どのような病気?
シュワッハマン・ダイアモンド症候群は、膵臓、骨髄(血液細胞を作る組織)、骨などを中心に、体のさまざまな部分に症状が見られる遺伝性疾患です。
この病気の特徴の一つとして、乳児期の膵外分泌不全と呼ばれる膵臓の異常による吸収障害があります。膵臓には、食物からの栄養素を分解して利用するための酵素を作り分泌する役割がありますが、この病気では、乳児期にほとんどの場合膵臓がこのような酵素を十分に作り出すことができず(膵外分泌不全)、食べ物を消化して栄養素やビタミンを吸収することが困難になります(吸収障害)。症状の重症度は患者さんによってさまざまですが、多くの場合栄養失調になり、体重が増加せず成長の遅れが認められます。脂肪が多く悪臭のある便(脂肪便)も特徴です。この病気の膵外分泌不全の症状は多くの場合、生後1年以内に見られ、年齢が高くなるにしたがって改善することが多いとされています。
また、この病気では、骨髄にも異常が生じます。骨髄で作られる血液細胞(血球)には、体のあらゆる組織に酸素を運ぶ赤血球、ウイルスや細菌などの感染を防ぐ白血球、けがをした時などの血液の凝固に必要な血小板が含まれます。この病気で骨髄の機能が失われると、血球を作ることができなくなります。血球の中でも、白血球の中で最も多い好中球が作られない好中球減少症が引き起こされることが多く、あらゆる細菌やウイルスに対して非常に感染しやすくなります(易感染性)。多くの場合肺、耳、などにおいて肺炎や中耳炎などが何度も引き起こされます。頻度は高くありませんが、赤血球が減少することによる貧血によって疲労や衰弱、血小板が減少することによって不正出血やあざができやすくなるなどの症状が見られる場合もあります。
シュワッハマン・ダイアモンド症候群の人の15~30%で骨髄の機能不全に関連する重篤な合併症として、骨髄細胞のがんである「骨髄異形成症候群」や「急性骨髄性白血病」が引き起こされる可能性があることが知られています。
さらに、骨や骨格の異常もこの病気で多く見られます。よく見られる症状としては、低身長、胸郭の変形(胸の隆起)、全身の骨減少症、骨幹端軟骨異形成症、骨の成熟の遅れなどがあります。低身長には、骨格の異常だけでなくこの病気の吸収障害などによる成長の遅れも関わっていると考えられています。出生時に、肋骨が短く胸郭が狭い状態で生まれてくる場合、呼吸困難などを引き起こし命に関わる場合もあります。骨格の症状は個人差があり、また、時間の経過とともに症状が変化します。骨密度の低下が見られることもあります。
その他の症状としては、皮膚の症状(湿疹、魚鱗癬など)や歯の異常(虫歯、歯の萌出の遅れ)、精神運動発達遅滞が見られる場合があります。患者さんの50%程度で軽度から重度の知的障害や学習障害が見られます。
シュワッハマン・ダイアモンド症候群で見られる症状 |
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高頻度に見られる症状 骨格系の異常、消化管の異常、膵外分泌不全、脂肪の吸収不良、血液と造血組織の異常、貧血、好中球減少 |
良く見られる症状 低身長、骨の成熟の遅れ、膵臓形成不全、骨髄異形成症候群、好中球走化性の異常、平均赤血球容積の増加、大球性貧血、正球性貧血(赤血球の大きさは正常で、機能異常などにより起きている貧血)、血小板減少症、発育不良、成長の遅れ、栄養失調、脂肪便、行動異常 |
しばしば見られる症状 虫歯、皮膚の発疹、関節の形態異常、胸腔の異常、胸郭の変形、骨減少症、骨幹端軟骨異形成症、不規則な骨幹端、骨幹端の拡大、脊椎圧迫骨折、心臓の形態異常、急性骨髄性白血病、再生不良性貧血、骨髄細胞減少、白血病、白血球減少、汎血球減少(血液中の赤血球・白血球・血小板の減少)、肺炎、細菌感染症を繰り返す、ウイルス感染症を繰り返す、副鼻腔炎、自閉症的行動、知的障害、注意力が持続しない |
まれに見られる症状 耳介(耳の外に出ている部分)の異常、指の異常、湿疹、魚鱗癬(ぎょりんせん、皮膚の表面が魚の鱗のように剥がれ落ちる)、大腿骨近位骨端線離開、口内炎、歯の萌出の遅れ、肝腫大、骨髄炎、成長ホルモン欠乏症、下垂体機能低下症、免疫不全、敗血症、聴覚障害 |
シュワッハマン・ダイアモンド症候群は、出生約7万5,000~8万人に1人で発症すると推定されています。日本の正確な患者数はわかっていませんが、欧米よりも頻度はまれで、これまでに20家系ほどの報告があります。男女ともに発症しますが、男性の方が多い(男女比1.7対1)という報告もあります。
この病気は、原発性免疫不全症候群として国の指定難病対象疾病(指定難病65)に含まれる場合があります。また、シュワッハマン・ダイアモンド(Shwachman-Diamond)症候群として、小児慢性特定疾病の対象となっています。
何の遺伝子が原因となるの?
シュワッハマン・ダイアモンド症候群では、90%の患者さんで7番染色体の7q11.21と呼ばれる領域に存在するSBDS遺伝子の変異が原因となることがわかっています。
SBDS遺伝子は、タンパク質を合成する「リボソーム」の構築に関わるSBDS(リボソーム成熟)タンパク質の設計図です。リボソームは、核を持つ全ての細胞に存在し、遺伝子の情報が写し取られたmRNAの情報から、指定された順序でアミノ酸をつないでタンパク質を合成します。リボソームは2つのサブユニットと呼ばれる部品から構成されることで機能できますが、SBDSタンパク質は、それらのサブユニットが集まり、リボソームが正しく構成されるのを助ける働きがあります。
SBDS遺伝子の変異により、SBDSタンパク質の量が減ったり、機能が損なわれたりすることによって、リボソームによる細胞内でのタンパク質の産生に問題が生じ、発生の過程に変化が生じるのではないかと考えられています。しかし、この病気の症状を引き起こす詳細なメカニズムはまだわかっていません。
また、SBDS遺伝子以外に、15番染色体15q25.2領域のEFL1遺伝子、5番染色体5p13.2領域のDNAJC21遺伝子、14番染色体14q13.2領域のSRP54遺伝子などもこの病気の原因遺伝子として報告されています。それらの遺伝子もすべてリボソームの構築や機能に関わることがわかっています。各遺伝子の変異が原因となる頻度はそれぞれ1%以下とされており、非常にまれです。また、この病気のおよそ1割の人ではこれらの遺伝子のいずれにも変異が見られず原因遺伝子が不明となっています。
シュワッハマン・ダイアモンド症候群はほとんどの場合、常染色体劣性(潜性)遺伝形式で遺伝します。この遺伝形式では、両親から受け継いだ2つの原因遺伝子の両方に変異がある場合に発症します。両親は保因者で、この病気を発症していません。場合によっては、一方の親だけが保因者であっても、生殖細胞の形成中や胚の発生中に新しく発生した変異が原因でこの病気を発症する場合もあります。
また、SRP54遺伝子を原因遺伝子とする場合など、まれに常染色体優性(顕性)遺伝形式で遺伝することもあります。
どのように診断されるの?
シュワッハマン・ダイアモンド症候群は、以下の1)~6)の症状や遺伝学的解析の結果から診断されます。
1)常染色体劣性(潜性)遺伝形式で遺伝する
2)好中球減少症による易感染性、貧血、血小板減少
3)膵外分泌異常
4)低身長などの骨格異常を伴うことが多い
5)骨髄異形成症候群、急性骨髄性白血病を発症することが多い
6)90%でSBDS遺伝子に変異が認められる
どのような治療が行われるの?
シュワッハマン・ダイアモンド症候群では、根本的な治療はまだ確立されていないため、症状に応じた対症療法が主な治療となります。
例えば、膵外分泌異常には、膵酵素の補充や脂溶性ビタミンの補充などが行われます。好中球減少症による易感染性については、G-CSF製剤という薬や、抗生物質を予防的に投与するなどの治療が行われます。貧血や血小板減少症に対しては輸血、汎血球減少が重症な場合や骨髄異形成症候群を発症した場合には造血幹細胞移植が行われることもあります。
どこで検査や治療が受けられるの?
日本でシュワッハマン・ダイアモンド症候群の診療を行っていることを公開している、主な施設は以下です。
※このほか、診療している医療機関がございましたら、お問合せフォームからご連絡頂けますと幸いです。
患者会について
難病の患者さん・ご家族、支えるさまざまな立場の方々とのネットワークづくりを行っている団体は、以下です。
参考サイト
- 難病情報センター
- 小児慢性特定疾病情報センター シュワッハマン・ダイアモンド(Shwachman-Diamond)症候群
- MedlinePlus
- Genetic and Rare Diseases Information Center
- Online Mendelian Inheritance in Man(R) (OMIM(R))
- NORD