不完全浸透と多様な表現度とは?

遺伝性疾患プラス編集部

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不完全浸透と多様な表現度は、遺伝的変化の影響がどう現れてくるかを決定しています。これらの要素は通常、常染色体優性(顕性)遺伝形式を持つ疾患と関連していますが、常染色体劣性(潜性)の遺伝形式を持つ疾患でも関連することがあります。

不完全浸透

浸透率とは、ある遺伝子変異を有する人のうち、遺伝性疾患を発症する人の割合を指しています。もし、その遺伝子変異を有する人の中に発症しない人がいる場合、その疾患は浸透率が低い(または不完全である)と言います。不完全浸透は、家族性腫瘍症候群でよく認められます。例えば、がんリスクの上昇に関連するBRCA1またはBRCA2遺伝子の変異体を持つ多くの人は、生涯のうちにがんを発症しますが、中には発症しない人もいます。医師はこれらの変異体を持っている人のうちどの人ががんを発症するか、または腫瘍がいつ発生するかを予測することはできません。

不完全浸透は、遺伝的、環境的、生活習慣的な要因の組み合わせによって生じていると考えられていますが、その多くはよくわかっていません。遺伝学の専門家が、ある人の家族歴を解釈して次の世代に遺伝的疾患を引き継ぐリスクを予測しようとした場合、この現象があるためにその予測が困難になることもあります。

多様な表現度

遺伝性疾患の中には、ほとんどその特徴に幅が認められないものもありますが、ほとんどの場合には罹患者の間で症状や徴候に違いが認められます。つまり、同じ遺伝性疾患の中でも、人によって現れる症状や徴候の幅が異なります。これを、多様な表現度(variable expressivity)と言います。例えば、マルファン症候群の場合であれば、症状が軽い人(背が高く、やせていて、指が細長いなどの症状だけが認められる)もいれば、心臓や血管に命にかかわる合併症を起こす人も存在し、人によってさまざまです。症状は多様ですが、ほとんどの人が同じ遺伝子(FBN1)の変異を有しています。

不完全浸透と同様に、多様な表現度は、遺伝的要因、環境要因、生活習慣の組み合わせによって生じていると考えられますが、そのほとんどがまだ特定されていません。ある遺伝性疾患が多様な徴候や症状を示す場合には診断が困難となることもあります。(提供:ステラ・メディックス)

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