遺伝性疾患の多くは、体のすべての細胞に存在している遺伝子の変化によって起こります。そのため、体のさまざまな機能に影響が及び、現状では完治が難しい場合がほとんどです。しかし、疾患による症状の一部を治療したり、起こりうる問題に対処したりすることは可能です。
例えば、先天性代謝異常と呼ばれる遺伝性疾患の多くは、遺伝子の変化により特定の酵素が作られなくなるために起こることがわかっています。治療には酵素の欠損を補うための食事の改善や投薬、もしくは食事に含まれる特定の物質を制限することで、本来酵素で分解される毒性物質が蓄積しないようにするなどの方法がとられます。酵素補充療法と呼ばれる方法で酵素自体の不足を補う方法もあります。これらの治療法は症状や徴候に応じて行われ、合併症の発症を予防します。先天性代謝異常の例としては、フェニルケトン尿症(PKU)などが挙げられます。
そのほかの遺伝性疾患についても、症状や起きている問題に応じて改善につながる治療や対処方法がとられます。そのアプローチは疾患や個々人の状態によっても異なり、例えば、心臓に何らかの障害や欠陥が見られる遺伝性疾患に対しては、その障害や欠陥を修復するための手術や心臓移植という治療手段がとられることもあります。また、鎌状赤血球症と呼ばれる血液細胞の形成不全を特徴とする疾患には、骨髄移植という治療法がとられることがあります。骨髄移植によって正常な血球の形成ができるようになり、若いうちに移植を行うことで痛みやその他の合併症の予防につながるとされます。
また、遺伝子の変化の中には、ある種のがんなど、将来の健康問題のリスクを高めると知られるものもあります。よく知られている例にBRCA1およびBRCA2遺伝子変異に関連する家族性乳がん・卵巣がん症候群があります。これらの遺伝子変異をもつ場合は、がん検診をより頻繁に受けるようにしたり、がんになるリスクが高い組織を除く手術などの予防的な処置が行われたりすることがあります。
遺伝性疾患の中には、命を保つのが不可能なほど深刻な障害が引き起こされるものもあります。特に深刻なケースでは、胚や胎児の段階での流産となったり、死産や出生後まもなく死亡したりする場合もあります。こういった重篤な遺伝性疾患に対する治療法はまだほとんどありませんが、病気を持つそれぞれの子どもの症状に応じて、痛みを和らげたり呼吸を補助したりするなどの支持療法がとられます。
遺伝性疾患に対する治療のほとんどは、遺伝子変異自体を変化させるものではありません。しかし、疾患の中には遺伝子治療と呼ばれる方法で治療が試みられているものがあります。この試験的な取り組みの中では、病気の予防や治療のためにヒトの遺伝子を変化させる手法についても検証されています。遺伝子治療は、遺伝性疾患に対する他の治療や対処法と同様に研究が続けられています。(提供:ステラ・メディックス)