フェニルケトン尿症親の会連絡協議会、「当事者・ご家族がつながる場」を守り続けて50年

遺伝性疾患プラス編集部

血液中に、アミノ酸の一種であるフェニルアラニンの量が通常より増加することでさまざまな症状が現れる、遺伝性疾患・先天性代謝異常症のフェニルケトン尿症(以下、PKU)。「新生児マススクリーニング検査」という、生後の早期治療で症状を防ぐことができる病気を見つけるための検査の対象となっている疾患の一つです。また、国の指定難病対象疾病であり、小児慢性特定疾病の対象疾患です。

今回活動をご紹介するのは「フェニルケトン尿症親の会連絡協議会(以下、PKU親の会)」です。同会代表の塚田功さんは、お子さんが新生児マススクリーニング検査によりPKUと診断を受けました。塚田さんが同会に入られたのは、新生児マススクリーニング検査が始まる「前」と「後」で経験が異なるご家族が混在していた時代。そのため、さまざまなご家族の思いを伺う中で、運営に関わるようになったそうです。1972年から活動が続く、歴史のある同会。今回は、その活動内容について詳しく伺いました。

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PKU親の会 ウェブサイトより
団体名 フェニルケトン尿症(PKU)親の会連絡協議会
対象疾患 フェニルケトン尿症
対象地域 全国
会員数 186名(2024年4月現在)
設立年 1972年
連絡先 公式ウェブサイトの「お問い合わせフォーム」から
サイトURL https://www.japan-pku.net/
SNS PKU親の会・関東 Instagram
主な活動内容 東北・関東・東海・関西・九州の5つの地域で支援活動を行う。当事者やご家族の交流、情報交換の場を設ける。医師や栄養士などの医療従事者とのつながりもあり、当事者の声を行政に届ける活動も行っている。

1972年設立の親の会、5年後に新生児マススクリーニング検査開始も認知度に課題

1972年設立時、どのように活動が始まったのでしょうか?

1950年頃、日本で初めてPKUの患者さんが確認されました。当時は、現在のように新生児マススクリーニング検査もない時代です。ですから、PKUに関わる情報を求めて、当事者のご家族が医師のもとへ集まり、次第に活動をスタートさせていったと聞いています。最初は、悩みごとを相談する場としてご家族同士つながっていったようです。

塚田さんのお子さんがPKUと診断を受けたのは、いつ頃ですか?

日本で新生児マススクリーニング検査が開始されたのが、1977年。私の娘は、1986年生まれです。つまり、スクーリング開始後の生まれになります。ですから、ありがたいことに娘は生後すぐにPKUと診断され、治療を受けることができたんですね。また、娘が生まれた頃というのは、開始直後のスクリーニングにより診断・治療を受けているお子さんたちが、ちょうど小学生になっている頃でした。先輩ご家族の経験がある程度集まってきた頃に当会に入ることができたので、私はそういった面でも恵まれていたと思います。

娘さんが幼かった頃、PKUに関して印象的だった出来事があれば教えてください。

当時は、PKUに対する誤った認識により心苦しい思いをしていたことが、印象に残っています。例として、私が当時体験した自治体の対応についてお話しします。早期治療開始のおかげもあって娘は順調に発育し、私だけでなく妻も働くことを家族で考え始めました。彼女が「仕事を辞めずに、フルタイムで働き続けたい」と希望していたためです。当時はまだ珍しいケースだったのですが、私も彼女の考えを尊重したいと思い、家族で決めました。

そこで、まず公立の保育園への入園手続きを始めたのですが、「PKUを持っている子は、預かることはできません」と、断られてしまいました。やむなく20か所ほどの私立保育園にお願いの電話をかけて、全て断られたほどです。新生児マススクリーニング検査が始まっている時代にも関わらず、この受け入れ側の対応には、心が折れそうになりました。私たちは幸いにも、個人の方に預かっていただけることになり解決したのですが、PKUを社会に正しく知ってもらう必要性を痛感した出来事でした。

PKU親の会の中にも、同じように心苦しい思いをされていた方はおられましたか?

さまざまなお話を伺っています。例えば、小学校への入学時にPKUの説明を学校側にすると「特別支援学級が良いのでは?」と提案されたというご経験は、特に印象的でした。そのような対応は必要ない病気にも関わらず、PKUに対する正しい理解が浸透していなかったために、ご家族がこのような状況に追い込まれていたんですね。

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入園・入学時に教職員への説明用の資料なども配布中(PKU親の会ご提供)

また、当時はまだ親の会の中でも、新生児マススクリーニング検査が始まる「前」と「後」でご家族の経験が異なる時代でした。スクリーニングが始まる以前のご家族が涙ながらに、「あと何年か後に子どもが生まれて欲しかった。悔しくて仕方ない」とおっしゃっていた姿が、今でも忘れられません。当時は、そういった心苦しさもあったんですね。ですから、「私たち家族は、すぐに治療を開始できたのだから、娘をしっかり成長させてあげなくては」と、心を奮い立たせてきました。そういった思いもあり、自分も親の会の運営をお手伝いするようになったと振り返ります。

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平成9年1月発行『がんばりましょうPKU』、当時の会員さんたちが必要とされた情報がまとまった記念の書籍(PKU親の会ご提供)

交流会・料理講習会などで楽しくつながる、「安心」「情報」を得る

現在の活動エリアと活動内容について、教えてください。

東北・関東・東海・関西・九州の5つの地域で、活動しています。特に、関東・関西エリアは活発に活動が行われており、交流会や料理講習会などのイベントが定期的に行われています。

例えば、関東エリアではどういった活動が行われていますか?

定期的に、交流の場を設けています。例えば、コロナ禍をきっかけに始まったオンライン交流会では、お子さんを含めたご家族総出で、皆さん楽しく参加されています。お住まいの地域によっては、会場でのイベント参加が難しい場合もあると思います。ですので、ご自宅から気軽に参加できるオンライン交流会も開催しており、これもぜひ活用していただきたいと思っています。大人だけでなくお子さんたちも参加されているので、いつもにぎやかな雰囲気で開催していますよ。

また、コロナ禍も落ち着いてきたので、会場でも直接交流できる場として2024年は年1回の総会開催も予定しています。総会では毎回、親御さん向けの会場とは別に、保育室など準備をしており、小さなお子さんとご一緒に、ご家族で安心してご参加いただける環境づくりを心がけています。また、医師や栄養士の先生方が、お子さん向けに楽しくPKUを学べる場を設けてくださいます。親御さんはもちろん、お子さんも含めて「PKUはどういった病気?」「食事療法の基本とは?」を学び、最新の情報を得ることができます。また、料理講習会も開催しています。例えば、女子栄養大学短期大学部の先生や学生さんたちと連携して、PKU向けの低タンパク質の料理を一緒につくります。ご家族と直接会ったり、一緒に料理したり、といったつながる場を大切にしています。

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料理講習会の様子(PKU親の会ご提供)

また、お母さん方のアイディアで、成人を迎えたPKUの方へのお祝いもしています。その後もつながりが続いて、「結婚しました」など人生の節目でご連絡くださる方もおられ、個人的にも大変うれしく思っています。約50年続く会の活動を絶やさず、次の世代につなげていきたいと、改めて感じますね。

その他、同じ先天性代謝異常症の患者団体の日本メープルシロップ尿症の会、また、幅広く希少疾患の団体さんとのつながりもあります。一般社団法人日本難病・疾病団体協議会(JPA)にも加盟しており、患者さん・ご家族の治療環境改善のために協働しています。

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難病・慢性疾患全国フォーラムの様子(PKU親の会ご提供)
活動に参加し当事者やご家族とつながることで、どのようなメリットがありますか?

私は大きく2つあると感じていて、1つ目は「安心感を得られること」です。きっと、皆さんは主治医の先生から「きちんと食事療法をすることで、健常なお子さんとほとんど同じように発育します」と説明を受けられていると思います。ただ、実際に育児が始まると不安は尽きません。ですから、のびのびと育ち、楽しく遊んでいるPKUのお子さんたちの姿を見ることで「何だか、ほっとしました」「うれしくなりました。頑張ります!」と、おっしゃるご家族がいらっしゃいます。そして、同じPKUと向き合うご家族とのつながること自体が、安心につながります。それはきっと、設立当初も今も変わらないことの一つでしょう。

2つ目は「情報を得られること」です。どの交流の場でも、皆さんが楽しい雰囲気をつくってくださるので、お話が尽きません。最初は緊張されていたという方も、少しずつ安心して心を開かれていく様子です。PKUの生活に関わる心配ごとは、先輩ご家族が同じように経験されている場合がほとんどなので、ぜひ聞いてみていただきたいですね。活動に参加することで、一人だけなく複数人の方々の経験を聞くことができるので、その中からご自身に合ったものを選ぶことができます。そんな風にして、何か一つでも持って帰っていただけたらうれしいです。

当事者からPKUを発信しよう、「必要とする支援」とあわせて

活動に参加されている当事者・ご家族からは、どのような声が寄せられていますか?

時代に関わらず多いと感じるのは、「同じPKUと向き合う方とつながることができてうれしい」という声です。例えば、料理講習会など直接お会いする場もあります。最近ですと、親しくなってLINEやSNSでもつながり、さらにお話が盛り上がったということも伺います。

塚田さんご自身が、特に印象に残っている声を教えてください。

最近、個人的にうれしく感じたのは、新聞の投書を通じて自らPKUの経験を発信してくださったご家族の声です。地方にお住まいで、2人のお子さんがPKU当事者という若いお母さんです。新聞の投書を読まれた別のお母さんと、偶然にもSNSでつながることができたそうなんです。その方は当事者ご家族ではなく、新聞の投書をきっかけにPKUを初めて知ったとのことです。PKUを調べていくうちに、たまたまPKUのお母さんのSNSにたどりついたというお話でした。他にも、主治医の先生や栄養士さん、お子さんの学校の先生も記事を読んでくださり、励ましの言葉を受け取ったそうです。この経験から、「当事者自身でPKUを発信することの大切さを感じた」とおっしゃっていました。

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新聞の投書をきっかけにPKUを調べた方と、SNSでつながったエピソードも(写真はイメージ)

以前に比べれば、PKUの認知度も改善されてきたかもしれません。しかし、まだまだマイノリティな希少疾患だと痛感しています。広く社会に知っていただくためには、当事者が発信することが大切だと私は思います。まずは、当会などで当事者とつながっていただくことで安心や情報を得ていただき、そこからPKUの発信も考えていただけたらと感じています。

当事者ご自身が発信する際のポイントとして、塚田さんはどのようなことがあるとお考えですか?

具体的に「〇〇してください」と、必要としている支援をお伝えることはポイントの一つだと思います。別の希少疾患の方が以前、こんなことをお話されていました。「なかなか疾患に対する理解が広まってない中で、『私たちの疾患を知ってください』と言うことは大切。でも、希少疾患の場合それだけでは足りない。だから具体的に『〇〇を~~してください』と、あわせて発信したいよね」と。もちろん、発信したからといって全てが結果につながるとは限りません。でも、当事者自身の発信がきっかけとなり、先程ご紹介したお母さんのように、思いがけず、良い結果を得ることもあるかもしれないのです。私自身も、改めて発信することの大切さを実感しました。

そして、あわせてお伝えしたいことは、「何か特別な活動をしなくても、当事者とつながっていることだけで大切な活動だ」ということです。以前、「会に所属しているだけで、立派な活動だ」とおっしゃっていた方がおられました。私も、そう思います。時折、「会に入ったけど、何も活動できなくて申し訳ない」とおっしゃる会員さんがいらっしゃいます。でも、全然そんなことはないのです。もし、忙しくて積極的に活動に参加できなくても心苦しく思わなくて大丈夫です。会に所属している、つまり、いつでも頼れる当事者・ご家族とのつながりを持っていることが大切であり、それだけで立派な活動だと私は思います。

マイノリティだからこその苦労もある、希少疾患全体で連携を

当事者・ご家族から寄せられるお悩みの中でも、塚田さんが特に課題と感じていることについて教えてください。

「遺伝カウンセリング」に関する情報提供です。私は、30年以上当会の活動に関わってきましたが、以前は「食事療法」に関するお悩みが中心でした。しかし、最近増えていると感じるのは「遺伝」に関わるお悩みやご相談です。例えば、「子どもがPKUで、2人目をどうしようか…」「PKUの遺伝子治療の開発って、どうなんでしょう?」といったご相談です。これはPKUに関わらず遺伝性疾患全体で考えていきたいことだと思いますが、遺伝カウンセリングのことをぜひ知っていただきたいです。今後、全国的に認定遺伝カウンセラー(R)の体制が整っていくことを期待します。

最後に、遺伝性疾患プラスの読者にメッセージをお願いいたします。

希少疾患であるために、皆さんは、さまざまな苦労をされていると思います。以前に比べれば、日本の環境も良くなってきたと感じる一方で、海外と比べると遅れている部分も多くあると感じています。繰り返しになりますが、希少疾患はマイノリティだからこそ、自身で発信していくことが大切です。発信は、一人だと大変かもしれません。ですから、PKUや、希少疾患全体で手をつなぎ、連携していきましょう。ぜひ、皆さんで力をあわせて活動していきたいですね。


新生児マススクリーニング検査が始まる前から活動している、PKU親の会。当時から、ご家族はさまざま葛藤を抱えておられ、塚田さんご家族もまた、病気への正しい理解が浸透していない状況に苦しまれてきました。2024年現在も、PKUへの理解は十分と言えません。だからこそ、「当事者や家族がつながる場を無くしてはいけない」と、塚田さんは繰り返しおっしゃっていました。

また、「積極的に活動に参加できなくても、心苦しく思わなくて大丈夫」というお話も印象的でした。まずは、ぜひ当事者・ご家族とつながってみましょう。そして、塚田さんの言葉をお借りすると「それだけで立派な活動」と考えることも大切なのかもしれません。その選択肢の一つとして、PKU親の会の活動をぜひ知ってみてください。(遺伝性疾患プラス編集部)

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