患者会がない希少疾患も含め、政策に当事者視点を反映させることが課題
大阪大学を中心とする研究グループは、「コモンズプロジェクト」の患者さんや行政経験者などのメンバーとともに、「希少疾患の患者さんが直面する困難の全体像」と「希少疾患領域で優先すべき研究テーマ」を明らかにしたと発表しました。
近年、政策を形成する際に、何らかの根拠をもとに政策を立案・実装することが求められるようになってきました。あわせて、政策を形成する過程に当事者が関わることの重要性が認識されています。医療・健康分野では、医療現場における意思決定や医学の研究に患者さんが参画できるように変わりつつあります。
一方、「どのようにすれば患者さん視点を政策の形成過程に効果的に取り込めるのか」という問題については、明らかにされていませんでした。特に、希少疾患領域では現状、一部の患者会が陳情として意見を伝えることに留まっています。そのため、「患者会がない」または「患者会活動が活発ではない」希少疾患の患者さんの声も含め、政策により客観的な形で患者さんの声を反映させることが課題です。
10希少疾患の当事者・研究者などが継続的に熟議、互いの考え方を学び合う
研究グループは、患者さん・ご家族を含むさまざまな立場の人(ステークホルダー)が継続的に意見を交わし、政策形成の際に参照可能なエビデンスを生み出すような場(コモンズ)を作ることを目指し、「コモンズプロジェクト」を開始しました。
今回の研究では、10希少疾患の患者さん・ご家族21人、研究者17人、行政経験者5人(合計43人)が計25回のワークショップを通して継続的に熟議を行いました。その場を通して、参加者が互いの視点や考え方を学び合い、自身の成長と信頼関係の醸成を実感できたことが、議論の深化に大きく寄与したそうです。
多岐にわたる当事者の困難を提示、優先度の高い研究テーマを明らかに
今回の研究の結果、希少疾患の患者さんやご家族は、診断や治療といった医療面に関することだけではなく、生活面や心理面の負担、つながりや情報、認知・理解の不足をはじめとする、多岐にわたる困難に直面していることを改めて整理して提示しました。
また、そのような困難に対する研究テーマの優先順位についても、議論しました。その際、「優先順位を設定するための基準=判断基準」を参加者全員で考えて選び、その判断基準を当てはめることで優先順位を設定しました。その結果、7つの研究テーマが優先的に取り組むべき課題として抽出されました。具体的には、「日常生活の支障」「経済的な負担」「就労就学の悩み」などの生活面に関するもの、「不安」や「悲観」、「遺伝性疾患に特有の心理」といった精神心理面に関するもの、通院の負担(時間的・労力面の負担など)の軽減や解決を目指すものが挙げられました。
その他、「研究者や行政経験者よりも患者さんやご家族が重要視した判断基準」や「特定の観点を持つ判断基準」を用いることで、別の観点から優先度の高い研究課題を明らかにしました。
当事者も研究参画で論文を共同執筆、政策提言も
今回の研究では、患者さん・ご家族も共に研究を進める立場として参画しました。議論の進め方や結果のまとめ方についても共に検討を行い、論文も共同執筆しています。日本結節性硬化症学会ファミリーネット、NPO法人日本マルファン協会、MECP2重複症候群患者家族会、日本ハンチントン病ネットワーク、しらさぎアイアイ会(網膜色素変性症&類似疾患の患者、家族の会)、NPO法人筋強直性ジストロフィー患者会、NPO法人HAEJ(遺伝性血管性浮腫患者会)が、共同研究者として参加しています。なお、同研究プロジェクトからは「患者の視点を反映した研究・政策形成に向けての提言」と題する政策提言も行いました。
今回の研究成果は、希少疾患領域の政策形成、特に今後の研究助成のあり方などを考える際に参照可能なエビデンスとして役立つと考えられます。また、今回用いられた手法は、希少疾患領域を超えて、医療・医学、その他の政策形成の過程にステークホルダーが関与する方法として、今後の応用が期待されます。(遺伝性疾患プラス編集部)