遺伝学において染色体上の特定の遺伝子の位置を記述する場合には「遺伝子地図」が用いられます。遺伝子地図は、遺伝子の位置を細胞遺伝学的な位置として記述するもので、染色体を特定の化学物質で染色したときに現れるバンド(帯状の模様)の特徴的なパターンに基づいています。このほか遺伝子地図には、分子的な位置として記述する方法もあります。分子的な位置は、染色体を構成するDNAの構成要素(ヌクレオチド)の配列に基づくもので、染色体上の遺伝子の位置をより正確に記述できる方法です。
細胞遺伝学的位置
遺伝子の位置を細胞遺伝学的に記述する場合、標準的な手法では、染色体を染色したときに現れる特定のバンドの位置を記述します。以下に例を示します。
17q12
正確な位置が不明な場合には、バンドの範囲として記述します。
17q12-q21
数字と文字の組み合わせで、染色体上の「遺伝子座」を示します。遺伝子座はいくつかの部分から構成されており、それぞれの数字や文字は次のような意味を表しています。
・最初の文字または数字(ここでは17)
遺伝子が存在している染色体を示します。1番から22番までの染色体(常染色体)は染色体番号で指定されます。性染色体はXまたはYで示されます。
・pまたはqの文字(ここではq)
遺伝子座の記載において2番目の部分に当たるpまたはqの文字は、染色体の腕を示します。各染色体は動原体という狭窄部によって、2つの部分(腕、アーム)に分けられます。慣例的に、短い方の腕はp、長い方の腕はqと記述されます。例えば、5qは5番染色体の長腕で、XpはX染色体の短腕を示します。
・pまたはqに続く数字(ここでは12と21)
短腕または長腕上の遺伝子の位置を示します。遺伝子の位置は、染色体を特定の方法で染色したときに現れる明暗のバンドからなる特徴的なパターンに基づいています。通常、2桁の数字(領域とバンドを表す)で示され、その後に小数点が続き、さらに1桁以上の数字(明暗の領域内のサブバンドを表す)が続くこともあります。遺伝子の位置を示す数字は、セントロメアからの距離が長くなるにつれて大きくなります。例えば、14q21は14番染色体長腕の21番目のバンド位置を示しています。14q21は、14q22よりもセントロメアに近い位置にあります。
また、遺伝子の細胞遺伝学的位置を表すために、“cen”や“ter”という略語が用いられることがあります。「“cen”は、その遺伝子がセントロメアに非常に近い位置にあることを示しています。例えば、16pcenは16番染色体の短腕のセントロメア近傍を指しています。“ter”はterminusの略で、短腕または長腕の末端に非常に近いところにあることを示しています。例えば、14qterは、14番染色体の長腕の先端、つまり一番端の部分を指します。
分子的な位置
2003年に完了した国際的な研究プロジェクト「ヒトゲノム・プロジェクト」によって、ヒトの各染色体の塩基配列が決定されました。この塩基配列の情報により、研究者は多くの遺伝子について細胞遺伝学的な位置よりも具体的に特定した形で記述できるようになりました。遺伝子の分子的な位置は、ヌクレオチドという単位で特定します。この記述法では、染色体上の正確な位置や、遺伝子の大きさも示されます。また、分子的な位置を知ることで、特定の遺伝子が同じ染色体上の他の遺伝子からどの程度の距離にあるのかを正確に判断することもできます。
研究グループによって同じ遺伝子でも示している分子的位置が微妙に異なることがあります。研究者はさまざまな方法によりヒトゲノムの塩基配列を解読しているため、示す遺伝子の分子的位置にわずかな違いが生じることがあるのです。(提供:ステラ・メディックス)