ムコ多糖症Ⅰ型、遺伝子治療で脳障害が治療できるようになる可能性

遺伝性疾患プラス編集部

POINT

  1. ムコ多糖症I型における脳障害は、従来の治療法では効果が得られず治療法確立が期待される
  2. 独自に開発した遺伝子治療「PS遺伝子編集システム」でモデルマウスの治療効果を検討
  3. 肝臓で作られた酵素が脳に到達し、脳障害部分の神経回路を回復することを確認

ムコ多糖症Ⅰ型の重症型「ハーラー症候群」

米ミネソタ大学は、ムコ多糖症Ⅰ型の重症型「ハーラー症候群」で脳障害が生じている患者さんの治療を目指し、独自に開発した遺伝子治療の効果をモデルマウスで検討した結果、障害されていた脳の神経回路が修復されることを初めて実証したと発表しました。

ライソゾーム病の1種であるムコ多糖症I型は、発症時期と重症度によって3タイプに分類されます。ハーラー症候群は、3タイプの中でも発症時期が早く最も重症型です。細胞の中の不要物分解に必要な酵素(IDUAという酵素)がうまく働かなくなる遺伝子変異により、生後間もなく知的な発達の遅れや重度の身体的異常などさまざまな症状が生じます。ハーラー症候群の症状の1つに、進行性の脳障害があります。従来の治療法である酵素補充療法では進行性の脳障害を防ぐことは難しく、造血幹細胞移植はリスクが高いとされることから、新しい治療法の確立が期待されています。

肝臓で正常酵素が産生され、血液脳関門を通過して脳障害を修復

今回の研究では、ハーラー症候群のモデルマウスを、ミネソタ大学で発明された新しい遺伝子治療「PS遺伝子編集システム」で治療し、その評価が行われました。この治療では、肝臓で非常に高いレベルの正常な酵素が継続的につくられ、血流に乗って脳に入ることが期待されます。

まず、診断や治療後の評価を行うために、高解像度の安静時機能的MRI(rs-fMRI)を使用して障害された神経ネットワークを特定しました。次に、遺伝子治療後に脳の機能と神経回路がどの程度回復したかを評価しました。その結果、治療により、肝臓で正常な酵素がつくられ、障害されていた神経ネットワーク内で正常な神経回路が維持できていることが確認されました。

今回の研究の共同研究者で同大医学部教授のChester Whitley氏は、「ハーラー症候群マウスの肝臓で正常な酵素が産生され、血液脳関門を通過して脳に酵素が届き、脳障害を修復できたことは、重要な成果である」と、述べています。(遺伝性疾患プラス編集部)

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