いしましたし、通院で授業を休む可能性があることも伝えています。自分の周りの人全員に伝える必要はないと思いますが、伝える必要がある人(=キーパーソン)を見極めて、必要な情報を伝えることは大切だと思います。

阪口さん: 僕は、「この人だから伝えたい」と思うような、信用している人には、自分から病気のことを伝えています。また、看護師として働く中で自分もキーパーソンには伝えるようにしています。例えば、今の職場ではまず、看護部長と看護師長に伝えました。そこから他のメンバーの方々にもお伝えして、現在は病棟内の方々はだいたい僕の病気を知っている状況です。看護師は医療従事者だから、ということもあると思いますが、皆さんが自分の病気を知ろうとしてくださるので感謝しています。例えばある時、職場の皆さんが血友病について調べて勉強する機会を設けてくださった際には、本当に嬉しかったですね。病気のことを伝えられて、相談できる関係はありがたいなと素直に思いました。

一方で、病気に対するネガティブな反応もあると思うんですね。そういった場面で自分が気を付けているのは、笑顔でポジティブな言葉も添えるということです。具体的には、「自分は〇〇して良かったと思ったよ」「頑張って〇〇してみたら、意外と良いこともあったよ」といったように伝えています。病気に限らず、どんなことであってもネガティブな中にポジティブなことがあると考えます。だから、ネガティブだけで終わらないようにコミュニケーションを取っていきたいですね。

4人からのメッセージ

最後に、血友病当事者・ご家族の読者にメッセージをお願いいたします
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4人から読者の皆さんにメッセージをいただきました(写真はイメージ)

阪口さん: ご自身の道を見つけて、突き進みましょう。そして、いつも笑顔でいられると良いですね。僕は、「大阪ヘモフィリア友の会」や「YHC(Youth Hemophilia Club:ユース・ヘモフィリア・クラブ)」といった患者会活動にも関わっています。もし、何か困ったことが起こった時の頼る先として、ぜひ僕たちのことも思い出してください。

大河内さん: 想定される病気のリスクに備えることは大事だと思いますし、QOLの向上もまた、それと同じくらい大切なことだと思います。患者さんご自身の希望を最大限に尊重する方向で課題に対する対応・対策を考えることが、幸福度の高い暮らしをする上で肝要なのではないかと考えます。

ナカイさん: 人生は、なるようになります。最近では、心の持ちようだなと感じるようになりました。僕は「人生が楽しい」と思いますし、むしろ、血友病になったからこそ、人とは違う価値観を持てるようになったと感じています。例えば、今働いている医療関係の職場では、上司から「持病があるということは病気と向き合う患者さんの気持ちがわかるということなので、君の強みだと思う」と声をかけていただきました。病気を持っていない人が経験しないようなことを、僕たち当事者はたくさん経験しています。僕はこれまで、病気を理由に嫌な思いをすることが多くありましたが、今は、病気になったから、自分にしかない価値観を得たと思っています。

鈴木さん: 昔に比べ、血友病治療の選択肢は確実に増えました。今、血友病であるということだけで人生を悲観的に捉える理由は、ほぼなくなったのではないでしょうか。一方、血友病が完治しない病気であること、健常者に比べてハンディキャップがあることは事実として変わりません。ですから、血友病患者ならではの視点や経験をいかして、ポジティブに人生を楽しんでいけたら良いですね。「ウィークポイントをチャームポイントに」と考えることが、人生を楽しむ秘訣ではないかなと僕は考えます。

また、僕自身、周りの方々にさまざまな場面で助けてもらっていることを感じていますし、感謝しています。だから、最後に皆さんにお伝えしたいのは「奥さんと仲良くすることが大事」ということです(笑)。家の中が穏やかであることが、日々の幸せにつながってきますよ。詳しくは、また今度お話ししましょう!

阪口さん: そうですよね!ぜひ、お話ししましょう(笑)


今回は、4人の皆さんのおかげで、終始和やかな雰囲気でお話しすることができました。特に、コミュニケーションにおける工夫のお話は、血友病に限らず、病気と生きる皆さんにとって、何かのヒントになればうれしいです。

遺伝性疾患プラスを運営する株式会社QLifeでは、「血友病オンラインコミュニティ」を運営しています。今回取材にご協力いただいた4人の皆さんも、「血友病オンラインコミュニティ」に参加されています。同コミュニティは匿名・無料で気軽に参加でき、入退室も自由です。当事者やご家族とつながる選択肢の一つとして、ぜひ思い出していただければと思います。(遺伝性疾患プラス編集部)

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