遺伝子治療はどのように行われますか?

遺伝性疾患プラス編集部

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遺伝子治療は、病気の原因となるタンパク質の機能を回復させるために、個人の遺伝情報を補ったり変更したりする治療方法です。ヒトの体内では、多種多様なタンパク質が主として働いており、また、タンパク質は体全体の組織構造の基礎にもなっています。そんなタンパク質を作る設計図となるのが遺伝子です。遺伝子がもつ塩基配列が変化(変異)すると、特定のタンパク質が作られない、作られたタンパク質の機能が変化するなどの問題が引き起こされ、体の機能に重大な影響が及ぶ可能性があります。遺伝子治療では、遺伝子が病気の原因につながる変化を起こした場合に、それらを修正または補正することで、重要なタンパク質の機能を修復し、体の状態を治療します。

遺伝子治療にはいくつかの方法があります。

遺伝子導入療法

新しい遺伝子などの遺伝物質を細胞に導入する方法です。遺伝子の変化によって重要なタンパク質が作られなくなったり、機能が変わってしまったりした場合に、正常な遺伝子を導入することによりタンパク質の機能を回復させます。もしくは、変化した遺伝子そのものではなく、別の遺伝子を導入することで、失われたタンパク質の機能を補う方法もあります。

ゲノム編集

遺伝子治療への応用が検討されている新しい技術です。ゲノム編集では、遺伝物質を外からの導入により新たに追加するのではく、細胞内のDNAを直接変化させるゲノム編集ツールを導入します。ゲノム編集ツールは、ゲノム上の目的の位置において遺伝物質を追加、削除、変更できます。ゲノム編集に使われる分子として、CRISPR-Cas9(クリスパーキャスナイン)が知られています。

導入する遺伝子やゲノム編集ツールは、通常、細胞内に直接注入されただけでは機能しません。これらは「ベクター」と呼ばれる運び屋の中に組み込まれることで、遺伝子治療の機能を発揮できます。ベクターは、感染した細胞に遺伝物質を運び込むようなウイルスを、ヒトに使用しても病気を引き起こさないように改変したものです。例えば、レトロウイルスと呼ばれるウイルス由来のベクターは、ヒトの染色体の中に、新しい遺伝子を含む遺伝物質を一体化させ組み込むことができます。また、アデノウイルスと呼ばれるウイルス由来のベクターは、細胞の中で染色体が存在する核に遺伝物質を取り込ませます(レトロウイルスのように遺伝物質が染色体に一体化されることはありません)。

ベクターは組織に直接注射または静脈注射することで細胞に取り込ませることができます。また、患者さんの細胞を取り出してきて、実験室でベクターと接触させて取り込ませ、その細胞を再び患者さんの体内に戻す方法もあります。治療がうまくいけば、ベクターにより送り込んだ遺伝子によって新しいタンパク質が作られたり、あるいはゲノム編集を担う分子が遺伝子のエラーを修正し、タンパク質の機能を回復させたりすることができます。

これまで、ウイルスベクターを使う遺伝子治療は問題なく行われてきましたが、一方で受ける人にリスクが全くないわけではありません。場合によっては、ウイルスに対する免疫反応が引き起こされる恐れがあるためです。また、遺伝物質を染色体に組み込む種類のベクターは、意図せず発がんにつながる遺伝子の変化を起こしてしまう可能性もあります。

そこで、ウイルスを使わずに遺伝物質やゲノム編集ツールを送り込む新しい技術の研究開発も進められています。その一つが、ナノ粒子と呼ばれる特殊な構造体です。これをベクターとして使い、遺伝物質やゲノム編集を担う分子を細胞内に送り込みます。ナノ粒子は非常に小さな構造体で、さまざまな用途が考えられています。遺伝子治療に用いられるナノ粒子は、特定の種類の細胞を標的にする特殊な設計も可能です。ナノ粒子はウイルスベクターよりも免疫反応を起こしづらく、目的に合わせた設計や変更が行いやすいのが特徴です。

遺伝子治療に関わる技術的な課題を克服するための研究は、日々続けてられています。例えば、遺伝子やゲノム編集を担うツールを特定の細胞に送り込むためのより良い方法や、行った遺伝子治療が体内で機能するタイミングをより正確にコントロールするための方法も研究が進められています。(提供:ステラ・メディックス)

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