全国ポンペ病患者と家族の会、20年以上続く支援活動と成果

遺伝性疾患プラス編集部

細胞内小器官の「ライソゾーム」は、細胞内で不要になった物質を分解する役割を担っています。ライソゾームの中には、分解するためのさまざまな酵素があります。これらの酵素をつくるもととなる遺伝子に変化が生じて引き起こされる病気の総称を、「ライソゾーム病」と言います。厚生労働省の定める指定難病小児慢性特定疾病の対象疾患です。

今回は、ライソゾーム病の1つ「ポンペ病」の当事者・ご家族の支援を行うNPO法人全国ポンペ病患者と家族の会の活動をご紹介します。ポンペ病は、グリコーゲンを分解する酵素(酸性α-グルコシダーゼ)をつくるもととなる遺伝子の変化により発症します。グリコーゲンをうまく分解できないことで、筋力の低下、肝腫大、心筋症といったさまざまな症状が現れます。同会の理事長・岡﨑俊文さんは、ポンペ病を持つお子さんの父親です。同会の設立当初、現在は国内でも承認されている酵素補充療法(不足している酵素を補う治療)は、海外のみでの承認でした。そこから同会の活動もあり、現在では通院治療に加えて、在宅での薬剤投与も可能に。このような歴史のある20年以上の活動内容や、岡﨑さんご自身のご経験についてお話を伺いました。Pompe 01

団体名 NPO法人全国ポンペ病患者と家族の会
対象疾患 ポンペ病
対象地域 全国
会員数 12家族15名
設立年 2001年(2016年にNPO法人化)
連絡先 公式ウェブサイトの「お問い合わせフォーム」から
サイトURL https://pompe-family.com/index.php
SNS Facebook
主な活動内容 ポンペ病の当事者・ご家族を支援し、また、専門医・研究者と連携した研究支援を行う。その他、国内・海外の患者団体とも連携し、疾患啓発活動を行う。

活動が実を結び、異例の速さで日本でも酵素補充療法が承認

岡﨑さんのご経験について、教えてください。

息子が乳児型のポンペ病と診断されたのは、1994年のことでした。ポンペ病の中でも、進行が早いとされる乳児型というタイプです。当時は、現在のように酵素補充療法が国内で承認されていなかったため、病気について「予後不良」と説明を受けました。そのため、「なんとかしなくてはいけない」と強く感じたことを覚えています。一方で、あっという間に月日が経ち、息子は幼稚園に入る年齢になりました。

当時の私は会社員として働いており、また、責任者だったことなどもあり、息子の通院を理由に頻繁に会社を休むことが難しい状況でした。そんな状況下で、成長した息子が就労できない場合なども想定し、「会社員として働き続けることは困難」との判断に至り、起業することとなりました。そこから22年が経ちます。

活動を始めたきっかけについて、教えてください。

「当事者ご家族とのつながりが必要だ」と思ったことが、きっかけでした。当時はポンペ病に関する情報を見つけることが大変困難だったためです。希少難病であるために、ポンペ病を知っている医師はほとんどおらず、インターネットや書籍で情報を探そうとしても見つけられない状況でした。また、同じ病気の悩みを打ち明けられる人が身近にいなかったことも、理由の1つです。孤立する前に、私たち家族が精神的に頼ることができる環境が必要だと考えました。そこで、医師の紹介で出会った5人のポンペ病当事者ご家族と、2001年に任意団体として設立したのが活動の始まりです。

その後、米国や欧米でポンペ病の酵素補充療法が承認されました。私たちは日本での承認に向け、厚生労働省への陳情を行う活動を行いました。その成果もあり、海外での承認から約1年という異例の速さで、日本でも使用できるようになったのです。ポンペ病が極めて重篤な病気であること、早期に治療を開始することがその後の症状に大きく影響すること、進行を抑制できる唯一の治療薬であることなど、早期承認の必要性を伝えることができた結果だと思います。その後、2016年に任意団体からNPO法人として活動を開始しました。

酵素補充療法の在宅投与も可能に、啓発活動を

現在の活動内容について、教えてください。

現在は、当事者・ご家族向けの交流の場や勉強会を開催することに加えて、在宅での酵素補充療法の啓発活動を中心に行っています。

厚生労働省への要望書提出により、2021年、ポンペ病の酵素補充療法について、在宅での酵素補充療法が可能な薬剤として承認されました。続く2022年にも要望書を提出し、2023年には2剤目も在宅での酵素補充療法が可能な薬剤として承認されています。また、先天代謝異常症学会、在宅医療連合学会の先生方により在宅での酵素補充療法に関わるマニュアルが作成されました。在宅での投与も選択肢の1つとして広がることで、今後、さらなる当事者ご家族の負担軽減が期待されます。

その他、日本では現在、ポンペ病は基本的に全員が受ける「新生児マススクリーニング検査」ではなく、「拡大新生児スクリーニング」として行う検査に含まれています。こちらについても、学会でのブース展示や、パンフレットの配布などにより、啓発活動を行っています。

毎年開催されている勉強会では、どのような内容を扱っていますか?

勉強会では、専門医3~5人が講演します。講演内容は、ポンペ病の現状、世界情勢、症状への対応、研究成果などです。また、当事者からの質問に対しても、専門医からわかりやすく回答していただきます。

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勉強会の様子

学校側への説明などで課題も、情報を届ける活動を続ける

交流会などの活動を通じて、当事者・ご家族からは特にどのようなお悩み相談が寄せられていますか?

日常生活における、あらゆることについて相談があります。お子さんの場合、学校生活に関わるお悩みが特に多い印象ですね。例えば、「隔週で酵素補充療法のための通院が必要となるために、同じ科目の授業が受けられない」といったお悩みです。その他、先生方への情報共有の難しさを感じられている方も多くいらっしゃいます。病気への理解を得るためのコミュニケーションは、簡単ではありません。学校の校舎のバリアフリー化、トイレ、給食、通学、教室移動、課外授業・遠足・修学旅行・運動会といった行事への対応など、さまざまな場面について、お悩み相談が寄せられている印象です。

活動に参加されている当事者・ご家族からは、どのような声が寄せられていますか?

学校の先生方のコミュニケーションについては、「活動を通じて知った資料を用いて、学校の先生方にポンペ病の説明をすることができた。注意点が伝わり、学校側に対応してもらえた」といった声が寄せられています。また、「活動を通じて得た情報を、主治医の先生に問い合わせをすることが出来た」「活動に参加することで、専門医の先生方と話す機会が増えた」などの感想もいただいています。

公式YouTubeチャンネルでは、ポンペ病の情報や当事者のメッセージを紹介している

その他、「当時では異例の、約1年という速さでの酵素補充療法が国内でも承認された」「在宅での酵素補充療法も承認された」「他の患者団体、医師などの交流によりさまざまな情報を共有できるようになった」など、私たちの活動の成果を喜んでくださっている声も伺います。こういった声が寄せられるたびに、私自身、活動を続けてきて良かったと感じています。

今後、新たな活動に取り組むご予定はありますか?

引き続き、在宅での酵素補充療法の取り組みを推進する活動を行います。また、今後、当事者のご両親が高齢になり、病院への通院や介助が難しくなるケースも増えてくることが考えられます。ベッド上で就労している当事者であっても、治療・通院を理由に隔週で休みを取らないといけない状況もあります。こういった、さまざまな課題に対して支援活動を検討していきます。

その他、海外への情報発信を続けていきます。国際ポンペ病患者会(IPA)のアジア地区のアドバイザリーボードメンバーとなり、海外の当事者との情報交換を通して、連携を継続していきます。

交流の機会を持つことが前向きな気持ちになるための一歩に

最後に、遺伝性疾患プラスの読者にメッセージをお願いいたします。

希少難病に関わる当事者やご家族の場合、ご自身の関わる病気について「周りの人に知られたくない」と感じていらっしゃる方も多いことと思います。そして、病気に関連して後ろ向きな気持ちになる時も、きっとあることでしょう。しかし、そのような中でも、さまざまな方々と交流の機会を持つことが前向きな気持ちになるための一歩なのではないかと考えます。その交流の場の1つとして、全国ポンペ病患者と家族の会を知っていただけたらと思います。

私たち患者団体は、病気に関わる当事者とそのご家族を支援する団体です。活動を通じて私自身も勇気づけられることが多い一方で、当事者の介護をしながら運営に携わり続けることは大変難しいとも感じています。これからどのように運営を続けていくかといった悩みも含めて、皆さんとさまざまな思いを共有していけたらと考えています。


国内での酵素補充療法の承認、最近では、在宅での投与が可能になるなど、全国ポンペ病患者と家族の会の活動は確実に結果につながっています。そのことで、当事者やご家族の生活がより良いものになっているのだと知ることができました。一方で、現在も、学校側とのコミュニケーションなど当事者ご家族の抱える課題が多くあることも教えていただきました。今後も、同会の活動に期待が寄せられます。

岡﨑さんご自身が「当事者ご家族とのつながりが必要だ」と感じて始まった、同会の活動。当事者ご家族とつながる場の1つとして、ぜひ知っていただけたらと思います。(遺伝性疾患プラス編集部)

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