ムコ多糖症の当事者・ご家族へ「一緒だよ」、ムコネットTwinkle Days

遺伝性疾患プラス編集部

酵素の働きで細胞の不要物を分解する細胞内小器官「ライソゾーム」。不要物が分解されず溜まることで、さまざまな症状が現れる病気の総称を「ライソゾーム病」と言います。今回活動をご紹介する「ムコネットTwinkle Days」は、ライソゾーム病の一つ「ムコ多糖症」の当事者やご家族を支援する患者団体です。

ムコ多糖症は、病型によって症状に差はありますが、閉塞性呼吸障害、関節拘縮(こうしゅく)、骨変形、低身長といった症状が共通して見られます。ムコネットTwinkle Days代表の中井まりさんは、2001年当時2歳だったお子さんがムコ多糖症Ⅱ型と診断を受けました。生まれて間もない頃から違和感を覚え、幾度となく医師に相談をしていた中井さんですが、なかなか診断がつかない期間を過ごしたと言います。

ムコネットTwinkle Daysの活動を20年以上続けてこられた中で、日本で酵素補充療法が承認されるなど、進歩もありました。現在は、早期診断・治療の重要性などを中心に、疾患啓発活動を続けるムコネットTwinkle Days。今回は、中井さんのご経験や同会の活動について詳しくお話を伺いました。

Inherited Metabolic Diseases10

団体名 ムコネットTwinkle Days
対象疾患 ムコ多糖症
対象地域 日本、海外(米国在住の日本人の方も参加中)
会員数 正会員、ブログファミリー、ムコママ会、合計21人
設立年 2009年
連絡先 メール:info@muconet-t.jp
サイトURL http://blog.muconet-t.jp/
SNS ムコママ会など、メンバー向けLINEあり
主な活動内容 ムコ多糖症の当事者・ご家族向けの支援活動を行う。交流会などのイベント開催の他、学会への参加などを通じて医療従事者との連携も行っている。

ムコ多糖症の診断まで2年、疾患の情報発信から活動開始

お子さんが診断に至った経緯を教えてください。

息子が確定診断を受けたのは2001年、2歳の時です。それまでに幾度となく違和感を覚え、さまざまな人に相談していました。しかし、なかなか診断を受けられなかった期間を経ての診断でした。例えば、一時間おきの夜泣きも、呼吸がしづらいことによるものでした。これは、ムコ多糖症の気道が狭くなる症状によるものです。また、上の子どもに比べて「体がかたい」と感じており、それは保育士さんにもたびたび指摘されていました。これも、ムコ多糖症の症状の一つ関節拘縮(こうしゅく)によるものです。子どもの健康診査のたびに医師に相談していたものの、「個人差の範囲です」という説明にとどまっていました。そして、1歳の誕生日を迎える時には、鼠径ヘルニアの入院・手術を経験。鼠径ヘルニアもムコ多糖症の症状の一つなのですが、やはり病気に気づかれることなく、時間だけが過ぎていきました。

その後、保育士さんからの指摘をきっかけに、理学療法士さん経由で「関節を伸ばしきることができないことが、体のかたさにつながっている可能性」を知りました。このことを契機に、小児科の先生から骨に関わる病気の可能性を指摘していただき、また、たまたま同病院の小児科にライソゾーム病のお子さんが通院されていた経緯もあり、ようやくムコ多糖症の診断に至りました。

なかなか確定診断につながらなかったご経験を踏まえて、早期診断・治療を受けるために何が大切だと考えますか?

ぜひ知っていただきたいこととして、希少疾患の場合、診療経験が豊富な医師であっても一生に一度出会うかどうかの病気もあるということ。そして、ムコ多糖症のように早期診断・治療でお子さんの予後が大きく変わる病気もあるということです。こういった背景から、お子さんの症状に違和感を覚えた場合は、専門医へ相談していただくことが大切だと考えます。

診断を受けた当時、特にどのようなことに困っていましたか?

ムコ多糖症の情報がなかなか得られなかったことです。当時は、まだ家庭でパソコンを持っている人が多くない時代でした。そのため、インターネットでムコ多糖症の情報を調べるために、急いでパソコンを買いに行ったほどです。

特に知りたかったのは、「治療」の情報です。当時は、今のように酵素補充療法が確立されていなかった時代だったので、治療の情報を集めるために必死でした。そして、当時の唯一の治療法だった「骨髄移植」を希望しました。しかし、骨髄移植のドナーになってくださる方がなかなか見つかりませんでした。この時、ムコ多糖症の発信活動を始めたことが、現在の「ムコネットTwinkle Days」の活動につながっています。

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ムコネットTwinkle Days代表 中井まりさん

その後、当時まだ日本で承認されていなかった、開発中の薬の治験を知りました。日本で実施していなかったため、米国へ渡航して治験に参加しました。ムコ多糖症など希少疾患に関しては、今もドラッグ・ラグの課題があります。ムコ多糖症に関しては、当事者やご家族が治験に関して積極的に情報を集め、知識を持っておられるように感じています。これも、多くの方々の努力の賜物と思います。今後も、海外で先に開発が進んでいる治療薬に関して、日本の患者さんも使えるような支援は引き続き必要だと感じています。

ブログや学会での情報発信、LINEでのコミュニケーションなど

活動を始めたきっかけについて、教えてください。

診断当時、唯一の治療法だった骨髄移植のドナーを見つけるため、ムコ多糖症の発信活動を始めたことがきっかけです。その後、子どもが米国で治験を受けていた際に知った、ムコ多糖症のご家族が行うチャリティーイベントからも影響を受けました。米国では、さまざまな難病の当事者ご家族がイベント開催を通じて寄付を募り、集まったお金は薬の研究機関へ寄付したり、当事者やご家族への支援に使われたりしています。こういった海外の取り組みを知る中で、日本でも多くのお声をいただくようになり、ムコネットTwinkle Daysの活動が始まっていきました。

現在の活動内容について、教えてください。

ムコネットTwinkle Daysのメンバーで更新しているブログ「命耀ける毎日」で、情報発信をしています。当会では、当事者やご家族とLINEなどコミュニケーションを取っており、相談対応などもしています。治療や通院、治験、生活に関わる内容など、さまざまなお話を伺っています。

その他、東京バンドネオン倶楽部の演奏会で募金活動や啓発活動を行っています。ムコ多糖症は早期診断・治療が重要なので、そのこともあわせて発信しています。また、医療従事者の皆さんにも情報をお届けするため、関連学会へ参加しブース展示などを行っています。

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日本先天代謝異常学会学術集会でのブース展示、関係者の皆様と

ムコママ会ではランチ会も、「一人ではないと思えてうれしい」の声

「ムコママ会」では、どういった活動をしていますか?

「ムコママ会」専用のLINEグループがあり、皆さん、自由に近況報告をしています。また、お子さんの誕生月にはお祝いメッセージを交換しています。皆さん、前向きで明るい内容のコメントをされているのが印象的です。「素敵な一年になりますように」「元気いっぱいの毎日でありますように」「素敵な誕生日を過ごしてくださいね」などのお祝いメッセージに対して、お誕生月のお子さんのママさんからはこのようなコメントが届いています。

  • あっという間に17歳になりました。
  • 装具の靴を作りましたが、尖足(せんそく:足先が下垂したまま戻らなくなった状態)がきついのでシークレットブーツみたいになってます。
  • おかげさまで元気にしています。大阪から特急ひのとりに乗って名古屋へ行きました。

また、年に1~2回ほど「ランチ会」を開催し、直接お話しする場も設けています。コロナ禍を理由にしばらく開催していなかったのですが、最近また開催するようになってきました。場所は、大阪や京都などが中心です。皆さんで日ごろの休息を兼ねて集まり、ゆっくり食事をしながらさまざまな情報共有を行っています。先日のランチ会では、特に「拡大新生児スクリーニング」を中心に話しました。ママさんたちが自主的に開催される会にお誘いいただくこともあり、今後は、そういった会も増えていくのではないかと思っています。将来的には、学会の学術集会へも皆さんと一緒に参加できたらと考えています。

当事者・ご家族からは、活動に対してどのような声が寄せられていますか?

一番多いのは、「一人ではないと思えてうれしい」という声です。希少疾患の場合、なかなか近くに同じ病気のお子さんはいらっしゃらないので、つながりは大切だと感じています。ムコママ会のメンバーの場合は日本全国にお住まいですし、米国から参加されている方もいらっしゃいます。ですので、全員が一緒に会うことは難しいのですが、LINEグループでいつでも連絡を取り合うことができます。

また、ブログでの発信を受け取っていただくだけでも、直接活動には参加されていないご家族が「一人ではない」と思ってもらえたらうれしいですね。

早期診断・治療の重要性、拡大新生児スクリーニングの情報発信も

早期診断・治療の重要性に関する発信活動について、どのような手応えや課題を感じておられますか?

ムコ多糖症は、早期診断・治療で子どもの予後が大きく変わります。病型によっては酵素補充療法が受けられるようになり、重症のムコ多糖症のお子さんも早期に治療を受け始めることで、軽症の方の症状と大きく変わりない状況で生活できるようになってきたと感じています。もちろん定期的な医療的ケアは必要ですが、それでも医療の進歩を実感しています。

例えば、生まれてすぐの赤ちゃんを対象に、早期治療で発症を防ぐことができる病気を調べる「拡大新生児スクリーニング」もその一つです。公費の対象(無償)となる「新生児マススクリーニング」と異なり、「拡大新生児スクリーニング」は公共事業ではなく、検査費用の自己負担があるものがほとんどです。検査対象疾患や費用も、病院や地域によって異なります。私たちも、要望書を議員の方へお渡しして進めています。現在、拡大新生児スクリーニングは、脊髄性筋萎縮症(SMA)、重症複合免疫不全(SCID)など、一部の疾患の検査を対象に公費の対象とする地域も出てきました。ムコ多糖症についても、引き続き活動を続けていきたいと思います。

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ムコネットTwinkle Days代表 中井まりさん

先日ムコママ会メンバーから、拡大新生児スクリーニングによってムコ多糖症Ⅱ型とわかったご家族のお話を教えていただきました。早い段階から治療を受けられていることに対して、ご家族がとても感謝されているとのことでした。拡大新生児スクリーニングを受けてくださったことに対して、私たちも本当に感謝の気持ちでいっぱいです。

私たちは、なかなかお子さんの確定診断がつかず、つらい思いをされているご家族を減らしていきたいです。また、子どもたちには早期診断・治療によって成長していただき、ぜひ社会で活躍してほしいと願っています。ですから引き続き拡大新生児スクリーニングに関わる発信を続けていきます。

どういった支援があると、ムコ多糖症の早期診断・治療開始につながると感じておられますか?

自治体は、財政難などで大変な状況もある中で、少しでもご家族側の負担が軽減されるようにと考え、いろいろな取り組みを進めてくださっていると伺っています。例えば、以前と比べて、インターネットの検索で、自治体ごとの拡大新生児スクリーニングの対象疾患や検査費用がわかるようになりました。これも、うれしい変化の一つだと感じています。

その上で、さらに情報を届けようと考えた時、妊婦さんやそのご家族向けの自治体イベントなどで周知していただくなども一つの選択肢かなと考えます。こうした支援により、一日でも早く、どの自治体でも公費で拡大新生児スクリーニングを受けられるような体制が整ってくださることを願うばかりです。

遺伝に対する正しい情報発信も必要に

現在もまだ不足していると感じられている情報はありますか?

以前と比べて、インターネットを使ってどなたでもムコ多糖症の正確な情報を知ることができるようになりました。ただ、人々の「遺伝」に関する正しい情報については、まだまだ発信が必要だと感じています。

20年近く前、私が初めて対応したご家族からの相談が今でも忘れられません。それは「自分は、結婚しても良かったのでしょうか?」といった内容でした。このご家族は、ムコ多糖症II型のきょうだいがいらっしゃる女性で、当時から病気についても積極的に発信活動を行っていました。ムコ多糖症II型の場合、「X連鎖劣性(潜性)遺伝」という遺伝形式をとります。

X Linked Recessive Inheritance

恐らく、そのことを詳しくご存知ない状況で、親御さんからは、「結婚してはいけない」とだけ強く言われてこられたとのことでした。当時の私は「X連鎖劣性(潜性)遺伝」を知っていたのですが、彼女にどのように伝えるべきかわからず、遺伝形式のことはお話できませんでした。20年経った今もこのことを思い出し、申し訳ない気持ちでいます(編集部注:ムコ多糖症は、II型以外は、「常染色体劣性(潜性)遺伝」という遺伝形式をとります)。そして、今も、こういったことに悩まれているご家族は多くいらっしゃる印象を受けます。

現在は、少しずつ遺伝カウンセリングの体制も整ってきました。一方で、当事者以外の方にまでは、遺伝に関わる正しい知識や認識が広まっていないように感じます。ムコ多糖症だけでなく、多くの遺伝性疾患に関わる正しい情報が届いて欲しいです。そして何より、多くの難病の早期診断・早期治療が進んで欲しいと願わずにはいられません。

あなたは一人ではない、私たちも一緒だよ

最後に、遺伝性疾患プラスの読者にメッセージをお願いいたします。

改めて、あなたは「一人ではない」ということ、そして「私たちも一緒だよ」とお伝えしたいです。もしご自身が「一人だ」と感じることがあれば、ぜひつながりを持っていただけたらと思います。その選択肢の一つとして、私たちの活動があることも知っていただけるとうれしいです。


ムコ多糖症をはじめとした希少疾患では、「同じ病気の当事者やご家族と会ったことがない」という方もいらっしゃるかもしれません。今回、中井さんのお話を伺い、そのような中でも「一人ではない」と思えるつながりがあることが大切なのだと、改めて実感しました。ムコネットTwinkle Daysは、日本全国、そして、海外から参加している方もいらっしゃる団体です。ぜひ、ご自身にあった方法でつながりを持っていただけたらと思いますし、その選択肢の一つとして同会の活動を知ってみてください。(遺伝性疾患プラス編集部)

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