「厚労省への質問」、読者からの声に難病対策課が回答!

遺伝性疾患プラス編集部

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遺伝性疾患の多くは、発症メカニズムがまだ完全に解明されておらず、根本的な治療法もまだ開発されていない難病です。日本では、厚生労働省が軸となり、難病の患者さんに向けた医療費助成制度や法整備、疾患メカニズム解明や治療開発に向けた研究推進、就労支援など、地域の自治体と連携してさまざまな取り組みを推進しています。これまでに遺伝性疾患プラスでは、厚生労働省の難病対策課に所属する方々に、「指定難病」「難病と防災」「医療費助成や公的支援」をテーマにいろいろとお話をうかがってきました。今回、予告もせず、半日限定で遺伝性疾患プラスの読者に向け「厚生労働省に聞きたいこと」を募集したところ、あっという間にたくさんの質問が寄せられました。その中から、医療制度、就労・生活、治療薬の3つのテーマに関わる質問につき、厚生労働省 健康・生活衛生局 難病対策課 課長補佐の島田将広さんに、直接質問してご回答いただきました。国の対策や現状など、一緒に正しい情報を得て把握していきましょう。

Mrshimada Main
厚生労働省 健康・生活衛生局 難病対策課 課長補佐 島田将広さん

医療制度と支援

小児慢性特定疾病から指定難病へ移行する時期に、指定難病の認定を受けられるか心配で、受けられなかった場合の自己負担も不安です。また、小児科から成人の診療科への転院についても不安です。この時期の支援について、国や自治体で何か対策が行われていますか?

まず、小児慢性特定疾病と指定難病の関係について、基本的に、小児慢性特定疾病の中で指定難病の要件を満たすものについては、指定難病に指定していくべきという方針が報告書に記載されており、それに基づいた検討が随時行われています。

移行期医療支援については、小児期の診療科と成人期の診療科の連携、患者の相談対応、病気の理解を深める取り組みが必要とされています。そのため、移行期医療コーディネーター等を配置した移行期医療支援センターの設置を自治体で進めており、国としても運営費等の補助を行っています。また、移行期医療に従事する自治体職員や自立支援専門員等に対する効果検証も実施しています。

私も個人的に調査研究事業の報告書を確認してみたのですが、令和4年度の実態調査によると、小さい頃から継続的に移行期に向けての対応を行うことで、よりスムーズな移行が可能になることが示唆されています。一方、成人間近になってから本人や関係者の十分な連携のないまま進めようとすると困難が生じやすいという報告もありました。実際に問題となるのはそれぞれのライフイベントの時期だと考えられますので、早い段階から医療機関とのコミュニケーションを始めることが重要となります。

超希少疾患で指定難病に該当しない人や、未診断疾患の人の場合、国からどんな支援が受けられますか?

指定難病に限らず、難病患者の方々は、難病相談支援センター等での相談支援や就労支援などの対象となっています。医療費助成の形ではありませんが、こうした支援について、まず自治体の難病相談支援センターにご相談していただくのが良いと思っています。一方で、現状では、自治体ごとにこうした支援センターによる対応の方向性が異なることは認識しており、行政としてもそれぞれの課題を把握する必要があると考えています。

超希少疾患や未診断疾患については、研究事業として未診断疾患イニシアチブ(IRUD)という取り組みがあります。これは、条件を満たす患者さんに対して遺伝子検査を実施し、病的な遺伝子の変異を見つけていく取り組みです。IRUDのホームページでは連携病院を公表しており、パンフレットも用意しています。未診断疾患の患者さんの中でさらに詳しい検査をご希望される際は、IRUDの連携病院に直接相談するか、かかりつけ医の先生にパンフレットを見せてご相談いただくのもよいと考えています。

難病患者の生活は、通院や治療のために仕事を制限されたり、症状によって日常生活に支障が出たりと、経済的にも身体的にも負担が大きいです。こうした負担を減らすために、国はどんな制度を用意していますか?

難病の当事者の方々への支援として、国や自治体は、各方面からの制度を設けています。まず、医療費の面では、指定難病の患者様で支給認定を受けられた方は、医療費の助成を受けることができます。

また、難病法に基づいた「療養生活環境整備事業」(難病患者さんやご家族などに対する相談支援、難病患者さんに対する医療等に係る人材育成、在宅療養患者に対する訪問看護支援などを実施する事業)として、各自治体に難病相談支援センターが設置されており、ここで就労支援を含む相談支援が行われています。

日常生活の支援については、病院では相談しにくい日常生活のお困りごとなどについて、難病相談支援センターでご相談いただけます。これらの制度を通じて、国や自治体は、難病の当事者の方々の経済的・身体的負担の軽減を図っています。

難病患者がもっと暮らしやすくなるために、国はこれからどんなことに取り組む予定ですか?

「難病の患者に対する医療等に関する法律(難病法)」について、5年ごとに見直すこととされており、2023年10月および2024年4月に改正法が施行されました。これにより、難病登録者証の発行や、医療費助成の開始日を申請日から診断日へと前倒しにすることなどが実施されています。また、研究開発のためのデータベースの法定化なども行われました。

さらに、次の5年後の見直しに向けて、より使いやすい制度にするための議論が進められています。現在、検討が進んでいる事項としては、医療のデジタル化(DX)に関連して、申請のオンライン化や、資格確認のオンライン化などが挙げられます。特に、指定難病の患者さんが毎年紙で申請書を提出する必要がなくなれば、大幅に手続きが簡素化されると考えられます。このような改善により、難病患者さんたちの負担が軽減され、より暮らしやすくなることが期待されます。私たちは今後も、患者さんの視点に立って、制度の改善や新たな取り組みを検討していく予定です。

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「私たちは今後も、患者さんの視点に立って、制度の改善や新たな取り組みを検討していく予定です」(島田さん)
高齢の方が多いような難病では、デジタル化に対応できない方もいるのではないかと想像しますが、そこに対する考慮や対策はありますか?

デジタル化への対応が難しい高齢者への配慮は重要な課題です。厚生労働省としては、医療DXを進める上で「誰一人取り残されない」という方針を掲げるデジタル庁と連携しながら対策を講じていく予定です。

また、患者の方々や企業も含めた関係者間のコミュニケーションについて、日本では主に当事者の集まりとして患者会が機能していますが、海外では製薬企業が運営に関与する患者会や、患者会を運営する大規模なNPOなど、その形態は多様です。特に、難病や希少疾患の分野では、製薬企業と患者さんとの距離が遠くなっているのではないかとも考えています。この点の改善について、私も関心を持っており、今後製薬企業や患者会と対話をしていきたいと考えています。

これらの取り組みを通じて、デジタル化への対応が難しい方々も含めて、すべての難病患者さんにとって暮らしやすい環境づくりを目指していきます。

就労・生活支援

難病があると、定期通院や長時間勤務が難しいなどの事情により、就職活動で苦労します。障害者手帳がなくても使える「難病手帳」のような制度はできないでしょうか?難病患者の就労支援について、今後の計画を教えてください

現在、「難病手帳」のような制度は存在しませんが、指定難病患者の方々に対する医療費助成の受給者証や、2024年4月から始まった登録者証が、指定難病の患者さんであることの証明書類として機能します。

就労支援に関しては、障害者雇用促進法により、難病患者の方々も就労支援の対象となっています。また、事業主の合理的配慮の提供義務や差別の禁止についても対象です。ハローワークには難病患者就職サポーターが配置されており、難病相談支援センターと連携しながら支援を行っています。この取り組みの中では、患者の方々の症状を踏まえたきめ細かな職業紹介・職業相談や、在職中に難病を発症した方を含む働く難病患者の方々の雇用継続支援など、総合的な就労支援が行われています。同時に、難病相談支援センターでは、こうした取り組みについての啓発活動も行っています。

事業主側への支援としては、特定求職者雇用開発助成金や障害者介助等助成金、職場適応援助者助成金による助成を行っています。一方、障害者雇用率制度については、原則障害者手帳を持つ方が対象となっています。難病患者さんを含む障害者手帳を持たない方々の雇用率制度上の位置づけについては、さまざまな意見があるものの、今後、職業安定局長の下で行われている研究会等で議論が行われる見込です。

これらの取り組みを通じて、難病患者の方々の就労支援を強化し、より働きやすい環境づくりを目指しています。

難病においても、がん同様に心のケアを専属で行ってくれる仕組みがあればと感じています。難病専門の精神科医や公認心理師の制度など、今後国で作る予定はありますか?

難病相談支援センターの事業の一環として、ピアサポーターの養成を実施しています。このピアサポートは、難病患者さんやそのご家族の孤立感や喪失感の軽減を目的としています。

がんと難病では、それぞれ病気としての特性が異なるため、一律に対応を講じることは難しい面があります。また、難病の中でも症状や影響の程度はさまざまです。例えば、筋・神経疾患と遺伝子疾患では、患者さんが必要とする心理的サポートが異なる可能性があります。そのため、各疾患の特性に応じたきめ細かな支援が必要だと考えています。

治療薬開発と承認

希少難病の治療薬開発がなかなか進まないのは、患者数が少ないために治験や承認が難しいためと聞きます。この問題に対して国はどのような対策を考えていますか?

対策として、希少疾病用医薬品の指定制度があります。この制度は、希少疾患の創薬を後押しする仕組みで、指定された医薬品を開発する企業は、加速的な承認に向け、助成金の交付、優先審査、承認申請手数料の減額などのインセンティブを受けられます。

また、海外では承認されている医薬品が日本で開発が遅れる、又は開発されない、いわゆるドラッグラグ・ドラッグロスの解消に向けて、治験や承認審査の制度改善による創薬環境の整備を検討しています。具体例として、海外で開発が先行している医薬品の国際共同治験について、これまでは開始前に日本人での第1相試験の実施が求められていましたが、実施していなくても国際共同治験へ参加できるよう通達を出しました。このように、海外との開発歩調を合わせる対応を行っています。

私の疾患の治療薬は注射薬なので、学生生活をしながら隔週で通院しています。海外ではパッチタイプやジェルタイプもあるのに、日本ではまだ認可されていません。待っていれば認可されるのでしょうか?難しければ海外留学も考えています

ドラッグラグ・ドラッグロス解消のために、さまざまな対策を講じています。できるだけ早く承認されればと私も思いますが、実際にはなかなか難しい状況です。

難病の患者数が少ないことが、この問題の要因の一つになっています。例えば、企業が承認申請を行うことができない理由として、経済的な採算性の問題が挙げられます。民間企業である以上、投資に見合うリターンが得られるかどうかは、考慮せざるを得ません。また、純粋な経済的問題だけでなく、治験にかかる労力も大きな障壁となっています。治験参加者の募集や医療機関との協力体制の構築には多大な努力が必要になるのです。また、先ほど第1相試験を待たず国際共同治験に参加できるといった対応を紹介しましたが、しかしやはり医薬品の安全性確保は重要であり、開発促進とのバランスをどう取るかという問題に対しては、慎重な対応が求められています。

その他の課題

島田さんが難病に関して今特に課題だと思っていることは何ですか?

課題だと思っていることはたくさんありますが、いくつか重要と思う点を挙げさせていただきます。

まず、短期的には事務負担の軽減が挙げられます。医療DXの進展に伴い、この分野でさらなる改善の余地があると考えています。

次に、難病制度の点検も必要だと感じています。この制度は研究と福祉的側面の両面で進められてきましたが、開始から約10年が経過するなかで、現状の振り返りを行う必要があります。

さらに、2025年1月現在、指定難病は341ありますが、多数の異なる疾患を「難病」として一括りにすることの是非を検討する必要があります。患者さんへの支援を考える上では、神経系、消化器系など、より細分化したカテゴリーでの対応が適切かもしれないと考えています。

医師や厚労省の方々が難病対策を進めていくうえで、難病患者さんに関する情報の不足は生じていますか?

はい、複数の情報不足が生じているという認識です。まず、難病に関わる多くの医師は特定の専門分野に特化しているため、個々の難病に対する深い知識は持ち合わせていても、生活面なども含めた全体の実態を把握しきれていない可能性があります。これまでのお話と重複しますが、同じ疾患でも患者さんによって症状や生活上の課題が大きく異なるものもあります。また、日々の診療や現在進行中の臨床研究に関する情報と、疾患の根本的な治療法の開発など、10年や20年後を見据えた研究に関する情報は異なるものであり、我々もさまざまな方からお話をうかがう必要があると感じております。

厚労省の観点からも、難病患者全体の実態を把握するための統計データが不十分であることが問題となっています。特に、効果的な政策立案のためには、難病患者さんのQOLや社会経済的影響に関する情報も重要だと感じています。さらに、難病患者さんの診療情報が研究開発に十分に活用されていないことも大きな課題であると認識しています。

このような多面的な情報不足に対処し、難病対策をさらに進展させるためには、やはり医療機関、研究機関、患者団体、そして行政が連携し、緊密な情報交換や系統的なデータ分析を行うことが欠かせないと思っています。そうすることで、「この疾患はこういうところに課題がある」「この疾患はこういうところに生活上の大変さがある」など、個々の疾患に対し、しっかり把握できるようになってくるのではないかと考えています。

最後に、遺伝性疾患プラスの読者に向け一言メッセージをお願いします

難病法が施行されてから2025年で10年を迎えますが、これはまだ非常に若い制度だと考えています。この制度は、社会のニーズに応じて柔軟に形を変えていくべきものだと思います。私たち難病対策課は、難病患者さん、医師の方々、そして製薬企業にとって、どのような制度や支援の在り方が最適なのかを常に考え続けていく必要があります。そのためには、皆さまからのご意見やフィードバックが不可欠です。この難病対策を、社会全体で協力して作り上げていければと思っています。ぜひ、皆さまからもさまざまなご意見をお寄せいただき、より良い制度づくりにご協力いただければ幸いです。今後とも、国民の皆さまの声を伺いながら、難病対策の改善に努めてまいります。


読者からのさまざまな質問に、慎重に言葉を選びつつ誠実にお答えくださった島田さん。内容によっては、難病対策課を超えて、専門の部署の方に確認をし、その内容を大変親切に答えてくださいました。難病法の成立から10年、まだまだ各方面に課題はいろいろとありますが、国も自治体も、その解決に向けて着実に動いているということが、今回聞いたお話しの数々から実感できました。

ボリウッドダンスが趣味という島田さん。体幹の強さを必要とするダンスですが、ご回答いただく中で、一貫して「難病患者さんがより過ごしやすい社会を目指す」という、ぶれない芯が感じられたことに、何か共通点があるように思えました。(遺伝性疾患プラス編集部)

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島田 将広 さん

島田 将広 さん

厚生労働省 健康・生活衛生局 難病対策課 課長補佐。大学時代に大好きだった祖父母の介護をしていたこと、船会社に勤務していた祖父の話を聞いて「歴史の裏側を体験できる仕事がしたい」と考えたことから厚生労働省に入省。医療保険、介護保険などを担当し、1年半の米国留学を挟んで2024年から現職。文系のため、医師の友人から参考書を借りたり、医療系の漫画を読んだりして勉強している。最近の趣味はYouTube Shortsで流れてきた美味しそうな料理を作ることや、ボリウッドのダンスを踊ること。